MINIクーパーSD クロスオーバー(FF/6AT)
ディーゼルにも刺激を! 2014.12.01 試乗記 この秋、MINIの4ドアSUVモデル「クロスオーバー」に2リッター直4ディーゼルターボエンジン搭載車が加わった。MINIの走りの特徴であるゴーカートフィーリングは守られたのか、それとも……。パワー違いで2機種設定されるうち、パワフルな「クーパーSD」の方に試乗した。ふたつの「らしさ」
MINIのドライビングキャラクターを説明するのによく使われる“ゴーカートフィーリング”という言葉。これには、ふたつの意味が込められているような気がする。
ひとつは、まさしくゴーカートのように、ロールすることなく素早くパキッとコーナリングするさま。このキビキビ感こそがMINIの真骨頂と思っている人は少なくないだろう。きっと、1964年モンテカルロラリーを制したパディ・ホプカークのオリジナルMINIもそんな身のこなしをしていたはずだし、この流れは2001年にデビューした初代ニューMINI(なんか変な言葉だ)にも2代目ニューMINIにもしっかりと受け継がれていた。というわけで、MINIがもつ若々しいイメージにもぴったりのこのハンドリングは、いまも昔もMINIのコアバリューのひとつになっていると思う。
もうひとつの特色は、エンジンの音やサスペンションからの振動などが比較的ダイレクトに伝わってくる点。これもゴーカートフィーリングという言葉からただちに推測されるものだし、現代のMINIにも確実に引き継がれている、一種のDNAともいえるものだ。この手の音、振動、そして乗り心地のハーシュネスをひとまとめにしてNVHなんて呼んだりするけれど、新型車のNVHをいかに押さえ込むかに腐心しているほかのメーカーを尻目に、MINIだけはこれをある種の演出として利用しているような気がしなくもない。いや、間違いなくそうだろう。なにしろBMWの力をもってすれば、いまのMINI以上に静かに、滑らかで、快適な乗り心地にするなんてきっと簡単なこと。でも、それでは「MINIらしさ」が失われると考えて、あえてNVHを残している。それによってドライバーに自動車を操っている強い実感を与え、ビビッドな感覚を呼び覚ますことを狙っていると、私は常々考えていたのである。
だから、これまでのMINIは間違いなく若者向けのクルマだったし、若者と同じ気持ちを持つ大人のためのクルマだったといっても過言ではないだろう。
基本がD、パワフルなSD
さて、ここで紹介するのは日本仕様のMINIとして初めてディーゼルエンジンが搭載された「MINIクーパーSD クロスオーバー」というモデル。MINIといえば幅広いボディーバリエーションで知られるが、いまのところ日本仕様でディーゼルエンジンが設定されているのはクロスオーバーと「ペースマン」だけ。いずれも直列4気筒2リッターのターボチャージャー付きだが、クロスオーバーは同じエンジンをベースにして112ps/27.5kgmと143ps/31.1kgmというふたつのチューンを用意しているのに対し、ペースマンは112ps/27.5kgmのみとなる。
なお、グレード名は基本仕様が「クーパーD」で、パワフルなバージョンはクーパーSDと呼ばれる。ギアボックスはどちらも6ATのみ。駆動系もFFが基本だが、クロスオーバーのクーパーDのみAWDモデルがラインナップされ、「クーパーD クロスオーバーALL4」と名付けられている。
エンジンバリエーションとギアボックスをすべてマトリックス状にそろえているMINIにしては、これだけでもちょっとややこしい設定だが、さらにややこしいのが、MINIのシャシーとボディーが3代目に移行しつつあり、現在発売されているMINIのなかにも2世代目のものと3世代目のものが入り交じっている点にある。ちなみに、合計で7つのボディータイプが用意されているMINIのなかで、3世代目に移行しているのは3ドアと5ドアの2タイプのみ。つまりは、新たにディーゼルエンジンが設定されたクロスオーバーとペースマンは、いずれも2世代目ニューMINIを基本にしている、ということになる。
ちなみに3世代目はこれまでのMINIと少し方針が改められており、コーナリング時にはより自然にロールするようになった。というわけで、昔から「クルマはロールさせながら走るもの」と決め込んでいた私のようなオジサンにとっては、ちょっとだけ安心できる足まわりに生まれ変わったのである。
320dとはここが違う
試乗したMINIクーパーSD クロスオーバーに搭載されているエンジンは、基本的に「BMW 3シリーズ」に搭載されているのと同じもの。それに比べるとクーパーSDのほうが30%近くチューンは低いが、車重は「320d」の1550kgに対してMINIは1420kgと、思いのほか両者の差は小さい。
それでも、MINIのほうがローギアードな設定のためだろう、320dよりもはるかに活発な走りを見せる。とにかくボトムエンドから爆発的といっていいほどのトルクを勢いよく生み出してくれるので、少し湿った路面では簡単にホイールスピンを起こしそうになるほどだし(実際はトラクションコントロールが介入するので何事も起きない)、同じように滑りやすい路面では2速にシフトアップした瞬間にも駆動輪が軽くスリップしかけているのが感じられた。その小気味いい加速感は、まさに「はじけるような走り」と呼ぶのにふさわしい。
3シリーズと同じエンジンを積みながら印象の異なる点がもうひとつ。それがノイズだ。とりわけアイドリング時などには、ひと昔前のディーゼル乗用車のようなメカニカルノイズと燃焼音を響かせるのである。正直、「これはもうちょっと静かにさせてもいいのになあ」と思ったのだが、前述のとおり自動車の生の感触を伝えるのがMINIの基本姿勢なので、やむを得ないことなのかもしれない。
もっとも、エンジン音が気になるのはアイドリング時や低速走行時に限られるので、高速道路を淡々と走っているときはほとんど気にならないので安心されたい。
なにもかもが生々しい
6ATをマニュアルモード(指先で引いたり押したりできるBMW式のシフトパドル付き)で操作しながらスピードを上げ、中速ベンドに向けてステアリングを切り込んでいく。レスポンスは相変わらず鋭いし、狙ったラインをトレースするのはまったく難しくないけれど、思ったよりも余分にロールしてくれて、オジサンは少しほっとした。「いやいや、これくらいのバランスでいいじゃないか」と、思わずそんなことを口のなかでモゴモゴひとり呟(つぶや)きながら走っていたのだが、225/45R18サイズのグッドイヤー・エフィシエントグリップのグリップレベルは意外なほど高く、かなり無謀なことをしない限り、タイヤの限界を引き出せそうにない。
その理由の一端は、パワフルといってもエンジン最高出力が143psにとどまっていることもあるのだが、それ以上に、高い速度域でも粘っこいグリップを生み出してくれるリアサスペンションの働きが大きいように思える。おかげで攻めた走りをしても安心感が強いし、それは高いボディー剛性を誇る5ドアボディーも同様で、やはり強い安心感をもたらしてくれる。それは、走りの基本にかかわる部分は絶対に手を抜くことがない、実にBMWらしいクルマの作り方だと感じた。
とはいえ、繰り返しになるが、乗り心地だけはもうちょっとストローク感を出して、ゆったりした乗り心地にしてくれればいいのに、とオジサンは思わずにはいられなかった。いくらランフラットタイヤを履いているといっても、経験豊富なBMWであれば、もうちょっと快適な乗り味にだってチューニングできたはずだ。
でも、これがMINIなのである。ハンドリングもエンジンの鼓動も乗り心地もなにもかもが生々しく感じられる。その刺激に耐えられるほどの若さとエネルギーがなければ、MINIに乗る資格などそもそもないのだ。
かのゲーテは「青年は教えられることより刺激されることを欲するものである」と語ったそうだ。そんな人にこそ、このMINIをお薦めしたい。
(文=大谷達也<Little Wing>/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
MINIクーパーSD クロスオーバー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4120×1790×1550mm
ホイールベース:2595mm
車重:1420kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼルターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:143ps(105kW)/4000rpm
最大トルク:31.1kgm(305Nm)/1750-2700rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91V/(後)225/45R18 91V(グッドイヤー・エフィシエントグリップ)
燃費:16.6km/リッター(JC08モード)
価格:387万円/テスト車=513万円
オプション装備:スポーツ・サスペンション(4万1000円)/マルチファンクション・ステアリング(3万6000円)/ランフラット・タイヤ(1万9000円)/18インチ アロイ・ホイール 5スター・ダブル・スポーク・コンポジット アンスラサイト(19万円)/コンフォート・アクセス(8万8000円)/ブラック・ボンネット・ストライプ(1万7000円)/クロームライン・インテリア(2万3000円)/ブラック・リフレクター・ヘッドライト(2万6000円)/ピアノ・ブラック・エクステリア(3万2000円)/電動ガラス・サンルーフ(18万5000円)/ラッゲージ・セパレーション・ネット(2万6000円)/アームレスト(2万6000円)/スポーツボタン(3万1000円)/PDC(パーク・ディスタンス・コントロール)(6万2000円)/MINIビジュアル・ブースト(12万3000円)/レザー・グラビティ・シート(27万8000円)/メタリックペイント(ジャングル・グリーン)(5万7000円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1081km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:316.3km
使用燃料:20.8リッター
参考燃費:15.2km/リッター(満タン法)/15.9km/リッター(車載燃費計計測値)

大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。