ルノー・メガーヌ ルノースポール トロフィーR(FF/6MT)
生粋のリアルスポーツ 2014.12.04 試乗記 ニュル最速をうたうFF車「ルノー・メガーヌ ルノースポール トロフィーR」が日本に上陸。その完成度はどれほどのものなのか? 鈴鹿サーキットを舞台に、その走りを試した。欧州の自動車文化を育んできたニュル
飛んだり、跳ねたり、滑ったり――自らステアリングを握ってコースへと躍り出れば、そうした表現が決して大げさではないことが納得できるのが、ドイツはニュルブルクリンクの旧コース。そこはいわゆる“サーキット”の概念を覆すほど起伏が激しく、しかもその舗装状態は、あるポイントを境に突然大きく変わったりもする。
加えて、サーキットであれば当然のように完備されるエスケープゾーンがほとんど存在しないか、あっても申し訳程度の小ささ。もはや“昔話”の類いに入るが、それでもかつてこの場でフォーミュラ1のレースが開催されていたという事実は、正直言ってほとんど正気の沙汰とは思えないくらいだ。
一方で、地形がそのままに生かされた他に例を見ない“自然なコース”であるからこそ、世界の名だたる自動車メーカーがこの場を開発のため、あるいは走りのポテンシャルの確認のために用いるというのは、こちらもまたしごく納得できる事柄ではある。
ある時、各メーカーがこのコースを共同で借り切る占有時間帯に走行するクルマたちを眺めていたら、とある欧州メーカーのパネルバンが勢いよく走ってくる姿に仰天! ファミリーセダンに対してすら、「これはサーキットを走るようなモデルではありませんから」と平然と言ってのける日本のメーカーの開発陣がこんな光景を目にしたら、果たしてどのような思いを抱くのだろうか……。このコースは、欧州の自動車文化を育んできた場所そのものでもあるのだ。
ニュルでFF最速のコンビが鈴鹿に
一方で、そんなコースが目の前にあれば、そこでタイムアタックをしたくなるというのも人情(?)というものだろう。単にエンジンパワーがあるだけでは攻略しきれず、刻々と変化する路面を捉え続ける足まわりや、繰り返し求められる大きな制動力に耐えられるブレーキなど、さまざまなポテンシャルがバランスよく求められるのがこのコース。そこで好タイムをマークするということは、確かにある面、そのクルマの走りの総合力の高さを、客観的に証明するひとつの指標と言っても、過言ではないはずだ。
そんなコースで「量産FF車最速タイムを記録した」と豪語する、ルノーの最新作が日本にやって来た。しかも、タイムアタックを担当したテストドライバーも同時に来日するのに加え、前出の車両そのものもテストドライブさせてくれるという。そんな機会を逃すわけにはいかないだろう。というわけで勇躍訪れたのは、ご存じ鈴鹿サーキット。前出のルノースポール所属テストドライバーであるロラン・ウルゴンさんは昨年もここでタイムアタックを行っていて、「スズカのコースは大のお気に入り」という。
今回持ち込まれたのは、世界で250台が限定販売されるうち、日本には60台が割り当てられる「メガーヌ ルノースポール トロフィーR」。ベースの「メガーヌ ルノースポール」に対して「5000rpm以上でのトルクの落ち込みを抑えるようチューニングされた」というエンジンは、最高273psのパワーと最大36.7kgmのトルクを発生。軽量化のためにリアシートは廃され、レカロ製のモノコックシートが採用されるのも特徴だ。ちなみに、ニュルのタイムアタック車はさらに、軽量リチウムイオンバッテリー、6点式ベルト、パフォーマンス・ブレーキパックから成る「ニュルブルクリンク・レコードパック」を採用。日本仕様では未定だが、欧州にはオプション設定されているアイテムだ。
まるでFRのようなハンドリング
減衰力が調整可能なダンパーを「ウルゴンさん好みの状態にセッティングした」という標準仕様車に乗って、早速ピットロードからコースイン。本コースへと達した時点で、まずはあらためて1速、2速ギアでのフル加速状態を試してみる。
路面をかきむしるようなじゃじゃ馬状態にこそ至らないものの、さすがにトラクション能力の余裕は、もうさほど残されていない印象。吸気管内を空気が激しく流れることをイメージさせる高過給エンジンならではのサウンド……というよりはノイズが、搭載される心臓のハイパフォーマンスぶりを物語る。3速、そして4速に入ってからも強い加速力が続くのは、車両重量が1.3トンを下回る身軽さの恩恵も大きいはず。ちなみに、ベースの「メガーヌ ルノースポール」と比べると、こちらトロフィーRは100kg以上も軽量なのだ。
前述のように「高回転域でのパワーの落ち込みを抑えた」というエンジンは、一方で必ずしも高い回転数に向けてのパワフルさに長(た)けた感触でもない。ただし、ひとつ上のギアにバトンタッチ後も、即座にブーストが立ち上がってトルクをフルに得ることができる。このようにトルクバンドが広いために、シフトの頻度は比較的少なくて済む。これはニュルのような緩急さまざまなコーナーが続くツイスティーなコースでタイムアタックを行う場合には、なるほど大きなアドバンテージとなりそうだ。
ハンドリング感覚は、とにかく「アンダーステアが弱い」というのが第一印象。ターンインの時点で“外に逃げる”気配がないし、定常コーナリング中のアクセルオンでも同様。まるで後輪駆動モデルを操っているような錯覚にすら襲われる。
大変なバーゲンプライスだ!
そうこうするうちに割り当てられた数周はたちまち終了。いよいよ“ニュルアタック”を行ったという個体そのものへと乗り換える。このモデルが2014年6月に記録した「量販FF車最速」というタイムは7分54秒26。“走りのオプション”をフル搭載した最新型「ポルシェ・ケイマンS」の、7分55秒という記録を凌(しの)ぐのだから、それはやはり「とんでもない速さ」と言っていい。
加速感そのものは先のモデルと大差ない。大きな違いを感じたのは、そのハンドリングの印象だ。「アンダーステアを感じさせない」という先のモデルでの感覚を超えて、場面によってはオーバーステアの傾向すら現れる。ブレーキングシーンでは、リアの安定感が明らかにより低い。そこでステアリング操作をかぶせれば、すぐさまシャープなターンインの態勢に入ろうとするのだ。どうやらこれは、車両そのものの差というよりは、例の可変減衰力ダンパーの調整をメインとしたセッティングの違いという印象。今回の試乗車は、「ニュルを走行した個体を、鈴鹿サーキット用にセッティングし直した」というものだが、そこにはテストドライブを行ったウルゴンさんの好みが多分に含まれているようなのだ。
ターンインの時点でフォームを決め、縁石に大胆に乗り上げつつコーナーを抜けていくウルゴンさんのドライビングスタイルは、多分に“ラリードライバー風”でもある。ブレーキングで前荷重になると回頭性が極端に高まり、逆にリアが落ち着きを失うこのモデルのセッティングは、いかにもそんな“ウルゴン好み”という印象が強いものだったのだ。
「このセッティングは多くの人に薦められるものではない」とウルゴンさん自身が認めつつも、ニュルで軽々と8分を切るタイムが記録できるのは、やはり“クルマとドライバー”のすごさを証明していることにほかならない。そんな世界的なタイトルホルダーでもある生粋のリアルスポーツマシンが、500万円を切る価格で手に入るというのは、考えてみれば大変なバーゲンなのではないだろうか。
(文=河村康彦/写真=webCG、ルノー・ジャポン)
テスト車のデータ
ルノー・メガーヌ ルノースポール トロフィーR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4299×1848×1435mm
ホイールベース:2640mm
車重:1297kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力: 273ps(201kW)/5500rpm
最大トルク:36.7kgm(360Nm)/3000-5000rpm
タイヤ:(前)235/35R19/(後)235/35R19(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:--
価格:499万円/テスト車=--
オプション装備:--
※数値はすべて欧州仕様のもの
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--1)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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