第271回:「魂動」をキリッと表現
「マツダCX-3」のチーフデザイナー、松田陽一氏に聞く
2014.12.16
エディターから一言
![]() |
一言で「魂動(こどう)」デザインといっても、その解釈はクルマごとに微妙に異なっている。ロサンゼルスオートショー2014(会期:2014年11月18日~11月30日)で公開された、マツダの新世代商品の第5弾「マツダCX-3」。そこに注ぎ込まれた生命感とはどのようなものだろうか。チーフデザイナーの松田陽一氏に聞いた。
![]() |
![]() |
![]() |
ソリッドでシンプルに
――マツダのデザインテーマ「魂動」は、CX-3ではどのように表現されているのでしょうか。従来のモデルより直線的なラインで構成されているように見えます。
魂動デザインには「生命感」という共通テーマはありますが、表現手法については具体的なモチーフの規定はありません。例えば、新型「ロードスター」はエモーショナルで連続感のある立体造形を特徴としていますが、CX-3はその反対側の極にある生命感を表現しています。妖艶(ようえん)なものに対し、CX-3ではいわば凛々(りり)しさを表現しています。
――その凛々しさとは、具体的にどの辺に表れているのでしょうか
全体的にソリッドな塊感を表現し、加えてサーフェスは非常にシンプルな構成にしています。車両の前部から後輪にかけてのスピード感のある塊と、リアタイヤを中心とした量感のある塊、そしてキャビンの3つで構成して、無駄な要素はできるだけ省きました。また、それぞれの要素が交わる稜線(りょうせん)、つまりキャラクターラインですね、これは従来のモデル以上にシャープなものにして、緊張感のある表現を目指しました。
――Dピラーを黒く塗った狙いは?
これは魂動デザインとしてではなく、「個々のクルマにおける個別の表現」といったものです。小さいボディーサイズでありながら、クーペのような伸びやかな表現を目指しました。Dピラーを(ブラックアウトせずボディー同色にして)閉じてしまうと、クーペではなく、どうしてもハッチバックやワゴンの印象になってしまうのです。Dピラーを黒く塗ることで、前方から来る「勢い」を後方に流してしまおうとしています。
マツダ車で一番シャープな「顔」を表現
――サイドビューは「デミオ」以上にノーズの長さが強調されているように見えます。
フロントフェンダーの頂点は、前輪の直上に持ってくるのがセオリーです。しかし、それをAピラーの付け根にまで後退させて、車格のイメージを上回るサイズ感を演出しています。なおかつ、そのラインが後輪の前までつながっており、大きな長い塊が構成されているというのもノーズを長く見せるポイントです。
――フロントマスクも従来にも増して直線的で凛々しい感じです。
マツダ車の中で一番シャープなところを狙い、ギリギリのところまで追求しています。これ以上シャープにすると、もはや生命感ではなく、機械的な感じになってしまうと思います。
――ロサンゼルスオートショーでの展示車両の中には、白いボディーカラーのものが混じっていました。魂動デザインのイメージカラーとして白は珍しいですね。
あれは白ではなくて「セラミックメタリック」という新色です。その名のとおり陶器の、粒子がぎゅっと詰まった素材感をイメージして開発しました。何色かと聞かれると、表現が難しいんですけれども、光によって色味が変わります。例えば、暗いところに行くとソリッドなグレーに見えて、日光が当たると白が際立って、という具合です。「ソウルレッドプレミアムメタリック」と並べた時に、お互いが引き立つような新しさを感じていただけると思います。
インテリアでは素材と色にこだわる
――インテリアデザインの基本骨格はデミオに近い印象を受けました。CX-3らしい部分はどこでしょうか。
デミオより素材と色の表現にこだわると同時に、細部にもこだわりました。例えば、これは新素材というよりも、表現としての新しさなんですが、最上級のレザーインテリア仕様のシートとドアトリムに、「ラックススエード」という人工スエードのインサートを入れました。その素材を生かしきる手段として、縫製による立体的な表現を入れ、素材感が際立つような仕上げをしています。また、写真だとわかりづらいかもしれませんが、シートの黒い部分の縁にはレッドのパイピングを入れました。仕立ての良さを表現するために、「そこまでするか」と言われるくらい、徹底的に作り込みました。メーターフードにはステッチの表現を入れたり……。一歩進んだ上質感というのが、デミオの内装とは異なるところです。
――デザイナーの目から見て、昨今の小型クロスオーバー車の流行の理由はなんだと思いますか。
このクルマの企画が本格的にスタートしたのは2年前で、あの頃、このセグメントには「日産ジューク」ぐらいしかありませんでした。ところが、ここ最近、各社一斉にドンッと出してきて、各ブランドの「らしさ」が際立っているような商品が同時に出てきたなあ、というにぎやかな状況になりました。ある意味で「ブランドの博覧会」のような様相を呈していると言えるかもしれません。そうはいっても実用性や乗りやすさというのはこのセグメントにとって重要なポイントであり、サイズも含めて、日常で使い倒せるかどうかが重要になってくると思います。
(インタビューとまとめ=webCG 竹下元太郎/写真=マツダ)

webCG 編集部
1962年創刊の自動車専門誌『CAR GRAPHIC』のインターネットサイトとして、1998年6月にオープンした『webCG』。ニューモデル情報はもちろん、プロフェッショナルによる試乗記やクルマにまつわる読み物など、クルマ好きに向けて日々情報を発信中です。
-
第848回:全国を巡回中のピンクの「ジープ・ラングラー」 茨城県つくば市でその姿を見た 2025.10.3 頭上にアヒルを載せたピンクの「ジープ・ラングラー」が全国を巡る「ピンクラングラーキャラバン 見て、走って、体感しよう!」が2025年12月24日まで開催されている。茨城県つくば市のディーラーにやってきたときの模様をリポートする。
-
第847回:走りにも妥協なし ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を試す 2025.10.3 2025年9月に登場したミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」。本格的なウインターシーズンを前に、ウエット路面や雪道での走行性能を引き上げたという全天候型タイヤの実力をクローズドコースで試した。
-
第846回:氷上性能にさらなる磨きをかけた横浜ゴムの最新スタッドレスタイヤ「アイスガード8」を試す 2025.10.1 横浜ゴムが2025年9月に発売した新型スタッドレスタイヤ「アイスガード8」は、冬用タイヤの新技術コンセプト「冬テック」を用いた氷上性能の向上が注目のポイント。革新的と紹介されるその実力を、ひと足先に冬の北海道で確かめた。
-
第845回:「ノイエクラッセ」を名乗るだけある 新型「iX3」はBMWの歴史的転換点だ 2025.9.18 BMWがドイツ国際モーターショー(IAA)で新型「iX3」を披露した。ざっくりといえば新型のSUVタイプの電気自動車だが、豪華なブースをしつらえたほか、関係者の鼻息も妙に荒い。BMWにとっての「ノイエクラッセ」の重要度とはいかほどのものなのだろうか。
-
第844回:「ホンダらしさ」はここで生まれる ホンダの四輪開発拠点を見学 2025.9.17 栃木県にあるホンダの四輪開発センターに潜入。屋内全天候型全方位衝突実験施設と四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーターで、現代の自動車開発の最先端と、ホンダらしいクルマが生まれる現場を体験した。
-
NEW
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】
2025.10.15試乗記スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。 -
NEW
第849回:新しい「RZ」と「ES」の新機能をいち早く 「SENSES - 五感で感じるLEXUS体験」に参加して
2025.10.15エディターから一言レクサスがラグジュアリーブランドとしての現在地を示すメディア向けイベントを開催。レクサスの最新の取り組みとその成果を、新しい「RZ」と「ES」の機能を通じて体験した。 -
NEW
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか?
2025.10.15デイリーコラムハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。 -
MTBのトップライダーが語る「ディフェンダー130」の魅力
2025.10.14DEFENDER 130×永田隼也 共鳴する挑戦者の魂<AD>日本が誇るマウンテンバイク競技のトッププレイヤーである永田隼也選手。練習に大会にと、全国を遠征する彼の活動を支えるのが「ディフェンダー130」だ。圧倒的なタフネスと積載性を併せ持つクロスカントリーモデルの魅力を、一線で活躍する競技者が語る。 -
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。