マツダ・アテンザ 開発者インタビュー
理想に近づいた 2015.02.03 試乗記 マツダ商品本部
主査
松岡英樹(まつおか ひでき)さん
マツダのフラッグシップカーである「アテンザ」を、もっと理想に近づけたい――今回の“ビッグマイナーチェンジ”を率いた松岡主査の頭の中には、「魂動(こどう)」デザインの礎(いしずえ)となったコンセプトカー「靭(SHINARI)」や「雄(TAKERI)」の姿があったという。その舞台裏にはどんな思いや苦労があったのか。松岡主査に聞いた。
フラッグシップカーをそのままにしてはおけない
――いつからアテンザの主査を? もともと評判のいいクルマですが、マイナーチェンジに際し、気負いはありましたか?
これまでミニバンを中心に携わってきて、おととし(2013年)の8月にアテンザの主査を拝命しました。言われた直後はものすごくプレッシャーを感じました。アテンザは弊社のフラッグシップなので。
――そのフラッグシップをどう変えてやろうと?
好評をいただいているアテンザのスタイリングですが、もっと第6世代(マツダ社内では2012年に登場した「CX-5」以降のクルマをこう呼ぶ)の理想に近づけることができるんじゃないかと思って取り掛かりました。というのも、私がヨーロッパで「プレマシー」のローンチに携わっている頃、うちがコンセプトカーの靭を発表したんですが(2010年秋)、それに対する現地のジャーナリストの反響が大きくて驚いたんです。私自身も自社のクルマながら感動しました。靭をより市販車に投影したかたちの雄も出て、そちらも高い評判を得ました。市販のアテンザも靭や雄に近づけたかったんですよね。
――それではやりたいことは最初から明確だったんですね。
はい。ただ、最初は社内に「評判が高いのに変える必要があるのか?」という意見があったんです。
――実際、評判は高かったはずですが?
そうなんですが、その時点ではまだ登場していない「アクセラ」「デミオ」「CX-3」などの詳細が社内に伝わると雰囲気がガラッと変わりました。後から出るクルマのクオリティーがこれほど高いのなら、フラッグシップのアテンザが当初のままというわけにいかないな、と。
――なるほど。
正直に申し上げると、特にインテリアについては、発売時にも皆が皆納得していたわけではないんです。ただ、モデルチェンジのタイミングをいつまでも待てるわけではありませんし、つくりこむよりも早く発売することに価値があるという判断もありますから。
――では、今回はかなり理想に近づけることができたわけですか?
そうですね。マイナーチェンジに関係した人間は皆、かなり手応えを感じていると思います。
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チリ合わせに気を使う
――もう少し見た目について教えてください。マイチェン前のクルマと見比べてみて、まずフロントグリルのデザイン変更に目がいきますが、それ以外にも、よく見るとかなり多くのポイントが少しずつ変わっていますね。
これ以上やるとなると、骨格まで変えなくてはならない、フルモデルチェンジになってしまうくらいに変更しました。フロントはヘッドライト、フロントグリル、バンパーのデザインなど、すべて変更しています。
――デザイン面で苦労したのは?
パーツとパーツの合わせ目、いわゆる“チリ”には気を使いましたね。特にフロントグリルのシグネチャーウイングに添ってLEDを埋め込んでいるのですが、あの部分に少しでも隙間があるとおかしいので。インテリアについても、生産車はどうしてパーツとパーツのチリがバラつくのかを考えるために、うちの工場やサプライヤーさんと何度も話し合いました。彼らにデザインモデルができた時点でまず見に来てもらって、なぜこの部分の合わせ目が大事なのかを説明したりしました。説明するだけではなく、こう見せたいのなら、こういう風に組み付けたほうがいいといった提案もたくさん受けました。
――その段階で生産部門と協議を始めるのは珍しいパターンですか?
完全に量産の仕様が決まってから見てもらうのが普通のパターンですね。パーツ間のチリなんかでうまくいかない場合、ともすると、どの部署が悪いのか犯人探しが始まったりするのですが、早い段階で一緒にやり始めた今回はそういうことにはなりにくかったですね。
――エンジニアとしては品質をどこまでも追求したいとお考えでしょうが、だからといってアテンザはマツダのフラッグシップではありますが、600万円、700万円の値付けをしていいわけではないですよね。価格との折り合いはどうやってつけるのですか?
そこは難しいところですが、全部署が少しずつムダをなくすなどの積み重ねで、品質を上げ、価格は上げないよう努力するしかないですね。基本的に、開発はコストをかけてよいものをつくろうとし、営業はコストを下げて安く売ろうとするわけです。例えば、世界で初めて実用化した「アダプティブLEDヘッドライト」は、当初、営業部門は高くなるなら要らないという意見なわけです。けれど、どれほど素晴らしいかを説明するために広島へ呼んで、実物を見せてデモンストレーションすると、彼らも素晴らしさを理解してくれて、やろうということになりました。そういうことの連続ですね。
“ブランドのシステム化”に課題
――そういった苦労を重ねて改良されて、アテンザはもういじるところがないクルマになりましたか?
いえいえ、まだいくらでもやることはあります。ようやく輸入車ともまともに比較してもらえるレベルには達したんじゃないかと思えるようになりましたが、上回っているというレベルではありませんし。デザイン的には肩を並べたんじゃないかと思いますけど、アテンザ単体のことではなく、ブランドをシステムとして捉えるという面については、まだまだ追いつけていない気がしています。
――「ブランドをシステムとして捉える」とは?
社内では「からくり」と呼んでいるのですが、どの部品をどう変えると特性がどう変わり、人間がどう感じるのかといったことです。それがきちんと体系化できれば、コンパクトカーはこういう部品をこう使えばいい、C/Dセグメントカーはこうすればいいといったクオリティーのコントロールを効率よくできるはずなんです。そのあたりは欧州のブランドに一日の長がありますね。
――社員の間で共通の認識をつくるということですか?
そういうことも大事ですが、「良い」とか「悪い」とかをちゃんとデータで示せるようになることが大事だと思うんです。からくりの社内での使用例を挙げると、他部署に「こういうものをつくってほしい」とお願いする際、ただお願いするだけでは「からくりがわからない」と門前払いされるんです。「ライバルがここまで仕上げてきているから」などとデータを添えて具体的に説明しないと話を聞いてはもらえません。
――なるほど。今マツダはとてもアグレッシブに見えますが、松岡さんから見て社内はやる気に満ちているように感じますか?
感じますね。ちょっと収拾がつかないくらいといってもいいかもしれません。
――そうですか! では今後のクルマにも期待できそうですね。
はい。頑張ります。
(インタビューとまとめ=塩見 智/写真=小林俊樹)
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塩見 智
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