レクサスRC300h“バージョンL”(FR/CVT)
口あたり良く、癖もなく 2014.12.29 試乗記 レクサスブランド待望のミドルクラスクーペ「RC」。わが国における一番人気のモデルは「RC300h」という。熟成を重ねるレクサス・ハイブリッド・ドライブは、“ラジカル・クーペ(RC)”の名にふさわしい走りをもたらすだろうか。最上級グレードの“バージョンL”に試乗した。復活したクーペ
日本発のグローバル・プレミアムブランドを掲げて2005年に再スタートを切ったレクサスだが、実際には今も北米が一番大切な市場であることはご存じの通り。にもかかわらず、あちらで根強い人気を持つラグジュアリーなクーペはなぜかこのところラインナップされていなかった。9年前にレクサスブランドがリスタートした時には、V8エンジンを搭載した「レクサスSC430」という電動ハードトップ付きのぜいたくなクーペがあり、国内でもそれまでの「トヨタ・ソアラ」(4代目)にマイナーチェンジを加えた上で海外と同じ「SC430」としてあらためて発売された。SCはパフォーマンス志向というよりも、悠揚迫らぬ穏やかな走りっぷりが特徴のぜいたくなクーペであり、個人的にもそのまったりとした独特の雰囲気を気に入っていたのだが、そのSCも2010年に生産終了、それ以降ほぼ4年間、クーペ不在が続いていたのである。もちろん「LFA」も「IS C」も一応クーペではあったが、限定生産のスーパースポーツは別格だし、「IS」ベースのオープントップもプレミアムブランドを象徴するクーペとは言いがたかった。そこに登場したのが“ラジカル・クーペ”を意味するというRCである。
477psを誇る5リッターV8搭載のトップモデル「RC F」はさておき、ノーマル系RCは3.5リッターV6搭載の「350」とハイブリッドの「300h」の2本立てである。そのうちの主力車種と目されるのがハイブリッドの300h、実際、発売から約1カ月の受注状況を見ても350が約500台、300hが1200台とおよそ7割を占めている。ちなみにRC Fは900台という。これは月販目標台数に対しては何十倍(!)という数字になるらしいが、それよりも私が驚いたのはRCの月間計画台数が80台、RC Fを入れても110台にすぎないということだ。北米市場をメインとしているのは事実だろうが、全部足しても年に1500台足らずで計画達成というのだから、控えめというよりは何ともさびしい設定数である。
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スポーティーではあるが
RCの最大の特徴は抑揚の強いアグレッシブなスタイリングだろう。巨大なグリルといい、派手にフレアしたフェンダーといい、ひと目で最新のレクサスファミリーであることを印象付けるのには成功しているし、ダイナミックな迫力も十分、全体的なプロポーションもまとまっている。ただし、エレガントでラグジュアリーというよりは、スポーティーでアグレッシブであることを強調しすぎているように見える。特にハイブリッドモデルについては、見た目と走行感覚の落差が大きく、何か別のアイデアがあってもよかったと思う。またボディーのディテールの処理などは、昔風に言えば劇画調である。一見フィン付きのエアアウトレットに見えるリアバンパー両サイド部分は、実は開口部が開いていないただの“装飾”で、しかもなぜか高性能版のRC Fには採用されていない。クーペは大人の車であるはずなのだが、こういう点がどうしても子供だましのコスメティックに見えてしまうのが残念だ。
それ以上に残念なのがインテリアの演出の仕方である。「NX」も同様だが、すべて以前に見たことがあるコンポーネントで成り立っているからか、新鮮味に欠けているように感じるのだ。一分の隙もなくかっちり奇麗に仕上げられてはいるものの、華やかというよりビジネスライクであり、ラグジュアリーというより手堅く、整然としている。例えば、メーターナセルのトリムのステッチなどの“目”があまりにもそろっており、不自然さを感じてしまうのだ。この辺は趣味の問題かもしれないが、機能的には文句ないとはいえ、少なくともドイツ御三家をはじめ、他のラグジュアリーブランドを知る人から見れば平凡なレベルだ。なによりもボディースタイルに比べて随分と保守的に感じる。
2名用のリアシートは横方向に広く、足元もまずまず不足ないスペースを備えているが、ヘッドルームだけはぎりぎりだから、小柄な人か子供用と考えておいたほうがいい。ハイブリッド用ニッケル水素バッテリーはラゲッジルームのフロア下に収められているおかげで、リアシートのバックレストは6:4の分割可倒式になっている。
新鮮味のないハイブリッド
回せば意外なほどに野性味もあるV6自然吸気エンジンに比べて、ハイブリッドパワートレインがいまひとつ物足りなく感じるのはセダンのISとまったく同じだった。178ps(131kW)/6000rpmと22.5kgm(221Nm)/4200-4800rpmを生み出す2.5リッター4気筒エンジンに143ps(105kW)/30.6kgm(300Nm)のモーターを加えたハイブリッドシステムは、「IS300h」や「クラウン ハイブリッド」と同一。システム最高出力は220ps(162kW)あるから、出足はもちろん滑らかで十分に軽快、実用上はまったく不足ない。もっとも、ボディーはもちろん「クラウン」よりはコンパクトだが、300hの車重はクラウンよりむしろ重い1740kgとくれば走りっぷりもだいたい想像できるというものだ。ダイナミックで迫力満点のボディースタイルに比べると、ずいぶんとおとなしいというか実用向けのパワートレインである。
さらにハイブリッドとはいえ、実用燃費についてももはや飛び抜けたレベルではないし、いかにステップを刻んだ疑似マニュアルモードが付いているとはいえ、やはり電気式CVTは加速感にメリハリがなく、平板というのが正直な感想だ。ちょっとぜいたくで洗練されたコミューターと考えれば取り立てて不満はないのかもしれないが、600万円クラスのクーペならばもっと際立つ特徴があってしかるべきだろう。
癖がないのはいいことか
はっきり言って平凡なパワートレインとは対照的に、ハンドリングや乗り心地などのダイナミックなクオリティーは上々である。最近のレクサスは新型モデルが登場するたびにボディー剛性やサスペンションの洗練度が明らかに進化していることが見て取れるが、最新作のRCはさすがに一番進んでいると言える。どこにも緩みがないようながっちりしたボディーとしなやかに動くサスペンションによるフラットで滑らかな乗り心地、適切なレスポンスでリニアに反応するステアリングなどは現行レクサスの中でベストと言っていい。だからこそ、打てば響くようにダイレクトに応えてくれるパワーユニットがなおさら欲しくなる。
迫力満点のデザインが気に入ったのならそれで十分(私は気恥ずかしいので遠慮するが)、隅々まで配慮が行き届いた緻密なフィニッシュ、あるいはパワフルではないが滑らかで洗練された走行性能を重視する人ならRC300hを選んで間違いはない。いっぽう、そのダイナミックな外観に見合う活気あふれるパフォーマンスを求めるならば、V8とまではいかなくてもV6モデルのほうがいい。ただしそちらも洗練されてはいるが、従来通りで目新しさのないエンジンだ。ボディーやシャシーがレベルアップしてあらためて浮かび上がるのは、正念場を迎えているレクサスにいま最も必要なものは新しいパワーユニットであるという事実だ。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
レクサスRC300h“バージョンL”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4695×1840×1395mm
ホイールベース:2730mm
車重:1740kg
駆動方式:FR
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:178ps(131kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:22.5kgm(221Nm)/4200-4800rpm
モーター最高出力:143ps(105kW)
モーター最大トルク:30.6kgm(300Nm)
タイヤ:(前)235/40R19 92Y/(後)265/35R19 94Y(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:23.2km/リッター(JC08モード)
価格:629万円/テスト車=680万9480円
オプション装備:フロント235/40R19+リア265/35R19 タイヤ&アルミホイール(4万2120円)/プリクラッシュセーフティシステム+レーダークルーズコントロール(6万4800円)/クリアランスソナー&バックソナー(4万3200円)/ブラインドスポットモニター+リアクロストラフィックアラート(6万4800円)/レーンディパーチャーアラート+オートマチックハイビーム(3万7800円)/“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム(23万8680円)/寒冷地仕様(ヘッドランプクリーナー、リアフォグランプ、ウインドシールドデアイサー等)(2万8080円)
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:2249km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:264.1km
使用燃料:24.4リッター
参考燃費:10.8km/リッター(満タン法)/11.5km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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