レクサスRC350“Fスポーツ”(FR/8AT)
マナーのいいやつ 2015.01.20 試乗記 300psオーバーのV6エンジンと、後輪操舵(そうだ)をはじめとした高度なシャシー制御技術が自慢の「レクサスRC350“Fスポーツ”」を、高速道路やワインディングロードなど、さまざまなシチュエーションでチェック。印象に残ったのは刺激ではなく、むしろ……。アツい視線を感じる
2014年10月に発売された「レクサスRC」には、3.5リッターV6の「RC350」、2.5リッター直4ハイブリッドの「RC300h」、そして5リッターV8の「RC F」がある。
立ち上がり1カ月の受注内訳は、多い順に300h(約1200台)、F(約900台)、350(約500台)だという。高性能クーペなのに、ハイブリッドが人気ナンバーワンとはちょっと意外だが、“953万円より”の別格イメージリーダー、RC Fがそれに次ぐ2番人気とは、意外を通り越してびっくりだ。
今回乗ったRC350“Fスポーツ”は、RC350系のトップモデルである。標準の「RC350」(596万円)があって、その上にラグジュアリー志向の「バージョンL」(660万円)と「Fスポーツ」(678万円)がある。ラグジュアリー路線で売ってきたレクサスなのに、LよりFスポーツのほうが高価というところに、RCというクルマのキャラクターがみてとれる。
試乗したのは発売から40日目。ほやほやのニューカーであることは間違いなく、路上でも駐車場でも、いつになく熱い視線を浴びた。質問もされたし、スマホで撮られもした。黒塀の高級料亭みたいなレクサスディーラーは、いいトシをした大人でも敷居が高い。気軽にちょっとクルマを見に行こうという雰囲気ではない。新型のナマレクサスがひときわ熱い注目を集めるのは、そんな事情もあるような気がする。
至れり尽くせりの「おもてなし」
早朝のガレージで、クルマに乗り込み、室内灯をつけようと頭上に手を延ばしたら、ついた。エッ、つけようとするだけでつくの!? さすがにそれはなかったが、タッチスイッチで、ライトに指先が触れるだけでつくのである。
そうした“おもてなし”はレクサスの得意とするところだが、Fスポーツ専用の新趣向、“可動式メーターリング”には一本取られた。
計器盤は電源オフだと真っ暗なバーチャルメーター。だが、走行中に燃費などの情報を見ようとスイッチを押すと、タコメーターのメーターリングが右にスライドして、そのためのスペースを空ける。枠が動くカシャっという作動音が聞こえて、あたかもアナログのスピードメーターが横に動いたかのように見える。バーチャルとリアルを組み合わせたハイブリッドメーターである。次期RCにはマップマッチングが取り入れられるに違いないと予測する。
スタートボタンを押すと、3.5リッターV6は音もなく目覚めた。拍子抜けするほど静かである。318psなら、もうちょっと吠(ほ)えてもいいかなと思ったが、まだ暗い住宅街ではありがたい。
氷点下に近い寒さだったが、ものの数分でエアコン吹き出し口からゆるゆると温風が出始める。その前から、速暖のステアリングヒーターとシートヒーターのお世話になっていた。至れり尽くせりである。
限界を試したい人はサーキットへ
センターフロアのスイッチで選べるドライブモードは「ノーマル」「エコ」「スポーツS」「スポーツS+」の4つ。エコでも十分速いし、一方、スポーツ以上を選んでも、エンジンや変速機やサスペンションのキャラクターが劇的にスポーティーになるわけではない。
時速100km時のエンジン回転数は8速トップで1700rpm。スポーツに切り替えると、2段落ちの6速に入って2500rpmまで上がるが、エンジン音はまったく高まらない。かるく300psオーバーのスポーツクーペとしては世界チャンピオン級の静粛性ではないだろうか。
Fスポーツは専用チューニングのサスペンションや電動パワーステアリングを備え、「LDH(レクサス・ダイナミック・ハンドリングシステム)」と呼ばれるシャシーの統合制御プログラムを標準装備する。
そのメカトロニクスに組み込まれた後輪ステア機能のせいか、コーナリングでがんばると、最後に後輪がヒョイっとステアして安定を整えるかのような挙動を感じることがある。その人工的な作動感がちょっとおもしろかった。もちろん操縦安定性は高く、シャシーの限界を試すには、サーキットへ行きたくなるクルマである。
一方、乗り心地は今ひとつだと思った。前235/40、後265/35の19インチ ポテンザからのショックはよくカットされているが、荒れた路面ではボディー全体が揺すられがちだ。フラット感がもっとほしい。
もっとハジけていると思ったら……
このクルマを借りている最中、新型「フォード・マスタング」の試乗会に駆けつけて、撮影車として使った。これまでさまざまなクルマをカメラカーに使ってきたKカメラマンが、RCの8段ATに驚嘆していた。車内でカメラを構えていても、およそ変速ショックを感じなかったというのである。
ステアリングを握っていても、スポーティーさよりマナーのよさに感心することのほうが多かった。
5リッターV8のRC FがBMWの「M4」なら、RC350“Fスポーツ”は「435i」の「Mスポーツ」か。試乗前はそんなふうに想像していたが、乗ってみるとFスポーツは435i Mスポーツよりおとなしい。随所にハイテク感はあるが、まじめだ。350系のスポーツ最高位だから、もっとハジけているかと思ったら、そうではなかった。ラジカルな刺激はRC Fに一任した、ということなのだろう。
クーペボディーの存在感の強さは日本車離れしている。ルーフラインはなかなかきれいだし、一瞬、アストン・マーティンかと思わせるリアスタイルが目を引く。スピンドルグリルは好き嫌いが分かれるだろうが、ここまで強烈に提示されると、マイリマシタという感じである。
ただ、黒いメッシュグリルに白のボディーという反対色ツートーンだと、皮膚が破れたヒューマノイドみたいに見えてしまうのはボクだけか。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=河野敦樹)
テスト車のデータ
レクサスRC350“Fスポーツ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4695×1840×1395mm
ホイールベース:2730mm
車重:1700kg
駆動方式:FR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:318ps(234kW)/6400rpm
最大トルク:38.7kgm(380Nm)/4800rpm
タイヤ:(前)235/40R19 92Y/(後)265/35R19 94Y(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:9.8km/リッター(JC08モード)
価格:678万円/テスト車=722万9280円
オプション装備:プリクラッシュセーフティーシステム<ミリ波レーダー方式>+レーダークルーズコントロール<ブレーキ制御付き>(6万4800円)/クリアランスソナー&バックソナー(4万3200円)/ブラインドスポットモニター+リアクロストラフィックアラート(6万4800円)/レーンディパーチャーアラート<ステアリング制御付き>+オートマチックハイビーム(3万7800円)/マークレビンソンプレミアムサラウンドサウンドシステム(23万8680円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1718km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:488.6km
使用燃料:63.4リッター
参考燃費:7.7km/リッター(満タン法)/7.3km/リッター(車載燃費計計測値)
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下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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