マツダCX-3 XDツーリング(FF/6AT)/CX-3 XDツーリング Lパッケージ(4WD/6AT)
ブームで終わらせないために 2015.07.22 試乗記 クリーンディーゼルエンジンを搭載したマツダのコンパクトSUV「CX-3」で、初夏の北海道をドライブ。FF車と4WD車の比較試乗を通して気づいた、長く付き合えるクルマとなるための条件とは?北の大地でFF車と4WD車の両方を試す
北海道の旭川空港から占冠村(しむかっぷむら)のトマムリゾートまで、そして翌日は旭川空港へ戻る、およそ260kmのロングドライブをCX-3と共にした。時間に制約のある通常の公道試乗会では気づけないCX-3の美点を存分に味わってほしい、というマツダからの提案である。
往路はFFモデル、帰路は4WDモデルに試乗した。共にトランスミッションは6段ATだ。
ロングドライブで得られる一番のメリットは、1.5リッター直噴ディーゼルエンジンの特性を存分に味わえることだろう。
ただ本音を言うと、このエンジンの良さはそれなりに飛ばしたときの高速巡航性能と、街中でのストップ&ゴーにある。だから今回のように北の大地の一般道を中心に走るロングドライブでは、ひたすらに低速走行での平和な時間が流れ、同乗したカメラマンや担当編集者のK氏との車内での話も、おのずとシャシーの出来栄えに集中してしまった。
オフシーズンの北海道は、東京に比べると圧倒的にクルマが少なく、せかせかとアクセルを踏んでスタートダッシュを決める必要はまったくない。隣町まで見渡せそうな、ひたすらまっすぐな道路を見ながら、ちょっと調子が狂う筆者であった。
もはや単なる“節約エンジン”ではない
もっとも、このパワーユニットのよさは、舞台が北海道でなかったとしてもまったく揺るがない。27.5kgmにもなる最大トルクを1600~2500rpmの広範囲で発生させるエンジンを、6段もあるATで走らせるのだから、常識的な運転をする限りは常に最大トルクをキープして走り続けることができるわけで、速度域が上がれば上がるほどアクセルを踏み込む必要性がなくなってくる。そして低回転域で右足にそっと力を込めるような状況でも、エンジンはチリチリと不快なノック音を立てることもないし、室内への遮音もきちんと利いている上に、スーッとブーストが掛かって加速態勢に入ることができる。CX-3は同じエンジンを積む「デミオ」に比べて車重が重い分、加速感に若々しさはないけれど、それは穏やかな性格と言い換えることもできる。
重箱の隅をつつくとするならば、試乗車に装着されている「ナチュラルサウンドスムーザー」を手に入れるためには、「i-ELOOP」(アイ・イーループ:減速エネルギー回生システム)と抱き合わせで6万4800円も支払わなければならず、それを燃費で回収するには、どれくらいの時間と距離が必要なのか……ということくらいである。
もっとも、こんな考えが浮かぶのは、筆者が「ディーゼルエンジンは節約エンジンである」という固定観念に縛られているからかもしれない。このSKYACTIV-Dは、2.5リッター並みのトルクを持つ1.5リッターエンジンであると同時に、ムダにアクセルを踏み込まない運転ができる快適なエンジンと言い換えることもできる。要するにディーゼルはもはや“ケチんぼ向けエンジン”ではなく、車両のドライバビリティーに貢献する嗜好(しこう)品なのだ。であれば、より上質なディーゼルライフに貢献するナチュラルサウンドスムーザーのようなオプションの設定も納得できるし、遮音技術の向上は技術開発の過渡期といえる現在において、優しく見守るべき性能なのかもしれない。というかマツダのディーゼル、静かですし。
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改善の跡は見られるものの
そしていよいよシャシーの話になる。
筆者はこれまでの試乗会での経験から、CX-3に対しても、一連のマツダ車に当てはまる“フロントオーバーステア”を感じていた。簡単に言えば操舵(そうだ)に対して思った以上にフロントタイヤが切れ込み、思った以上にロールし、その反応は過敏である、と評価していた。対してリアタイヤは路面をどっしりとつかみ、安定している。リアのスタビリティーが高いんだったら安全じゃないか、とも言えるのだが、人間の感性に対してはいささか不自然だと感じていたのだ。
こういった評価に対してシャシー部門のエンジニア氏は、フロントダンパーのフリクションが原因だと言及。ダンパーには試乗会後修整を施し、さらに距離を走らせた今回の試乗車なら、「真のCX-3を味わってもらえるはず」と、極めて真摯(しんし)に回答してくれた。
果たしてその結果は、「ほう……」と呟(つぶや)くものがあった。ダンパーおよびブッシュ、前後サブフレームまわりの渋さが取れた足まわりは、リアサスペンションの素直な伸縮を実現し、転舵(てんだ)に対してタイヤのグリップだけで鼻先がクイッと曲がるような過敏さは影を潜めた。ただしダンパーのダンピング剛性はいまだに低く、コーナーでは外側のフロントサスペンションだけが倒れ込もうとする動きがまだ消えていない。
またこのダンピング剛性の弱さは、乗り心地にも影響が出た。北海道は国道を外れると、わりあい路面が荒れている。ここでの垂直方向の突き上げに対してCX-3のダンパーは弱く、ときおりドカン! と衝撃が入り込む。特にリアシートの乗員は苦労していた。
さらに、試乗車のレザーシートはクッションは厚いのだが表皮の張りも強く、路面からの入力に対してバウンスを増幅させてしまう、という特徴も持っていた。たとえば体重の軽い子供がここに乗ったときなどは、いつまでもバウンスが収まらないのではないかと思う。
4WDは乗り心地で選ぶグレード?
面白かったのは、帰路に乗車した4WDモデルが、FFモデルのネガをかなり打ち消していたことだ。操舵に対するロールは自然で、乗り心地もはるかに滑らか。これを多方面から分析すると、まずリアタイヤを駆動させるためのプロペラシャフトやドライブシャフトなどが前後の重量配分を適正化し、かつ重心を低めたからだと思われる。また試乗車のリアシートはパンチングレザータイプとなっており、どういうわけかクッションが柔らかい。もちろん車両の個体差も考えたが、この傾向は以前も同じだった。
ただ意地悪なことを言えば、FFモデルも4WDモデルも、絶対的なダンパーおよびブッシュの剛性は足りていない。欧州仕様も同じ部材を使っているとのことだったが、荒れた路面も多いかの地で文句がでないのはちょっと不思議だ。同時に、北海道を試乗の舞台としたマツダの選択は、実際はちょっと裏目に出たかな……と感じた。
ただ筆者は、マツダCX-3を激しく応援している。厳しく言うのは期待の裏返しだ。なぜならいまディーゼル車を買うとすると、マツダ以外だと事実上、欧州メーカーのクルマを購入することになる。いくらディーゼル車が嗜好品といっても、それは経済性とはかなりかけ離れた話となってしまうからである。欧州車に乗りたいという気持ちが先立ち、そのなかでより経済的なものを……となる気持ちもわかる けれど、ちょっと贅沢(ぜいたく)だ。そこで頑張るべきは、やはり国産車なのである。
長く付き合えるクルマに育ててほしい
CX-3はそのデザインコンシャスなルックスと、割り切りを見せた居住性、そしてこのディーゼルエンジンという3つのパンチで市場のハートをつかんだ。最初から“道具然”としたディーゼル車を出していたら、そうはならなかっただろう。「日産エクストレイル」が方向転換したのを見ていても、それはわかる。日本人ユーザーの心は移り気で、大衆というものはボクも含めてルックスに引かれるものだからだ。
日本人にとって、まだまだクルマは贅沢品だ。経済状況が一向によくならない現在、なおさらその傾向は強くなると思う。だからこそ、このCX-3のデビューを成功させた今、“次”が課題となっている。このグッドルッキングを維持したまま、一過性のブームではない「長く使える一台」としてこそ、ディーゼル車の本領が発揮されると思う。中古車でもCX-3なら恥ずかしくない。新車が買えればなおよし。そんな立ち位置を3代築ければ、ひとつの歴史ができるだろう。
だから次のマイナーチェンジまでには、骨太な足腰をしれっと用意してほしいのだ。
(文=山田弘樹/写真=高橋信宏)
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テスト車のデータ
マツダCX-3 XDツーリング
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4275×1765×1550mm
ホイールベース:2570mm
車重:1270kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:105ps(77kW)/4000rpm
最大トルク:27.5kgm(270Nm)/1600-2500rpm
タイヤ:(前)215/50R18 92V/(後)215/50R18 92V(トーヨー・プロクセスR40)
燃費:23.2km/リッター(JC08モード)
価格:259万2000円/テスト車=287万2800円
オプション装備:セーフティクルーズパッケージ<車線逸脱警報システム(LDWS)+マツダ・レーダークルーズコントロール(MRCC)+スマートブレーキサポート(SBS)+ハイビームコントロールシステム(HBC)>(11万8800円)/CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(フルセグ)(3万2400円)/Boseサウンドシステム+7スピーカー(6万4800円)/イノベーションパッケージ<i-ELOOP+ナチュラルサウンドスムーザー>(6万4800円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:5888km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:124.3km
使用燃料:--リッター
参考燃費:17.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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マツダCX-3 XDツーリング Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4275×1765×1550mm
ホイールベース:2570mm
車重:1340kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:105ps(77kW)/4000rpm
最大トルク:27.5kgm(270Nm)/1600-2500rpm
タイヤ:(前)215/50R18 92V/(後)215/50R18 92V(トーヨー・プロクセスR40)
燃費:21.2km/リッター(JC08モード)
価格:302万4000円/テスト車=318万6000円
オプション装備:CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(フルセグ)(3万2400円)/Boseサウンドシステム+7スピーカー(6万4800円)/イノベーションパッケージ<i-ELOOP+ナチュラルサウンドスムーザー>(6万4800円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:4152km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:137.9km
使用燃料:--リッター
参考燃費:17.0km/リッター(車載燃費計計測値)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。