ボルボXC60 D4 SE(FF/8AT)/V40 D4 SE(FF/8AT)
迷う余地なし!? 2015.07.23 試乗記 主要5モデルにディーゼルエンジン車を一気に設定し、日本市場に攻勢をかけるボルボ。国内販売の5割以上をディーゼルが占めることになると同社は言うが……。「XC60」と「V40」に試乗し、その出来栄えを確かめた。「D4」を一挙発売
ここにきて輸入ディーゼル車市場の動きが活発になってきた。ディーゼル乗用車冬の時代にメルセデスが風穴をあけたのが2006年のこと。その後、メルセデスとBMWがじわじわとラインナップを増やしていたが、2012年にマツダが「CX-5」にディーゼルを載せたあたりから日本でもその認知度がグングン上がり、輸入車販売におけるディーゼル比率はいまや10%にまで膨らんできている。
そんな動きを他の輸入車ブランドがただ指をくわえて見ているわけもなく、現にフォルクスワーゲンやアウディはディーゼル車導入までの最終段階にあるのだが、ドイツ以外にもディーゼル車投入の機会を狙っていたブランドがあった。それがボルボで、「V40」「V40クロスカントリー」「S60」「V60」そして「XC60」の主要5モデルに「D4」と呼ばれるディーゼルエンジン仕様をイッキに設定したのである。
ボルボは「Drive-E」という新パワートレイン戦略により、新しいガソリンエンジンとディーゼルエンジンを生産している。日本でもその第1弾として2012年2月に新しい直列4気筒ガソリンエンジンが導入されている。そして、そのガソリンエンジンと並行して開発されたディーゼルエンジンが、ついに日本にも投入されたのである。
D4には日本のテクノロジーも
D4は、排気量2リッターの直列4気筒ディーゼルターボエンジンで、最高出力190ps(140kW)/4250rpm、最大トルク40.8kgm(400Nm)/1750-2500rpmの実力を持つ。ディーゼルエンジンだけに、低回転で強大なトルクを発生させるのが特徴で、ボルボの3リッター6気筒ターボ「T6」の44.9kgmに迫る最大トルクを誇りながら、燃費は倍以上を達成。実際、D4搭載モデルではV40クロスカントリーの21.2km/リッターを筆頭にJC08モード燃費は軒並み20km/リッター超え。XC60でも18.6km/リッターというから、長距離移動の多い人にとってはただ事ではない。
これにはさまざまな技術が貢献しているが、なかでも注目したいのが新しい燃料噴射技術。最高2500バールの噴射圧力に加えて、シリンダーごとに燃料噴射を調整する「i-ART」システムにより低燃費と高性能、そして、低排出ガス性能を実現するという。日本のデンソー製インジェクターを用いたこの方法が乗用車に搭載されるのはボルボのD4が初めてで、さらに、8段オートマチックはアイシン・エィ・ダブリュ製と、日本の技術が最新のボルボを支えていると知ると、なんだか応援したくなった。
そんなD4エンジン搭載モデルから、まずは重量級の「XC60 D4 SE」を選んで試してみる。XC60には2リッターガソリンターボを積むFFモデルの「T5」と「T5 SE」があるが、同じSE同士で比べるとD4は20万円高となる。一方、性能は、T5 SEが最大トルク35.7kgm、JC08モード燃費が13.6km/リッターだから、トルクで5.1kgm、JC08モード燃費で5.0km/リッター上回ることになる。
SUVにはD4が似合う
ミッドサイズSUVのXC60は、FFのT5でも車両重量は1770kg。試乗したD4 SEはサンルーフ付きということもあって1810kgでプラス40kgになるが、発進は期待以上に力強かった。アイポイントが高く、視界が良いドライビングポジションに慣れてしまうと、ガタイのいいSUVを運転しているのを忘れてしまいそうだ。動きだすと、一般道では60km/hを6速、1300rpmくらいでスルスルと走り、ある程度なら、アクセルペダルに載せた右足にわずかに力をこめるだけで、スッと加速してみせる余裕がうれしい。坂道でも低い回転を保ったまま登ることができ、試乗中は力不足を感じることがなかった。
キャビンの中にいるかぎりはディーゼル特有の音や振動はあまり気にならない。アクセルペダルを深く踏んで加速する場面では多少ボリュームが大きくなるとはいえ十分許せるレベルである。それよりも、2000rpm手前からグイグイと加速するフィーリングを味わってしまうと、もうディーゼルから離れられなくなる。5000rpmまで力強くスムーズに回るスポーティーさも魅力的だ。
高速への流入でこの感覚を楽しんだあとは、しばらくのんびりと巡航。100km/hの回転が1500rpmと低く抑えられるギア比のおかげで、エンジンの音はまったくといっていいほど気にならない。このXC60 D4 SEで一般道と高速道路を約40km走行したが、その際の燃費は14.9km/リッターとなかなか優秀。しかも、加速に余裕があるとなると、XC60でこのD4を選ばない手はない。
V40がスポーツカーに
XC60から最もコンパクトなV40に乗り換えると、その走りはスポーツカーのよう。車両重量はガソリンエンジンの「T4」より120kg重い1550kgに達するが、それでもD4による加速は圧倒的で、V40に別の魅力を与えることになった。
一方、車両重量がかさむぶん足まわりは少し硬めになっていて、快適さという点ではガソリンのT4が一枚上手。XC60に比べるとエンジンの音や振動が伝わりやすい傾向にあるが、それでもある程度までスピードが上がれば意識せずに済むのはXC60と同様である。さらなる低燃費を求めてディーゼルを選ぶという買い方もあるが、むしろスポーツモデルとして位置づけたほうがわかりやすいV40 D4。ライバルは案外「T5 R-DESIGN」かもしれない。
試乗の合間には「S60 D4 R-DESIGN」も試すことができたが、走り、静粛性、快適性のすべてが高いレベルにあり、そのトータルバランスには舌を巻くほどである。
こうしてD4エンジン搭載車に立て続けに乗ると、D4を選ばない理由が見あたらなくなってくる。もちろんガソリン車に比べればD4の車両本体価格は高額だが、エコカー減税や燃料代のコストを考えるとその差は思いのほか小さい。それで、力強い加速が手に入り、CO2排出量が減らせるのなら、クルマ好きにとっては見逃すわけにはいかないだろう。
ヨーロッパの主要国ではディーゼル比率が9割に達することもあるというボルボ。日本ではその比率を5割くらいにまで高めたいと考えているようだが、D4の出来栄えを見ると、その実現は難しくないと思った。
(文=生方 聡/写真=高橋信宏)
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テスト車のデータ
ボルボXC60 D4 SE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4645×1890×1715mm
ホイールベース:2775mm
車重:1810kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:190ps(140kW)/4250rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)235/60R18 103V/(後)235/60R18 103V(コンチネンタル・コンチエココンタクト5)
燃費:18.6km/リッター(JC08モード)
価格:599万円/テスト車=695万6000円
オプション装備:電動パノラマガラスサンルーフ(20万6000円)/メタリックペイント(8万3000円)/FOUR-Cアクティブパフォーマンスシャシー(15万円)/モダンウッドパネル(4万7000円)/プレミアムサウンドオーディオシステム/マルチメディア(12万円)/レザーパッケージ<本革シート+フロントシートヒーター+12セグ地上デジタルTV>(36万円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1581km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:14.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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ボルボV40 D4 SE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4370×1800×1440mm
ホイールベース:2645mm
車重:1550kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:190ps(140kW)/4250rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)205/50R17 93W/(後)205/50R17 93W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:20.0km/リッター(JC08モード)
価格:399万円/テスト車=463万9000円
オプション装備:パノラマガラスルーフ(19万円)/メタリックペイント(8万3000円)/歩行者エアバッグ(6万2000円)/モダンウッドパネル(2万1000円)/PCC(パーソナル・カー・コミュニケーター)キーレスドライブ(3万1000円)/パークアシストパイロット+パークアシストフロント(5万2000円)/レザーパッケージ<本革シート+助手席8ウェイパワーシート+フロントシートヒーター>(21万円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2708km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。