第311回:「ポルシェ911カレラ」が衝撃のリニューアル! ターボ化した新型の実像に迫る
2015.09.22 エディターから一言![]() |
2015年9月、次期型「ポルシェ911カレラ/911カレラS」のパワーユニットが、これまでの自然吸気エンジンではなく、ツインターボエンジンになることが明らかにされた。いままでなかった、さまざまな先進装備も多数搭載。それで、この歴史あるスポーツカーはどう変わるのだろうか? ポルシェに詳しいモータージャーナリスト 河村康彦が、ドイツで得られた詳しい情報をお伝えする。
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かつてないレベルのマイナーチェンジ
正式なアンベールが行われる、「フランクフルトモーターショー2015」の開幕と時を同じくして、新型ポルシェ911の受注が日本で開始された。デビューから丸4年、そのモデルライフの半ばを過ぎて大幅なリファインが実施された、991型のニューバージョンである。
そのリファインのメニューには、グラフィックスが変わったテールランプや、縦スリット入りグリルを用いた新しいエンジンリッド、さらには新デザインのステアリングホイールなど、一般のマイナーチェンジにありがちな“見た目の新鮮さをアピールするための内容”も、もちろん含まれてはいる。
しかし、そうしたルックス面の変更よりもはるかに重要なのは、疑いもなく、911カレラ/911カレラSへの新エンジンの搭載や、新たに開発されたテレマティクスシステムの採用、さらには、コンフォート性と走りのパフォーマンスをより高い次元で両立させるチューニングが施された新たなシャシーの開発といった、メカニズム面でのさまざまなニュースである。
「これまでのポルシェ車に施されたマイナーチェンジの中でも、今回の991型のリファインには、最大級のハードウエア変更が盛り込まれた」と言っても過言ではない。
そうした“中身の濃さ”を裏付けるかのように開催されたのが、ここに紹介する、新型911を対象とした「テクノロジー・ワークショップ」である。
それがわずか数時間のプログラムであることは、あらかじめ明らかにされていた。しかし参加をためらうことなく、たった1泊の予定で、本拠地のドイツに行ってきた。
ベストとしての「3リッター+ターボ」
ワークショップの会場となったのは、ドイツ最大のハブ空港が存在する大都市フランクフルトと、ポルシェが本社を構えるシュトゥットガルトのほぼ中間に位置する、ドイツでも有数のサーキットであるホッケンハイムリンク。
そのパドックに特設された複数の“教室”で、パワートレイン、シャシー、そしてテレマティクスシステム……というように分野ごとに分かれて講義を受けながら、その合間に、開発拠点であるバイザッハ研究所のテストドライバーが駆る“新型のタクシーライド”も体験する―― そんな形でプログラムは進行した。
日本には来年上陸することが予想される新型911で、誰もが気にするであろう最大の注目点―― それが、911カレラシリーズでは初となるターボチャージャーを装着した、3リッターの新エンジンにあることは間違いないだろう。
従来の991型に搭載されたパワーユニットは、カレラ用が3.4リッター、カレラS用が3.8リッターで、いずれも自然吸気エンジン。それが、フラット6という伝統のデザインはキープしつつも、共に3リッターの“ツインターボ付き”となったのだから、コトは重大だ。
排気量を落としたうえで過給を行い、高い出力を確保しながら燃費を向上させるという手法は、いわゆるダウンサイズエンジンの常とう手段とされている。もっともポルシェでは、これをダウンサイジングとは呼ばずに“ライトサイジング”と表現している。
カレラ用とカレラS用のユニットを、従来のように異なる排気量とするか、それともひとつにまとめるかという点については、社内でもさまざまな議論が行われたという。その結果、「今回は燃焼室をひとつのデザインとした方が、将来の拡張性などの点でメリットがあると判断し、同一排気量に決定した」とは、担当エンジニア氏の弁である。
3リッターという数字も、「より大きなものから小さなものまで、さまざまな排気量で検討を重ねた結果、性能と効率の両面からベストと判断して決められたもの」という。
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音への配慮も万全
そんな両グレードに積まれるエンジンは、一部補器類などを除いて、本体は基本的に同一の構造。そのうえで、カレラ用(最高出力:370ps、最大トルク:45.9kgm)とカレラS用(420ps、51.0kgm)とでアウトプットが異なるのは、ターボチャージャーの容量やエキゾーストシステム、エンジンマネジメントシステムなどの違いによるものだという。
燃焼室の中央直上にインジェクターを配すなど、全面新設計が図られたシリンダーヘッドや、プラズマビームによるシリンダー面の鉄コーティング、吸気側バルブのリフト量&タイミングの可変制御や、排気側バルブのタイミング可変制御、さらには新たなポリマーを用いたオイルパンなどは、どちらのエンジンにも共通するテクノロジーだ。
ところで、排気量が下げられたうえに、2基のターボユニットによって排ガスのエネルギーが“回収”されると聞くと、多くの人は、そのサウンドの質を危惧するはず。実際、ダウンサイジング+ターボによって音の魅力が大きく損なわれたF1マシンのような例もある。特にポルシェ911のように、「音もアイコンのひとつ」という歴史あるモデルにとって、いくらパワーと燃費が向上したといっても、“あの音”が少しでも損なわれるようなことになれば、長年のファンは決して納得するはずがない。
そこで「エモーションこそが重要」と語るポルシェ開発陣は、そんな心配と期待に応えるべく、今回の新型に3種類のエキゾーストシステムを開発した。
ひとつはベースグレードのカレラ用で、もうひとつが2つのフラップを内蔵するカレラS用。さらにオプションアイテムとして、中央寄りに配されたデュアルテールパイプが見た目にも特徴的な、可変スイッチ付きの「スポーツエグゾーストシステム」が両グレードに設定されている。
同時に、キャビン内に魅力的なサウンドを導く「サウンドシンポーザー」も採用。ただし、それは音の伝わる経路を効果的に変化させるもので、「スピーカーからのエンハンスなど、デジタル的なアイテムは用いていない」という。
テレマティクスシステムも進化
そんな新しいパワーユニットの採用とともに、特に日本仕様では見逃すことのできない大きなニュースが、ポルシェ独自のテレマティクスシステム「PCM(ポルシェ・コミュニケーションマネージメント)」の登場だ。これまで長年採用が見送られてきたが、ついに今回、導入の運びとなった。
現状では、まだ日本仕様の全機能は明らかになっていないものの、アイシン・エィ・ダブリュとの共同開発によるVICS対応のカーナビゲーション機能をはじめ、スマートフォンとのリンクやタッチスクリーンよる操作、Google Earthやストリートビューへの対応など、今回新たに開発された欧州市場向けの最新システムと、ほぼ同様の機能が使えるようになるという。
いずれにしても、これまで日本仕様のすべてのポルシェ車が、市販型の2DINナビを“はめ込んだだけ”という状態に甘んじていたことを思えば、これは、画期的な一歩と言うに値するものだ。
そして当然、この新型911カレラシリーズへの導入を皮切りに、同様のシステムが、今後刷新されるすべてのポルシェ車に採用されることが見込まれる。
プレミアムブランドの作品としては、唯一“テレマティクス難民”の状態にあったポルシェ。そのハンディキャップがようやくPCMの採用によって解消される。車両トータルとしての魅力が、今後大きく高まっていくこと間違いナシだ。
ところで、他国からの参加チームと共にテーマ別のパビリオンを巡るカタチで行われた今回のワークショップで、日本チームに与えられた最初のタスクは、実は「テストドライバーが駆る新型への同乗」だった。そう、これまで紹介してきた、さまざまな項目についての座学を受ける前に、われわれはまず“新型の走りの実力”を体験してしまったのだ。
走りも明らかに磨かれている!
今回当方にあてがわれたのは、先に紹介したスポーツエグゾーストシステムをオプション装着した、「911カレラSカブリオレ」のPDK仕様。実は個人的にも大いに危惧をしていたサウンドについては、エンジンに火が入った瞬間に、それが杞憂(きゆう)であるとわかった。
何しろその音色は、自然吸気エンジンを搭載した従来型と見分け、いや、聞き分けることができないほどだ。911ならではの「あのサウンド」は、取りあえずエンジン始動の瞬間は、紛れもなく健在だった。
そして、そんな音に関する好意的な印象は、7500rpmという、ターボ付きユニットとしては異例に高いレッドラインに至るまで、一切変わることがなかった。わずかにボリュームが小さくなった感はある。が、音色自体はまさに「911のサウンド」そのもの。スポーツプラスモードでのアクセルオフした時の、あのアフターファイア的な破裂音も健在だ。
そして何よりも素晴らしかったのが、その走りのポテンシャル。なるほど、3000rpmを下回るようなシーンでの、フレキシブルさと力強さが増していることは実感できた。回転の高まりに連れてよどみなく盛り上がるパワー感、そして、自在になるハンドリングの感覚が、そもそも素晴らしかった従来型にも増して磨かれていることは、はたから見ていても明らかだ。
ちなみに、今回新たにオプション設定されたリアアクスルステアや、同様にオプション設定になる「911ターボ」由来のセラミックコンポジットブレーキを装着した、“走りのオプション”がフル装備の911カレラSクーペ(PDK仕様)は、ニュルブルクリンクの北コースを、従来型よりも8秒短いタイムで駆け抜けるという。
どこに目をやっても、決して単なるダウンサイジングにとどまらない、新たなテクノロジーを満載した最新の911。そのステアリングを実際に握れる日が、もう待ち遠しくてたまらない!
(文=河村康彦/写真=ポルシェ)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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