ロータス・エキシージSロードスター(MR/6AT)
純粋に走りを楽しむために 2015.04.08 試乗記 ロータス一族の中でも特にスパルタンな「エキシージS」に、6段AT仕様が登場。硬派なハンドリングマシンとナンパな(?)自動変速機の相性を試す。エキシージSよ、お前もか
「エリーゼ」のスモールプラットフォームをベースに前後のトレッドを可能なかぎり広げ、リアに新規のサブフレームを追加して、350psを発生する3.5リッターV6スーパーチャージャーエンジンを搭載した、アルミバスタブ世代のトップパフォーマンスモデル。それがロータスにおける、エキシージSというスポーツカーである。
同じユニットを搭載する「エヴォーラ」は、一回り大きなラージプラットフォームを採用することから、ディメンションも全長×全幅×全高=4380×1850×1230mmとエキシージS(4080×1800×1130mm)に比べ一回り大きく、車重も1440kgと260kgも重い(クーペの6MT仕様で比較)。その性格はサスペンションのセッティングも含め、しっとりと大人びている(とはいってもロータス一族にあっては、という意味だが)。何が言いたいのかというと、ようするにエキシージSは、ロータスの中でも生粋のレーシングスポーツという明確な立ち位置を持っているということだ。
そんな硬派なロータスに、ナンパを装うオートマチックモデルが登場した。
この知らせを聞いたロータスマニアは、さぞガッカリしたのではないだろうか?
何を大げさな。たかだかATが登場しただけじゃないか。もちろんそう思う人もいるだろう。いや世の中的には、特に若者の間では“熱くなる”のはダサいことで、スポーツカーの仕様に目くじら立てるのはキモいことのはずだから、「そう思う人が大多数」といった方が正しいか。スポーツカーなんて、速くてカッコよければいいじゃん。
だったらオマエはどうなのさ? と問われれば、ガキには悪いがオジサンはキッパリ前者、熱くなっちゃう方である。大体においてロータスなんてのは、好き者が乗るクルマ以外の何者でもない。熱量に差こそあれ、スポーツカーに熱くなれないのならば、乗らなくていい。
なら今度のATには反対なのかといえば、そうではない。むしろ大賛成! そのわけをこれからお話ししようと思う。
マニアには許せないトルコンAT
エキシージS オートマチックにマニアが憤りを感じる部分があるとすれば、それは創意工夫のなさだろう。ギア比からシステムの内容まで詳細は明らかにされていないが、使われている6段ATは、きっとエヴォーラと全く同じもの。つまり変速レスポンスに優れるDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)ではなく、凡庸なトルコン式のATなのだ。このあたりはロータスも心配していたようで、シフトアップに要する時間はわずかに0.24秒(スポーツモード時)であり、0ー100km/h加速はMT車よりも0.1秒速く、「ヘセル(自社のテストコース)ではMT車に劣らぬスピードでの走行を行っている」と懸命にその性能をアピールしている。チト言い訳がましいけれど。
だが、それを補って余りあるものがこのエキシージS オートマチックにはあった。単純明快な“運転しやすさ”である。
ロータスが喧伝(けんでん)するところの優れたレスポンスは、初見では感じられなかった。まだ試乗車がおろしたての新車であり、ATがその学習機能でシフトスケジュールを調整している最中なのかもしれないが、スポーツモードに入れてもその変速は鈍重だ。ステアリングコラムに取り付けられた鍛造アルミ製パドルのクリック感は抜群だったが、シフトはアップ時もダウン時も、ワンテンポ遅れて“ウワ~ン”とつながる。
コーナーに集中するための2ペダル
オートマチックとなることで得られたアドバンテージはほかにあった。例えば街中では、あの節度感のないMTの操作から解放される喜びが驚くほど大きい。たまにシフトリンケージが引っかかり、回転落ちの鋭いフライホイールによるガクガクとしたスナッチを味わうといった煩わしさが、当たり前だが一切ない。その代わりにエキシージSが本来持っている路面をなぞるような接地感と、ドライバーが切った分量だけ曲がるリニアでダイレクトなハンドリングが堪能できた。これを遠慮なしに楽しむと、低い窓越しに見える都内の道が、法定速度でもまるで市街地サーキットのように感じられる。
ワインディングロードに足を延ばすと、その楽しさはさらに純度を増した。節度感に欠けるシフトフィールのためにミスが気になり、ヒール・アンド・トウもやりにくいMTに対して、ATではハンドリングに集中できる。タウンスピードで感じたレスポンスの悪さも、アクセル開度が大きな領域では遅れが目立たない。そもそも最大トルクが40.8kgmもあるエンジンだから、エリーゼのように忙しくトルクバンドをキープする必要もない。スリルに満ちたスピード感にドライバーが純粋に対応するという、失われたプリミティブさがそこにはあった。
また左足ブレーキも問題なく許容するため、そのしなやかなロールを体でいっぱいに感じながら、繊細にトラクションをかけていく走りができる。今回はロードスターだったが、これがクーペであり、ステージがサーキットであったとしても、ドライバーによってはATの方が速く走れるのではないだろうか。
ステアリングを握ればわかる
ロータスがエキシージSにATを搭載した理由は、間違いなく販売台数を伸ばすためだろう。本来ならばエヴォーラがラグジュアリー路線を担うべきだが、スモールプラットフォームを使ったエキシージSの、グラマラスかつどう猛なデザインは、予想以上に多くの人々を引きつけた。だったらATがあれば、もっと売れるんじゃないか? という単純な理由だと思う。
だがこれは仕方のないことである。ロータスというメーカーは規模が小さく、貧乏でケチなのだ。だからできることはなんでもやる。あるものは何でも利用する。例えば今回ATとマッチングさせられたロードスターだって、エキシージSのルーフを取り外してホロにしただけのクルマ。「エキシージとは本来エリーゼをサーキット用にクローズド化したものが起源である」なんてことは、市場が求めれば当然無視だ。DCTだって、エンジンの供給元であるトヨタが持っていないのだからやらないし、やれない。「アルファ・ロメオ4C」が登場し、ダラーラ製のカーボンモノコックがもてはやされても、「お金の無駄」と見向きもしないで、16年間も同じアルミシャシーを使い続けている。
そんなやり方をわれわれに納得させるのは、彼らのエンジニアリング能力だ。最小限の素材で、最高の走りを。これはコーリン・チャプマンが「エリート」や「エラン」、果てはF1で実践してきたフィロソフィーにほかならない。ロータスの魅力は、プレミアムにあらず。それは、ステアリングを握れば誰でもわかることである。
(文=山田弘樹/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
ロータス・エキシージSロードスター
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4070×1800×1130mm
ホイールベース:2370mm
車重:1180kg
駆動方式:MR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:6段AT
最高出力:350ps(257kW)/7000rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/4500rpm
タイヤ:(前)205/45ZR17 88Y/(後)265/35ZR18 93Y(ピレリPゼロ コルサ)
価格:1022万7600円/テスト車=1107万5400円
オプション装備:メタリックペイント<カーボングレー>(16万7400円)/プレミアムパック(44万2800円)/コンビニエンスパック(8万1000円)/リアパーキングセンサー(8万1000円)/シートヒーター(7万5600円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:820km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:217.0km
使用燃料:21.2リッター
参考燃費:10.2km/リッター(満タン法)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。