BMW X6 xDrive50i(4WD/8AT)
コンセプトは洗練 2014.11.14 試乗記 「SUV+クーペ」という大胆なコンセプトを持つ「BMW X6」が初のフルモデルチェンジを受けた。従来よりじわりと大胆、かつ躍動的なスタイリングに生まれ変わった新型。その存在感は先代モデルを超えたか? X6の生まれ故郷、アメリカはスパータンバーグからの第一報。小さな違いは大きな違い
世に言うSUVではなくSAV=スポーツ・アクティビティー・ビークルという言葉を使うBMWが、その派生形としてSAC=スポーツ・アクティビティー・クーペとして「X6」をデビューさせたのは、2010年のこと。SUVをよりにもよってクーペと融合させた、その斬新で大胆、あるいはぜいたくだし、大いに無駄でもあるそのコンセプトは、当時のリーマンショック後の世の中には、まったくそぐわないように見えたものだった。
しかしこのX6、結果としては大ヒットとなった。これまでの世界販売は実に26万台にも達しているというのだ。ざっくりとした数字で言えば、アメリカ・サウスカロライナ州のスパータンバーグ工場では毎日、「X5」の2~3割近い数のX6が生産されているという。こんな時代でも、いや、こんな時代だからこそ、こういうクルマを欲する人は少なくないのである。
そんなX6の初のフルモデルチェンジが、キープコンセプトで行われたのは当然だろう。その姿は誰が見ても、ひと目でX6と分かる。実際、車体の基本骨格も従来型から継承されているのだが、外板には従来と共通の部分はない。フロントマスクを見れば、最近のBMWのトレンドでヘッドライトはキドニーグリルでつなげられてワイド感が強調され、ボディーサイドにも前後のフェンダーを強調するようなプレスラインが入れられ、躍動感を高めている。
正直言って初見では、そんなに変わっていないように見えた。しかしながら新型の後に先代モデルを見ると、これが随分あっさりしているように見えるのだ。
より力強く、しかも効率的に
そのボディーは単に表面の形状を変更しただけではなく、ボンネットをアルミ製に、そしてフロントフェンダーを熱可塑性樹脂製とし、また見えない部分ではダッシュボードの支持部品をマグネシウム製とするなどの材料置換が行われ、車重を従来より40kgほど軽減することに成功している。それでも依然、2トンを優に超える重量級に変わりはないが、安全装備などの充実ぶりからすれば十分評価していいだろう。
エンジンも従来と同様で、今回試乗した「xDrive50i」にはV型8気筒4.4リッターツインターボが搭載される。ただし、スペックは最高出力が10%増の450psまで高められる一方、燃費は22%低減された。直列6気筒3リッターターボの「xDrive35i」も、少し遅れて登場の予定。残念ながら最大トルク75.5kgm(740Nm)を誇る直列6気筒3リッタートリプルターボ・ディーゼルの「M50d」は導入されない。日本での最近のディーゼル人気からすれば、これかもしくは「xDrive30d」の投入だって考えてもいいかもしれない。
そろそろ試乗してみよう。ステップに足をかけ、しかし低いルーフに気をつけながらよじ上るように室内へ。こちらの眺めはX5とほぼ共通で、クオリティーも同様に高い。特に「デザイン・ピュア・エクストラヴァガンス・インテリア」たる名前のつけられたバイカラーのナッパレザー仕様は、目に見える範囲すべてが柔らかなレザーと美しいウッドパネルで覆われていて、いかにもぜいたく。こんな伊達(だて)グルマを選ぶなら、そりゃ真っ黒の内装なんてナシだよな……と思わせるのは確かである。
そのフィジカルはスポーツカー並み
試乗はまずスパータンバーグ工場隣接のテストトラックでの限界性能テストから始まった。ウエットスキッドパッドでは4輪ドリフトに挑み、ショートコースではハンドリングチェック。ローンチコントロールを使ってのフル加速とフルブレーキ、そしてスラローム等々に、オフロード走行といった内容だ。
後輪を主体に、必要に応じて4輪への駆動力配分を行うxDriveに、左右後輪間の駆動力配分を調整するトルクベクタリング機能をもったダイナミック・パフォーマンス・コントロール、さらにはリアにエアサスペンションを備えたアダプティブ・サスペンション・パッケージと、電気仕掛けのこのシャシーは、車重2トンを超える背の高いSACを、確かにスポーツカーのように走らせる。さすがに簡単にドリフトを楽しめたりはしなかったが、フットワークは軽快だし、加速はのけ反るほどの勢い。ブレーキもまるで音を上げない。よく走るね……と、ただただ感心させられたる。
けれど、いくらX6といえどもそんな風に走らせる人はユーザーの1%も、いや0.1%だっていないだろう。では肝心な一般道での印象はと言えば、意外にも結構穏やか。さすがに20インチのタイヤ&ホイールは巨大過ぎて、始終コツコツ、ブルブルとした細かな突き上げを伴うが、乗り味自体はゆったりしている。
しかし、ドライビング・パフォーマンス・コントロールを「SPORT」や「SPORT+」へと切り替えると、にわかにレスポンスが引き締まる。トルクベクタリングの効果も嫌みにならない程度に、しかし確かに感じられて、小気味よく走れた。なるほど、モードごとにキャラクターが明確に分けられているわけだ。
もっと大胆でもいい
冒頭では偉そうなことを書いたのだが、実は筆者はこのX6、デビューした時から大のお気に入りなのだった。ぜいたくだし無駄だけど、そこに猛烈に引かれる。恐竜みたいなものだと言った人がいたけれど、今の世の中にだって一台くらいはこういうクルマがあってもいい。そう思っていたのである。
新型は、そんなX6の“らしさ”をうまくキープしながら、確実な進化を遂げたと言っていい。しかし正直に言えば、同じ路線で行くならば、初代の方がピュアでストレートで良かったとも思う。5年前でもそうだったのだから、2014年の今この時代に登場するのであれば、むしろもっと破天荒でも良かったかもしれない。
台数は出ているし、さらには弟分として「X4」も登場するなど、X6はもはや傍流ではなく、ラインナップを続々拡大中のBMWの、紛れもない主流のひとつになっている。それが、一方で逆に「絶対にこのクルマじゃなければ」と思わせる強烈な個性なり存在感を削(そ)いでいる気がしてしまうのだ。
まあ、それは一番にはやはりスタイリングということになるのだろう。これまでのX6を気に入っていた人なら、大いに満足できるに違いない。憧れていて、モデルチェンジを待っていたなんて人も、裏切られることはないはず。けれども今、このジャンルは競争が激しく、そろそろまさにX6を狙い撃ちしたライバルも登場しそうなだけに、ちょっと小さくまとまったかなとも感じたのである。
このX6、日本上陸はxDrive50iが2014年12月、xDrive35iが2015年2月とのこと。せめてユーザー諸氏には、大胆に乗りこなしていただきたい。
(文=島下泰久/写真=BMW)
テスト車のデータ
BMW X6 xDrive50i
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4909×1989×1702mm
ホイールベース:2933mm
車重:2170kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:450ps(330kW)/5500-6000rpm
最大トルク:66.3kgm(650Nm)/2000-4500rpm
タイヤ:(前)275/40R20/(後)315/35R20
燃費:9.7リッター/100km(約10.3km/リッター、EUモード複合サイクル)
価格:1185万円*/テスト車=--円
オプション装備:--
※数値は欧州仕様のもの。
*=日本での車両本体価格。
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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