ポルシェ・ケイマンGT4(MR/6MT)
真打ち登場 2015.03.31 試乗記 「ポルシェ・ケイマン」の下克上か!? 「911 GT3」からシャシーとブレーキを受け継ぎ、「911カレラS」のエンジンを搭載するスーパーケイマン「GT4」が現れた。その911譲りの“フィジカル”を、ポルトガルの一般道とサーキットで試した。すべてのポルシェは「911」に通ず
ポルシェの魂の中心は、「911」にこそ宿る――それは、これまでの歴史からも明確な事柄だし、この先も変わることはないはずだ。
しかし、2002年に「カイエン」がローンチされて以降、このブランドの“稼ぎ頭”はもはやスポーツカーではなく、SUVへと移行している。このところ売り上げの伸長著しい中国などでは、「ポルシェというブランドはSUVのメーカーだと思われている」という声すら聞くほどだ。
一方で、かつて空冷式エンジン搭載の911による“一本足打法”に頼ってきたこのブランドが、そうしたやり方ゆえに深刻な危機に見舞われ、倒産一歩手前の状況にまで陥ったのもまた事実。
かくして、他に類を見ない歴史と伝統に裏打ちされた911を、ブランドすべての根源かつ揺るぎないシンボリックな存在として据えつつも、それと並行するカタチでミドシップの2シータースポーツカーや、ポルシェにとって積年の夢でもあった「4枚のドアを備え、4人がゆったりと乗れる」SUVやサルーンなど、新しいカテゴリーのモデルを次々と投入した。
入念なマーケティングの末にローンチされたそれらを全てヒットさせることで、今へと続く好調な業績を実現させる……それが、今のポルシェ社のあり方なのだ。
カレラSのエンジン、GT3のシャシー
だからこそ、「そんな911のポジションを、あらためて脅かす“社内下克上”となってしまわないか!?」と、外野席からもちょっと心配になってしまうのが、先日のジュネーブモーターショーで発表されたケイマンGT4というモデルだ。
6段MTと組み合わされたエンジンは、911カレラSから移植をされた3.8リッターのフラット6ユニット。シャシーのチューニングはこれまで911 GT3などを手がけてきた、ポルシェのバイザッハ研究所に籍を置くモータースポーツ部門によるものという。
四輪ストラットのサスペンション形式こそ、オリジナルのケイマンと同様。けれども、「サスペンションやブレーキ関連の多くのコンポーネンツは、GT3用のアイテムを譲り受けたもの」と聞けば、生粋のスポーツカーファンが色めき立たないはずがない。
これまで“最強のケイマン”だった「GTS」用の心臓に比べても、45psが上乗せされた最高出力に対応すべく、11Jという911カレラシリーズと同様のワイドなリアホイールを履く。これに、こちらも295/30というミドシップポルシェにはかつて見られなかったファットなリアタイヤが組み合わされる。
同時に、オリジナルのケイマンに対して視覚上で決定的な差を見せるのが、「ダウンフォースと冷却性能向上の2つを目的とした」と伝えられるGT4専用の空力デザインだ。フロントには、大きく口を開けたような3つのインテークと、低く前方に伸びたスポイラーリップが与えられ、フードの先端にはエアアウトレットが備わる。
一方、リアにはリッド後端のダックテール処理とともに、アルミ製ブラケットに支えられるウイングを新設。さらに、ボディーサイドのインテークには、いかにもラムエア効果が高そうに張り出したサイドブレードが装着される。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
その気にさせるインテリア
そんなエクステリアに比べれば、インテリアはオリジナルのケイマンとの差は小さい。レッドゾーンが7600rpmから始まるタコメーターがドライバーの正面にレイアウトされたダッシュボードをはじめ、ブラック基調でまとめられたインテリアは、標準装備の「スポーツシート・プラス」の中央部分など、多くの部分にアルカンターラ素材が多用されるといった特徴こそあるものの、基本的には「すでに見慣れたボクスター/ケイマンのそれ」という印象だ。
ただし、そうした中で「918スパイダー」用と同様のデザインが採用された、ケイマンシリーズ中で最小の360mm径のステアリングホイールや、軽量であることをイメージさせるベルト式のドアオープナーなどが目を引く。
GPSを利用してストップウオッチ機能を制御し、車両のコントロールユニットからのデータも併用してスマートフォン上で走りのイメージを再現させるという、ユニークで新しいアプリも公開されたものの、そこに設定された機能をフルに使うことができるのは、例によって日本仕様には用意されない純正のテレマティックシステム「PCM」をオプション装着した場合のみ。
ただし、このテレマティックシステムはここ1~2年のうちに日本仕様にも設定すべく、現在鋭意開発中という声も聞いた。ナビはもちろん、オーディオやドライブコンピューターなどさまざまなデバイスのコントロールが可能となるPCMが、ようやく近いうちに日本でも選べることになりそうだ。
さらに低く、速く
ドライバーズシートに腰を下ろし、ポジションを決める。すると、オリジナルのケイマンとの違いとしてまず感じられたのは、明確なアイポイントの低さだった。
そうした印象はシートそのもののヒップポイントの低さに加え、より低くセットアップされた車高からも、もたらされているはずだ。GT4の場合、電子制御式の可変減衰力ダンパー「PASM」は標準装備。それを装着したモデル同士で比較すると、さらに20mmのローダウン化が図られたのがGT4ということになる。
スタートを切るべく1速ギアを選ぼうという段階で気が付いたのは、そのシフトフィールがより剛性感に富む一方で、少々重さを増したと感じられたこと。聞けば、その要因はシフトノブを20mm短くしたことにあるという。前述のシートポジションとの絡みもあっての変更と思われるが、そもそもクラッチ踏力(とうりょく)がやや重めなケイマンだけに、それとのバランスで考えれば、むしろこのセッティングの方がより好ましく思えた。
911と排気の取り回しが違うために、排圧が変化して3.8リッターのフラット6の最高出力がわずかに落ちたとはされるものの、それでも「カレラSから譲り受けた心臓を積むケイマン」が、飛び切りの加速能力の持ち主であるのは当然。0-100km/h加速が4.4秒というデータは、もはや“スーパーカー”級だ。
ボディーのリアエンドにエンジンという重量物を積む911に比べれば、駆動輪の押さえつけ効果が多少甘くなるというのが理屈。だが、それでもこと乾燥した舗装路上で試した限り、トラクションの能力に不足は感じない。むろんそこでは、銘柄指定として履くミシュランのパイロットスポーツカップ2が発揮するグリップ力の高さも、大いに貢献しているはずだ。
脚の強さは予想以上
そんなこのモデルの動力性能がいわば「想定通りのパワフルさ」だったと表現するならば、予想すら凌(しの)ぐ勢いで鮮烈な仕上がりを実感させてくれたのは、サーキットシーンでのフットワークの仕上がりだった。
200km/h超の速度で限界Gに迫ろうというコーナーもあれば、前方がブラインドとなるほどのアップダウンが連続するというタフなコースで、GT4の脚にまず感じられたのは横剛性の高さ、位置決め精度の高さだった。
ファットでハイグリップなタイヤを装着するがゆえに、横方向からの入力も極めて大きくなっているはずなのに、GT4は四輪ストラットサスペンションの持ち主とは思えないほどに、しっかりと狙ったラインを毎周正確にトレースしてくれる。
軽くテールが流れても、むしろ「S」グレード以上にコントロールが楽と思えたのは、恐らくはまず、そんな剛性の高いサスペンションあってこそ……と、そんなイメージができるほどだ。
ただし、このモデルを手に入れた暁にはたびたびサーキット走行にチャレンジをしたい、と考えるのであれば、ぜひとも選択すべきアイテムはセラミック・コンポジットブレーキ「PCCB」である。
高価なオプションアイテムではあるものの、サーキットではその効果が絶大だったのだ。標準装備されるブレーキも、一部パーツを911 GT3から流用し、GTS用に比べても大容量化を図ったとされる専用品。しかし、それとても「PCCB」付きから乗り換えると利きが物足りなく感じられたもの。「黄色いブレーキ」の威力は、まさに絶大だった。
あえて言わせてもらうなら……
かくして、「これが1000万円ちょっとで手に入るのだったら大バーゲン!」と、思わずそんなことを口ずさみそうになるケイマンGT4。それでもあえて……とウイークポイントを探し出すとすれば、それは意外にも「エンジンに対して」ということになる。
すでに述べてきたとおり、絶対的な速さに関しては全くの文句ナシだ。一方で、「GT4」というそのネーミングから911 GT3との関連性を連想した場合、エンジンの存在感、“オーラ”の強さには、ちょっとばかりの物足りなさが残ってしまうのだ。
冷静に考えてみれば、「そんなことを期待する方が間違っている」というのは理屈では分かる。回せば回すほどに過激さを増していく、そんな魔性の心臓のようなGT3の独特なフィーリングは、それが高い対価が支払われることと引き換えに専用開発されたユニットだからこそできる業なのだ。
けれどもGT4をドライブしていると、そのあまりの走りのポテンシャルの高さに、ついついそんなことが脳裏に浮かんでしまう。「GT3同様、専用開発されたスペシャルなエンジンを積むケイマンに乗ってみたい」という夢が膨らんでしまうのだ。
しかし、実際にそんな時が来るとすれば、それこそはポルシェに本格的な下克上が到来するその日ということになるはずだ。
果たして、GT4をローンチするにあたってポルシェはそこまで腹をくくってきたのか!? そんなことを想像しながらも、“次の一手”がますます興味深くなってきた。
(文=河村康彦/写真=ポルシェ)
テスト車のデータ
ポルシェ・ケイマンGT4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4438×1817×1266mm
ホイールベース:2484mm
車重:1340kg(DIN)
駆動方式:MR
エンジン:3.8リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:385ps(283kW)/7400rpm
最大トルク:42.8kgm(420Nm)/4750-6000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20/(後)295/30ZR20(ミシュラン・パイロットスポーツカップ2)
燃費:10.3リッター/100km(約9.7km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:1064万円*/テスト車=--円
オプション装備:--
※数値は欧州仕様のもの。
*=日本での車両本体価格。
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロード&トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。





































