トヨタ・プリウス 開発者インタビュー
生真面目なんて言わせない 2015.11.25 試乗記 トヨタ自動車デザイン本部
トヨタデザイン部 第3デザイン室長
児玉修作(こだま しゅんさく)さん
リッター40kmといわれる燃費性能のほかに、4代目「トヨタ・プリウス」では個性的なデザインが大きな話題となっている。そのカタチはどんな経緯で生まれ、開発にあたっては、どんな課題があったのだろうか? 生みの親に話を聞いた。
「ワオ!」と言わせたい
東京モーターショーに出展された4代目プリウスのデザインは、極端な賛否両論を呼んだ。斬新な造形を称賛する声もあれば、“ダサい”“カッコ悪い”と全否定する人もいる。日本を代表するエコカーだからこそ、よくも悪くも注目が集まる宿命だ。40km/リッターという驚異的な燃費を持つといわれる新型プリウスは、高い空力性能を持つとともに先進性を感じさせるスタイルでなければならない。困難な課題にどう取り組んだのか、チーフデザイナーの児玉修作氏に聞いた。
3代目は環境にいいことはわかるが、ちょっとボクシーで四角い印象だねと言われることもあります。そして、生真面目すぎるっていう評価があるんですね。そこはぜひ4代目で刷新して「ワオ!」と言わせたいなと。
――「ワオ!」は社長から求められていますよね。
「ワオ!」がないと言われたらやり直しですから(笑)。プリウスに見えるという範囲の中で、4代目としてどのような意匠にすれば新しくなるか、というのをずっと議論してきましたね。
空力性能はもちろん技術の進化もありますので、それはデザインでも表現したいなという思いはありました。その上でエモーショナルな形に仕上げる。それでも、遠くから見てすぐにプリウスだとわかるようにしたいと思っていました。プリウスは環境車ですが、この形が好きだから買ったよというお客さんが少しでも増えてくれればうれしいですね。
環境車はどれも似てくる?
――燃料電池車の「ミライ」と似ているんじゃないかという声がありましたが、同じエコカーということで意識したところはあるんですか?
結構多くの方々から言われたんですが、僕自身開発している当時はまったく意識していませんでした。僕の想像なんですけど、同じような環境車として意匠した結果として、ある部分が似てきてるというのはあるかもしれないですね。
――空力性能を考えると似てくるんでしょうか。
空力は大きいですね。プリウスもミライも、バンパーコーナーを“空力にいい”ように造形しています。またCピラーのブラックアウトも共通していますから、それで似てるという印象を持たれたのかもしれません。
――フロントは結構複雑な形をしていますが、空力的には問題はないんですか?
実際、現行車よりも向上しています。まず、アッパーロアのグリルの穴をできるだけ小さくしました。バンパーコーナーについては、3代目から同じ造形を試みています。タイヤの前にベストな平面角の平たん面を作り、風の流れを制御してタイヤの外側に仮想の空気の層ができるようにするんですね。プリウスは歴代のモデルが無駄な機能をフロントやリアにつけないようにしていて、4代目もミニマムです。ヘッドランプとフォグランプを適正に配置してフルーイットな(流れるような)線で結び、エモーショナルな造形を試みました。
――リアコンビネーションランプは、印象的な形状ですね。
リアスタイルにも空力がからんでいます。リアクオーターにもベストな平面角があるんですけど、途中の段階で空気を逃がしてやる。サイドもリアも逃がしてやることで自然な空気の流れで収束していくという造形にしました。スポイラー端末は空力上重要で、バンパー後端形状も必要なものです。それらをフルーイットな面・線でつなぐことによって、新しいプリウスとしてアイコニックな意匠にできないかと苦心しました。
環境車にもビビッドな色を
――形だけでなく、色も新鮮でした。黄色のボディーカラーはかなり派手ですね。
サーモテクトライムグリーンですね。遮熱機能を持ったペイントは世界初です。同色系のイエローグリーンと比較して、表面温度で5度の差が出ます。
――ほかの色には機能が付いていませんね。
開発する時、どの色域だと効果が高いか材料技術者と検討したんですね。ほかの色でも可能ですが、効果が小さいことがわかりました。これまでカーボンで色の深みを出していたところに、この色ではチタンを使っています。カーボンが熱を吸収するのと逆に、チタンは熱を反射するんです。黒などの濃色系の場合はカーボンを混ぜざるを得ません。だから、淡色系でなければできないんです。あの色が、一番効果がありますね。
――現行プリウスだと一番よく見かけるブルーのボディーカラーがなくなりましたね。
2代目から3代目にかけて、ハイブリッドの打ち出し色として淡いブルーを使っていました。でも、もっとビビッドな色で環境車を打ち出してほしいという要望が多くなったんです。それで、現行の「アクア」からはビビッドな色を打ち出し色として使うようになりました。今度のプリウスも、全世界的に赤がイメージカラーになっています。
――インテリアはかなり印象が変わりました。
エクステリア以上にインテリアは苦労しました。歴代プリウスが遠方ディスプレイ、手元操作という考えで作られているんですが、それは今回も継承しています。4代目では誰でもわかるアイコニックな形状にしようということで、インパネの中心部分をグルッと巻いたレイヤー構成にしているんですね。それで、シンボリックなセンターの機能部品のイメージで仕上げようとしています。逆にベースの部分のインパネとトリムに関しては、できるだけしっとりとした柔らかい優しい造形を意識しました。囲まれる安心感のある空間を作り出したいという思いです。
――質感もかなり向上している気がします。
3代目の造形は僕も好きなんですけど、未来的ですよね。いわゆるテック感を前面に打ち出した造形をしているんですけど、素材が硬いものですからちょっとチープに感じるというお客さんもいまして、そこはぜひ改善しなければいけないなと思いました。人が触れる部分には柔らかい素材を用いて、造形もしっとりとしたものに。センターはハイテク機器なのでカチッと見せる。そのコントラストで新しさを出そうという狙いを持っています。
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キーワードから生まれる造形
今回のデザインのキーワードは「アイコニック・ヒューマンテック」。ヒューマンは人を起点に考えた造形、あるいは優しい造形。テックは未来感を意味しています。ヒューマンとテックの度合いが外観と内装で違っていて、外観はどちらかというとテック寄り。内装は普段毎日乗って見るものなので、よりヒューマン側に振っています。どちらも誰が見てもすぐ記憶に残って忘れないシンプルでアイコニックな造形ということは共通しています。
――そういったキーワードはどの時点で決まるんですか?
企画の当初からこのキーワードがありました。こういうクルマにしたいというコンセプトを考えて、それにピッタリする言葉にするところから始めます。デザインコンセプトを立てて、トヨタ社内のデザイナー、米国のデザイン拠点であるキャルティ、欧州のデザイン拠点EDスクエアなどに依頼し、スケッチ段階で集まったアイデアは全部で6案ありました。それを3案に絞ってフルサイズ化してまた検討する、というように進んでいきます。
――チーフデザイナーは、そこでどんな役割を果たすんでしょう。
今回はプロジェクトチーフデザイナー(PCD)という立場です。PCDは新しく取り入れられた制度で、コンセプト立てから最終的な商品化まで手がけることになります。「アルファード/ヴェルファイア」や「シエンタ」もそうで、プリウスが3番目ですね。実はアサインされた時期は僕が一番早かったんですよ。2011年の5月ですから4年半になります。PCDの役目は、僕が考えるデザインはこうだと言って、社内のオーソライズを取ってくるということになりますね。デザインに関する全責任を負っていきます。
――今回はTNGAを採用する初めてのモデルということで、デザインの方向性とエンジニアの考えをすり合わせるのが大変だったのでは?
むしろ、これまで僕が経験したプロジェクトよりも、エンジニアの人はデザインに対して協力的でしたね。会社として刷新した新しいクルマを作ろうという共通認識がありましたから。
――とは言っても、低いシルエットを実現するには機械の部分とデザインが空間を奪い合うことになります。
一番苦労したのは、リア席のヘッドクリアランスですね。2代目から続くトライアングルシルエットは受け継ぎ、空力を向上させるためにピークを“前出し”したんです。ピークからルーフ後端までの角度をベストで作っていますので、ここは変えられないんですよ。空力を向上させるには、全体を並行で下げるしかないんですね。どうしてもヘッドクリアランスをいじめてしまう。それで、できるだけクリアランスを確保するようにルーフの断面を変えてもらったりしました。バッテリーの端末をほんの1mmでも削れないかとか、いろいろお願いしました。
スムーズに進みましたかと尋ねると、児玉さんは一瞬ためらいを見せた後で「これは、もう……、楽しみました」と言って笑った。苦労は多かったに違いないが、今はそれが報われたと感じているのだろう。
(インタビューとまとめ=鈴木真人/写真=峰 昌宏、トヨタ自動車、webCG)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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