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シボレー・コルベット クーペZ51(FR/8AT)

気分はアメリカンヒーロー 2015.04.24 試乗記 今尾 直樹 「シボレー・コルベット」のトランスミッションが8段ATに進化。多段化の恩恵と、アメリカが誇るスーパースポーツカーの走りを確かめた。

まるで映画のオープニング

2013年末に上陸した7代目コルベットが、発売1年目にして実質的な改良を受けた。オートマチックギアボックスが6段から8段に進化したのだ。おかげで、スポーツカー濃度がグワッとアップした。と、8段AT搭載の「Z51」に乗って思った。

白昼、GMジャパンの近くの路上に駐車しているZ51は、そこだけ異空間にするオーラを放っていた。まるでSF映画に出てくるスペースファイターである。グリルが初代に似せてあるところに、1953年に誕生したコルベットの歴史というものへのデザイナーの敬意が感じられる。日本ではスズキが軽自動車の名称で使っているため不可だけれど、「スティングレイ」のサブネームも本国では復活している。

ブラック塗装がカッチョいい。こんなの運転できるのかしら、というスーパーカー特有の雰囲気もある。インテリアもまたイカしている。Z51に標準のコンペティションバケットシートがこれまたカッコいい。

着座してスターターボタンを押すと、フロントノーズに隠された6.2リッターV8 OHVがブオンッと吠(ほ)える。眼前の8インチスクリーンに「CORVETTE」の文字が浮かんで消える。センターコンソールのスクリーンは伝統のチェッカードフラッグ・マークを映し出す。まるで映画のオープニングだ。気分はもうヒーロー。主人公は俺だ。

高性能グレードの「Z51」では、インテリアの各所にレザーやスエード調素材、カーボン調の加飾パネルなどが用いられている。
高性能グレードの「Z51」では、インテリアの各所にレザーやスエード調素材、カーボン調の加飾パネルなどが用いられている。
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スエード調表皮を用いた「Z51」用のバケットシート。ヒーターやベンチレーション機能が備わっている。
スエード調表皮を用いた「Z51」用のバケットシート。ヒーターやベンチレーション機能が備わっている。
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フロントフェンダーのエアベントのそばに貼られた「スティングレイ」(アカエイ)のバッジ。
フロントフェンダーのエアベントのそばに貼られた「スティングレイ」(アカエイ)のバッジ。
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今回の改良では、ATが8段(8L90型)に変更された。
今回の改良では、ATが8段(8L90型)に変更された。
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多岐にわたる8段ATの恩恵

正直に申し上げますと、「C7」のZ51に乗るのは初めてだった。昨年、スタンダードモデルの6ATは体験していた。結局、のんびりクルージングを楽しむのが一番ヨイ、と思った。最高出力460psのエンジン性能を引き出すには6ATでは下半分のギア比が高すぎる。一般道で試すには速度が速くなりすぎるのだ。

その点が大いに改善された。8段化によって、1速のギア比はより低く、トップの8速ギアは従来の6速と比較してより高くなった。ギアの枚数が増えたことで各ステップは小さくなり、6.2リッターV8 OHVのポテンシャルが引き出しやすくなった。加速は鋭くなり、野獣の咆哮(ほうこう)を聞けるチャンスががぜん増えたのだ。

0-60mph(97km/h)加速は3.7秒とコンマ1秒短縮した。トルクコンバーター式だから変速マナーは極めてスムーズ、それでいてシフトタイムはデュアルクラッチ式に負けていない。どころか、全開加速時のシフトアップは「ポルシェ911」のPDKを100分の8秒上回る、とGMは主張する。

8速トップのギア比が高められた恩恵で、100km/h巡航は1350rpm程度と、エンジン回転はいっそう低くなった。瞬発力が増す一方で、燃費は向上している。しかも、この8段AT、ギアが2枚増えたのに、アルミニウムとマグネシウム合金の多用により、従来の6段ATより4kg軽いという。車両価格は6万円しか上がっておらず、誠にいいことずくめなのだ。

8段ATのシフトセレクター。上部には「EIGHT SPEED」の文字が。
8段ATのシフトセレクター。上部には「EIGHT SPEED」の文字が。
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「LT1」と呼ばれる6.2リッターV8 OHVエンジン。「Z51」のものは最高出力が466ps、最大トルクが64.2kgmに高められている。
「LT1」と呼ばれる6.2リッターV8 OHVエンジン。「Z51」のものは最高出力が466ps、最大トルクが64.2kgmに高められている。
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メーターナセルの中央には、燃費や走行距離、オイルの温度やバッテリー電圧などを表示する液晶ディスプレイを装備。走行モードによって表示のデザインが切り替わる。
メーターナセルの中央には、燃費や走行距離、オイルの温度やバッテリー電圧などを表示する液晶ディスプレイを装備。走行モードによって表示のデザインが切り替わる。
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8段ATの採用に加え、標準グレードでは最終減速比を2.560から2.410へ変更。よりハイギアードとなった。なお「Z51」の最終減速比は2.730のままとなっている。
8段ATの採用に加え、標準グレードでは最終減速比を2.560から2.410へ変更。よりハイギアードとなった。なお「Z51」の最終減速比は2.730のままとなっている。
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走りに見る「アメリカ的合理主義」

乗り心地は可変ダンピングのマグネティックライドコントロールを標準装備するにもかかわらず、はっきり硬い。雨の日用からサーキット用まで、5種のドライブモードが設定されているけれど、どのモードでも硬い。前245/35ZR19、後ろ285/30ZR20のタイヤサイズは、スタンダードに比べてそれぞれ1インチ、アップしている。馬力とトルクの向上は6psと0.6kgmでしかないけれど、マッチョという名の味付けが濃くなっている。

コーナリング性能は超絶に高い。旋回時は最大1.03Gの横Gに耐える。ちなみにわれらが「日産GT-R」は1.6Gだそうである。でも、GT-Rよりもむしろコーナリングは無表情だ。大地にベタッと張りついたまま。ロールというものを一切しない。ただ横Gのみでコーナリング中であることを知る感じ。重心の低さ、トレッドの広さ、タイヤの太さが貢献しているに違いない。とりわけいかりを下ろしたごとくの安定感は、重心の低さゆえであるに違いない。ヘッドまわりがコンパクトなOHVをあえて採用し続けている理由がここにある。

エモーションはない。ここにあるのは、骨太なアメリカ的合理主義である。コルベットはマッチョイズムを前面に押し出した、反知性主義的スポーツカーのように見えるかもしれないけれど、そうではない。ポルシェ911やアストンマーティン、フェラーリなどのヨーロッパ製GTスポーツカーとレーシングフィールドで競い合ってきたサラブレッドである。サーキットで勝つことをひとつの目的にしているのだ。おまけに、アメリカの日常に、ヨーロッパや箱根のような山道はない。

「Z51」には専用の足まわりやドライサンプオイル潤滑方式、電子制御LSDなどが採用される。
「Z51」には専用の足まわりやドライサンプオイル潤滑方式、電子制御LSDなどが採用される。 拡大
「Z51」のタイヤサイズは前=245/35ZR19、後ろ=285/30ZR20。サスペンションには「マグネティックライドコントロール」と呼ばれる磁性流体ダンパーが装備される。
「Z51」のタイヤサイズは前=245/35ZR19、後ろ=285/30ZR20。サスペンションには「マグネティックライドコントロール」と呼ばれる磁性流体ダンパーが装備される。
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「C7」世代の「コルベット」には、モータースポーツで培ったノウハウが各所に採り入れられている。リアクオーターウィンドウの横に開けられた、トランスミッションやリアデファレンシャルを冷却するエアインテークも、そのひとつ。
「C7」世代の「コルベット」には、モータースポーツで培ったノウハウが各所に採り入れられている。リアクオーターウィンドウの横に開けられた、トランスミッションやリアデファレンシャルを冷却するエアインテークも、そのひとつ。
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「コルベット クーペ」はルーフの脱着が可能。ルーフはカーボン製で、トランクルームに収納できる。
「コルベット クーペ」はルーフの脱着が可能。ルーフはカーボン製で、トランクルームに収納できる。
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一般道では味わい尽くせない

結局、コルベットZ51に試乗して何に一番感動したか?

スターターボタンを押した瞬間である。ブオンッと野獣の叫びをあげて6.2リッターV8が目を覚まし、メーターナセルの中の8インチスクリーンに「CORVETTE」の文字が浮かぶ、あの刹那(せつな)しかない。あとは、まあ、性能が高すぎて、手に負えない。味わい尽くすには広い私有地がいる。生半可な腕前ではカタルシスというものは味わえない。その意味では、ランボルギーニ級のスーパーカーなのだ。

それなのに、フロントエンジンのリアゲート付き2人乗りなので、十分な実用性がある。エンジンは直噴、連続可変バルブタイミングで、可変気筒システムなどを採用しているけれど、気難しいところはない。エコモードを選べば、サルーンのように静かである。乗り心地は男らしく硬いけれど、不快ではない。ポルシェ911のように毎日乗れる。一日をアメコミヒーロー映画気分で始められたら、どんなにステキだろう。

(文=今尾直樹/写真=荒川正幸)

マフラーはセンター4本出し。「Z51」にはエンジンの最高出力、最大トルクを高める「パフォーマンスエキゾースト」が装備される。
マフラーはセンター4本出し。「Z51」にはエンジンの最高出力、最大トルクを高める「パフォーマンスエキゾースト」が装備される。
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エッジの効いたプレスラインと、初代「コルベット」をモチーフにしたラジエーターグリルが特徴的なフロントまわり。空力性能も考慮しており、グリルから取り入れた空気をボンネット上のエアベントから放出することで、揚力の発生を抑えている。
エッジの効いたプレスラインと、初代「コルベット」をモチーフにしたラジエーターグリルが特徴的なフロントまわり。空力性能も考慮しており、グリルから取り入れた空気をボンネット上のエアベントから放出することで、揚力の発生を抑えている。
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テスト車のデータ

シボレー・コルベット クーペZ51

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4510×1880×1230mm
ホイールベース:2710mm
車重:1570kg
駆動方式:FR
エンジン:6.2リッターV8 OHV 16バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:466ps(343kW)/6000rpm
最大トルク:64.2kgm(630Nm)/4600rpm
タイヤ:(前)245/35ZR19 89Y/(後)285/30ZR20 95Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:シティー=16mpg(約6.8km/リッター)、ハイウェイ=29mpg(約12.3km/リッター)(標準グレード、米国EPA値)
価格:1105万円/テスト車=1144万1000円
オプション装備:シボレー・コルベット専用MyLink統合制御ナビゲーションシステム(35万円)/フロアマット(4万1000円)

テスト車の年式:2015年型
テスト車の走行距離:3292km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(5)/山岳路(3)
テスト距離:383.5km
使用燃料:53.0リッター
参考燃費:7.2km/リッター(満タン法)/7.1km/リッター(車載燃費計計測値)

シボレー・コルベット クーペZ51
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今尾 直樹

今尾 直樹

1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。

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