レクサスRC 開発者インタビュー
枠を外した。カッコよくなった! 2014.11.06 試乗記 Lexus International製品企画 主査
草間栄一(くさま えいいち)さん
レクサスのイメージを変える! そんなミッションを背負った新型クーペ「RC」は、どのようにして生み出されたのか? チーフエンジニアに話を聞いた。
デザイナーが自信を持てるパッケージ
並べられた「レクサスRC」をひと目見て、おやおや、と思った。妙にカッコいいのである。喜ばしいことではあるが、レクサスブランドでは久しぶりの2ドアクーペの登場ということで、少しばかり点が甘くなっているかもしれない。気を引き締めなおして、開発エンジニアのインタビューに臨んだ。
実はこのクルマ、「IS」と「GS」の間にクーペを作りたいからお前やれと言われて、2カ月半くらいで大体のパッケージとかサイズ感は決まっちゃったんですよ。1年くらいかけることもありますから、これは相当早いんです。
RCのコンセプトとして「見るものを魅了し、誘惑する“Sexy”なデザイン」というトンガッたコピーが使われているが、草間さんはどちらかというと“のび太顔”であったかいお父さん系の人だ。どうやってイメージを作り上げていったのだろう。
早くサイズ感を決められたのは、こうすればカッコよくなるということがわかっていたからなんですよ。全幅を広くとって、キャビンはあまり大きくしない。車高は下げて、とにかく1400mmは切りたいよねと……、実際はギリギリの1395mmなんです。そして、ホイールベースも全長も短くする。そうすれば、カッコいいのが作れるんじゃないかと、すんなり決まったわけです。
――デザイナーが突っ走って、かなり自由にやっちゃったのでは?
というより、自然にこうなったんです。サイズ感を決めると、デザイン部門から「これならできるよ!」と言われました。デザインの方向性に、極めて理想的な寸法になっている、と。デザイナーが自信を持てるパッケージだったんです。
図に乗って60mmはみ出した
――市販モデルになると、最初のデザインから相当違ってしまうことも多いですよね。
それが、今回はほとんど変わってないんですよ。なにしろ、イメージスケッチじゃなくて、最初からいきなり1分の1のクレイモデルを作っちゃいましたから(笑)。
――クレイモデルをそのままの形で生産するのは大変では?
そこは、ものすごく協力してもらいました。社内の生産部門で要件が決まっていて、本当はその中で作らなければならないんです。でも、実はISの時に30mmほど逸脱していました。それで図に乗って(笑)、今回は60mmはみ出しちゃったんですね。社内的には、ものすごくハードルの高いことなんですよ。このクルマには、みんな協力してくれたんです。じゃあちょっと型を作らせてくれ、ということで何度もトライして。最終的に、「いいよ、やるよ」と。
――コストがかかるんですか?
コストというより、量産技術のプラスアルファが必要になってくるんです。おかげで、リアのホイールアーチの張りが、このセグメントのほかのクルマにはないと思うんですよね。ひとケタ違う価格のクルマの造形じゃないかな、と僕は思うんです。
新しいボディーカラー「ラディアントレッドコントラストレイヤリング」についても、営業から工場まで社内外の担当者の協力なしでは量産化は難しかったという。
こんなことって、会社人生で初めてです。なぜ「やろうぜ!」と一致できたのかというと、みんなが欲しいと思ったからですよ。こういうものを作りたい! という思いが、みんなの中にあったんでしょう。
たくさんの担当者を“協力したい”という気にさせたのは、草間さんの柔らかな“のび太顔”も功を奏したに違いない。そんなことを考えていたら、つい、ちょっと失礼なことを口走ってしまった……。
もともとポテンシャルはあった
――みんなでカッコいいものを作ろうという意思統一ができたというのは、三河の会社の今までのイメージとは違いますね。
……いや、そう言ってもらえるのはうれしいですよ(苦笑)。カッコいいものを作れと指示されて、そのとおりに旗を振っただけなんです。だから、もともとポテンシャルはあったんですよ。悪者にするわけじゃないんですが、量産技術には標準化ということが必要で、それで諦めなければならないことも出てくるんです。でも、カッコいいものを作るために、このクルマでは今までの枠を外したんです。
――枠というのは、何か明文化されたものがあったんですか?
決まり事もありますが、なんとなく共有されていた枠があるんです。でも、これまで社内的には常識だよねとなっていたところの枠を、今回は外しました。ユーティリティーを気にするのはやめようとか、これまででは考えられないですよね。見た目だけじゃなく、走りに関しても同じです。このクルマは、FRとして楽しい走りができるのなら、チューニングも枠を外そうということでやりました。
――「乗るものを情熱的にさせるAgile(俊敏)な走り」とうたっていますが、具体的にはどういうことなんでしょう。
リアステアのLDH(レクサス・ダイナミック・ハンドリングシステム)を採用していて、ハードのデバイスはGSから持ってきています。でも、走ってもらえれば明確に違うことがわかります。走りをイメージさせるクーペで、しかもリアが張り出しています。だから、味付けもよりリアを踏ん張らせて回頭性をよくしました。
――エレガントさも強調していますね。
ドレスアップして乗ろうという時も、このデザインなら合うと思いますよ。通勤にも使えるし、友だちにサーキットに誘われればついていって速く走れちゃう。俊敏でありながら、安心してコーナーを抜けていくことができるんです。大きなことを言えば、このクルマを所有していただくと、ライフスタイルも変わるんじゃないかと思うんですよ。
社内のルールは破ってもいい
――レクサスには1989年から積み上げてきたものがありますから、枠を外すというのは不安もありませんか?
レクサスのイメージを変えるというのも、今回の大きなミッションなんです。だから、考え方から変えなくてはいけないんですよ。プロジェクトが始まった頃、各部署のリーダーを集めた会議でひとつクイズを出したんです。スタンフォード大学の教授が作った図形パズルで、固定観念にとらわれていては絶対に解けない問題なんですね。楽しくていいクルマを作ろうと思ったら、枠を外さなければいけないよね、ということを伝えたかったんです。これで意思統一ができて、仕事がしやすくなりました。
――レクサスらしさ、というのも変わったんでしょうか?
キーワードは、枠外しですから。言ってしまえば、GSまでは社内のルールに基づいてやっていたということなんです。でも、社内の話ですから。社外のルールは守らなければいけませんが、極端な話、社内のルールは破ってもいいんです!
――「もっといいクルマを作ろうよ!」って言われていますもんね。
そうです。社長のそのかけ声は、たぶんこのクルマのアクセルになっていると思います。
――「いいクルマ」というのを、勝手に解釈していいんですか?
それぞれの思う“いいクルマ”が、かなり許容されると思っています。社員はみんなそう思っているはずです。社長はもしかすると「違うよ……」と言うかもしれませんが(笑)、みんなそう思っています。
“のび太顔”だと思って油断していたら、草間さんは結構したたかだった。ただ、結果的にいいものができれば、誰も文句なんて言わない。次はどんな“枠外し”をやってのけるか、期待していますよ!
(インタビューとまとめ=鈴木真人/写真=峰 昌宏)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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