マツダCX-3 XDツーリング Lパッケージ(プロトタイプ)(4WD/6AT)
雪道にワクワクできる 2015.03.04 試乗記 ところは北海道のテストコース。マツダの新世代4WDシステム「i-ACTIV AWD」を備えた試乗車がずらりと並ぶ中に、何やら見慣れぬ顔が混じっていることに気がついた。新しい小型クロスオーバー車「CX-3」だ。マツダの新世代AWD車雪上試乗リポートの1回目は、まずはCX-3に焦点を当てる。出そろった新世代AWD
なるほどこういうことだったのか。新世代AWD車取材会と銘打った雪上試乗会にはちょっと不都合なほど晴れ上がった北海道士別市郊外のテストコース。まぶしく輝く雪の上に勢ぞろいしたマツダの新世代AWDモデルを見て腑(ふ)に落ちた。普段だったら、「新しいクルマの隅々まで納得してもらえるまでは帰しませんよ」というぐらいの熱意としつこさ(?)で迫ってくるのがマツダの試乗会なのに、昨年末の「アテンザ」と「CX-5」のビッグマイナーチェンジの際にはそれほど熱さを感じなかったこと(もちろんマツダ社内比で、個人的尺度です)を少々不思議に思っていたのだ。とりわけアテンザについては、4WDモデルは初登場であり、しかもユニークなディーゼルエンジン搭載のステーションワゴンが新設定されていたにもかかわらず、4WDシステムそのものについては淡泊というか、それほど言及なくサラリと流していた印象を感じていたのだ。
ところがその舞台裏では、2012年に発売されたCX-5を皮切りに、スカイアクティブ・テクノロジーを採用して順次デビューした新世代モデルのAWD車をまとめて体験させようという試乗会の準備が進んでいた、と勝手に納得した。ちなみにマツダは単なる4WDではなく適切に4輪の駆動力をコントロールするという意味でAWD(All Wheel Drive)という言葉にこだわり、またスカイアクティブ・テクノロジーを導入したモデルのAWDシステムを「i-ACTIV AWD」という名称に統一したという。
何をおいてもまず「CX-3」
タイトなスケジュールにぎっしり中身が詰まった今回の試乗会の主題はもちろん新しいAWDシステムだが、勢ぞろいした試乗車の中には先日正式発売されたCX-3が含まれていたのだから注目が集まるのは当然。何をおいてもまず伝えるべきはCX-3の第一印象だろう。とはいえ、試乗車は正式発表前のプロトタイプであり、しかも限定されたコース(雪上スラロームコースだけ)での短時間の試乗ゆえに、お伝えする情報が限られたものであることをお断りしておきたい。
おそらく既にご承知とは思うが、CX-3はマツダの最新のコンパクトSUVである。「デミオ」をベースとした成り立ちとそのボディーサイズから言えば、いわゆるクロスオーバーにジャンル分けされるスタイリッシュなSUVで、マツダの新世代商品ラインナップを完成させる最後のピースともいえるニューモデルだ。
CX-3のエンジンはデミオ同様の1.5リッターディーゼルターボ1本(少なくとも今のところ日本では)、ただし前輪駆動(FWD)とAWDそれぞれに6ATと6MTすべてが用意されている。エンジンの最高出力は105ps(77kW)/4000rpmと同一だが、最大トルクは27.5kgm(270Nm)/1600-2500rpmと、デミオよりも2.0kgm(20Nm)増加している(6AT車同士を比較した場合)。そのエンジンはさらに静かにスムーズになっているように感じた。新しいエンジンには、ディーゼルノック音を打ち消す効果を持つ「ナチュラル・サウンド・スムーザー」と称する一種のダンパーが中空のピストンピンに内蔵されているらしく、その効果だったのかもしれない。といっても、そもそも吸音効果のある雪の上の広いテストコースを1台で走るのだから確かなことは言えないけれど、もうそろそろディーゼルとしては、ではなくガソリンエンジンも含めて十分に静粛だと評してもいいレベルではないかと感じた。
好ましいフィット感
CX-5さえちっとも大きく感じない北海道で見るとCX-3は非常にコンパクトだ。とりわけ光の具合によって微妙に色調が変わる新色のセラミックメタリックのCX-3は引き締まって精悍(せいかん)に見えるが、実はボディーの外寸は4275×1765×1550mmとデミオ(AWD車で4060×1695×1525mm)に比べてひとまわり以上大きい。もっともホイールベースは2570mmと同一なので室内スペースは事実上同じ。それでもCX-3のほうが実際に乗り込むと開放感があるのはアイポイントが高いせいだろう。運転にあまり自信がないビギナー層には少しでも遠くまで見渡せることによる安心感は大きく、実はこれがSUV人気の大きな理由のひとつだと思う。それでいながら全幅はCX-5(1840mm)よりもだいぶ狭く、全高もタワーパーキングに入る1550mmに抑えられているから、日本ではまさしくジャストサイズと言えるのではないだろうか。インテリアはデミオよりもさらに洗練されているようで、これなら237万6000円から302万4000円までという価格も納得できるところだ。
スタイリッシュなボディーながら、車高が高いおかげで乗降性もデミオより良好、ドライバーズシートに収まってしまえばすべてに手が届くちょうどいいタイト感がある。リアシートへのアクセスもドア開口部が微妙に工夫されていることもあって、見た目ほど厄介ではなく案外するりと乗り込むことができる。リアシートのスペースはデミオと大差なく、まあ過不足なしといったところ。延長されたオーバーハング分を生かして荷室容量が350リッターとデミオの280リッターから増大している点は、デミオではちょっと小さいかなと考えていた人にとっては朗報かもしれない。
雪道が楽しくなるはず
低速トルクの太いディーゼルエンジンは4WDとの相性がいい。というより、たとえ2WDであっても滑りやすい路面で扱いやすいことは雪国のドライバーなら常識、それに4WDが加われば鬼に金棒である。当然、踏めば即座にデミオより100kgほど重い1330kg(AWDのAT)のボディーをグッと押し出してくれる。この“即座に”というところが新しいi-ACTIV AWDの肝である。
電子制御カップリングを使ういわゆるオンデマンド式4WDは、不要な場合はほぼFWDで走って駆動ロスを抑えるといった長所を持ついっぽう、前輪がスリップした場合に駆動力を後輪に伝える際の応答遅れが大きな課題だった。そこでマツダは、車輪速度やスロットル開度など一般的なパラメーターに加えて、外気温度やワイパーモーターまで計27種のセンサー信号をより緻密で応答性に優れたオンデマンド制御に活用するシステムを開発したという。端的に言えば、ドライバーが感知できないほどの微妙なスリップを先回りして検知することで応答遅れを払拭(ふっしょく)したのである。
実際に、わざと乱暴にスロットルペダルを床まで踏みつけてスタートしても平たんな圧雪上ではホイールスピンはなし。ただただグワッと加速するだけ。スラロームの際にもスロットルやブレーキの操作に応じて、安定方向に持ち込むことも、わずかにテールアウトを誘うこともできるコントローラブルな性格を備えていることが確認できた。そのままテストコースの外へ脱走したくなるほど小気味よく走るCX-3は、クロスオーバーとかスペシャルティーなどと呼ばれるクルマの新しいページを開いたのではないか。何しろかつては商用車向けと思われていたディーゼルエンジンが、クールでコンパクトなボディーを自在に走らせるのだ。ドライ路面の乗り心地さえ確認できれば、すぐにでも太鼓判を押す。
紹介し切れなかったi-ACTIV AWDのあれこれの続きはもちろんwebCGで。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
マツダCX-3 XDツーリング Lパッケージ(プロトタイプ)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4275×1765×1550mm
ホイールベース:2570mm
車重:1330kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:105ps(77kW)/4000rpm
最大トルク:27.5kgm(270Nm)/1600-2500rpm
タイヤ:(前)215/50R18 92Q/(後)215/50R18 92Q(ブリヂストン・ブリザックVRX)
燃費:21.0km/リッター(JC08モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型(プロトタイプ)
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

高平 高輝
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