フォルクスワーゲン・トゥアレグV6アップグレードパッケージ(4WD/8AT)
コツコツと進化 2015.07.01 試乗記 マイナーチェンジでデザインや装備が見直された、フォルクスワーゲンのフラッグシップSUV「トゥアレグ」。試乗してみると、その地道なリファインの成果がまざまざと見えてきた。あのころ君は輝いていた
トゥアレグのマイナーチェンジをニュースで知り、ちょっと驚いたのがそのラインナップだ。それまでは、3.6リッターV6と、スーパーチャージャー付きの3リッターV6にモーターを組み合わせたハイブリッドの2タイプが展開されていたのが、マイナーチェンジを機に前者のV6一本になったからだ。日本ではこのトゥアレグがフォルクスワーゲンのフラッグシップモデルなのはご存じの通りだが、V8相当のパワーを誇るハイブリッドがカタログ落ちして、V6しか選べなくなったことに寂しさを感じたのだ。
そうはいっても、日本のフォルクスワーゲンの中でV6を積むのは、いまやこのトゥアレグだけ。フラッグシップの面目は保たれているのだが、初代「ポルシェ・カイエン」とともにプレミアムSUVブームを巻き起こした初代トゥアレグは、4.2リッターV8に加えて6リッターW12が限定販売されたり、海外では5リッターV10ディーゼルが用意されていたり。勢いのあった当時を知る者としては、「せめてエンジンくらい選ばせてくれよ……」と思うのである。
ただ、残された3.6リッターV6が個人的に好きなエンジンというのは“不幸中の幸い”だ。エンジンのコンパクト化を図るために、バンク角15度という狭角V型レイアウトを採用したいわゆる「VR6」エンジンは、のちにバンク角が10.6度へとさらに狭められたもので、フォルクスワーゲンのこだわりが詰まっている。しかも、もはや絶滅危惧種ともいえる自然吸気エンジンとなると、活躍の場を残してくれたことに感謝せずにはいられない。
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りりしくなったフロントマスク
さて、マイナーチェンジにより、グレードは「トゥアレグV6」と今回試乗した「トゥアレグV6アップグレードパッケージ」の2つになった。前者が標準モデル、後者がその装備充実版という位置づけである。
肝心のマイナーチェンジの内容だが、ハイライトはフロントマスクが一新されたこと。見ての通り、フロントグリルやフロントバンパー中央のエアインテークにクロムの水平バーを配置することで、これまで以上にシャープでスポーティーな印象を強めている。LEDポジショニングライト付きのバイキセノンヘッドライトも精悍(せいかん)さを高めるのに一役買っている。最近のフォルクスワーゲンに共通のイメージである。
一方、広く豪華なキャビンは、新旧を見比べなければ違いを言い当てるのは難しいだろう。基本的にはマイナーチェンジ前のデザインを踏襲しているからだ。ただ、メーターやエアコンの操作ボタンに従来はレッドの照明を使っていたが、それがホワイトとなったことで、今風の上質な雰囲気に仕上がっている。
安全装備は、以前からプリクラッシュブレーキシステムの「フロントアシストプラス」が標準装着されていたが、衝突時の2次被害を防ぐ「マルチコリジョンブレーキ」を新たに搭載。全車速で先行車に追従する「アダプティブクルーズコントロール」が全車に標準となり、さらにアップグレードパッケージには車線逸脱を警告する「レーンアシスト」や車線変更時に事故の危険を知らせる「サイドアシスト」を搭載するなど、最新のレベルにバージョンアップが図られている。
3.6リッターV6と8段オートマチックが組み合わされるパワートレインは、基本的にはマイナーチェンジ前と同じ……と思っていたが……。
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燃費をよくする改良点も
V6エンジンは最高出力280ps、最大トルク36.7kgm(360Nm)のスペックに変更はない。2代目に生まれ変わるにあたり、約70kgの大幅なダイエットに成功したトゥアレグは、発進こそややのんびりした感じがするものの、いったん走りだしてしまえば、このV6でも不満のない加速を見せてくれる。
自然吸気エンジンだけに、アクセルペダルの操作に対するレスポンスは良好なうえ、アクセルペダルを深く踏み込むと“VR6ならでは”のスポーティーなサウンドを響かせながら気持ちよく吹け上がるのがなんとも楽しい。SUVに載せておくのが惜しいくらいだ。
そのあたりは以前と変わらぬ印象だが、目新しいところもある。トゥアレグV6には2代目が登場したときから、「ブルーモーションテクノロジー」、すなわち、アイドリングストップ機構とブレーキエネルギー回生機構が搭載されているのだが、マイナーチェンジ後のモデルではその動きが少しだけ変わっていた。それは、ブレーキを踏んでスピードを落としているとき、完全にクルマが止まる前にエンジンが停止するようになったのだ。スピードメーターで確認すると、7km/h以下でエンジンが自動的にストップする。
さらに、アクセルをオフにした際、トランスミッションをニュートラルの状態にしてエンジンブレーキがかからないようにすることで燃費向上を図る、「フリーホイール機構」なども採用。JC08モード燃費は9.8km/リッターで以前と変わらないが、こういう地道な努力も見逃せない部分だ。
トゥアレグにもあの切り札を!
足まわりや「4XMOTION」と呼ばれるフルタイム4WDシステムも、基本的にはこれまでのものを踏襲するが、あらためて走らせてみると、全長×全幅×全高=4815×1945×1745mmという堂々たるボディーサイズや2190kgの車両重量から想像するよりもはるかにスポーティーな動きを見せてくれる。試乗車にはオプションのエアサスペンションが装着されていなかったものの、乗り心地は十分快適で、フラット感もまずまず。スタビリティーにも優れ、高速の移動は実に快適だった。
そのうえ、余裕あるボディーサイズとしっかりとしたボディーのおかげで絶大な安心感に包まれながら走っていると、たとえ街中の狭い駐車場で苦労しても、乗る理由は見つかると思う。
ただ、このサイズのクルマだけに試乗時の燃費は7.6km/リッターで、高速でも9.0km/リッター程度にとどまった。そうなると、燃費と動力性能をワンランクアップさせるTDI(ディーゼルターボエンジン)が欲しくなる。
ドイツのラインナップを見るとすべてV6ディーゼルで、ガソリンエンジンが設定されるのはアジア、北米、ロシアくらい。フォルクスワーゲン グループ ジャパンでもいよいよTDIを投入するということだが、残念ながら現段階ではトゥアレグにその予定がなく、検討が続けられている状況である。他の輸入ブランドが、SUVやステーションワゴンにディーゼルエンジンを設定し、期待以上の効果を得ていることを考えると、トゥアレグこそTDIを用意すべきではないかと思えてならない。私のようなマニアは別として、V6エンジンだけではトゥアレグのファンは広がらないからだ。
というわけで、フォルクスワーゲン自慢のTDIの導入を切に願う。それが、あのころの輝きを再び取り戻すカギになると思うから。
(文=生方 聡/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・トゥアレグV6アップグレードパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4815×1945×1745mm
ホイールベース:2905mm
車重:2190kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.6リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:280ps(206kW)/6200rpm
最大トルク:36.7kgm(360Nm)/2900-4000rpm
タイヤ:(前)255/55R18 109Y/(後)255/55R18 109Y(コンチネンタル・クロスコンタクト)
燃費:9.8km/リッター(JC08モード)
価格:686万円/テスト車=686万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:6937km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:285.4km
使用燃料:37.6リッター
参考燃費:7.6km/リッター(満タン法)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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