第329回:「動き」こそBMWデザインの神髄
BMWデザインを率いるエイドリアン・ファン・ホーイドンク氏にインタビュー
2015.12.03
エディターから一言
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BMWは今、未来のモビリティーを志向する「BMW i(アイ)」ブランドを展開したり、「2シリーズ アクティブツアラー/グランツアラー」や「X1」で前輪駆動を取り入れたりと、製品面で大きな変革期を迎えているように見える。同社のデザインはどこに向かうのだろうか。BMWグループのデザイン本部長、エイドリアン・ファン・ホーイドンク氏に聞いた。
変革期にデザインが果たす役割とは
――BMWは大きく変わりつつあります。こういった重要な時期に、デザインはどのような役割を果たすべきだとお考えですか。
エイドリアン・ファン・ホーイドンク氏(以下、ホーイドンク。敬称略):われわれは今、技術が非常に大きく進化している時代にいます。可能性が大きく広がると同時に、選択を行わなければならない岐路に立たされているともいえます。そういった先進技術をどのようなデザインで包んでお客さまに提供するか、また、そうすることによってお客さまがいかなる利益や価値が得られるのかということを考え、実践するのがわれわれデザイナーの仕事であり、とてもエキサイティングな時代が来たと感じています。大きな技術的革新があるときには、同時にデザインも大きく変わる可能性があります。
――BMWのブランド価値を語るうえでエンジン(内燃機関)はこれまで非常に重要でしたし、もちろん今でもそれは変わりません。しかし、一方ではそれが徐々に変わり始めているように見えます。
ホーイドンク:確かにエンジンはBMWにおいて非常に重要な役割を果たしてきました。BMWという社名そのものが「ババリアン・モーター・ワークス」なのですから。ただ、クルマの動力をどのように生み出し、どのように伝えるかという点については、ご指摘のとおり変わり始めています。例えば、「i3」では従来とは違ったやり方でも十分に速いクルマが作れることを示せましたし、「i8」にいたってはエンジンは3気筒ですが、これに電気モーターを併用することでスポーツカーに匹敵する動力性能を発揮できることも示せました。
「動き」の表現を重視
――そのようにクルマが変わっていく中で、あなたはBMWをどのように表現していこうと考えていますか。スピード、プラクティカリティー(実用性)、エアロダイナミクス……と、自動車デザインのテーマはいろいろありますが、BMWにとってはとりわけスピードの表現が重要に思えます。
ホーイドンク:BMWのデザインでは、常に「動き」というものを表現しようとしています。静止しているときでも、動きを感じるようなデザインです。
――動きにこだわる理由とはなんですか。クルマは動くものだから、と言われればそのとおりですが、世の中には止まって見えるようなデザインのクルマだって少なからずあります。
ホーイドンク:それは、われわれのお客さまがドライビングが好きな方々だからです。私自身も好きですし、デザインチームもみんなドライビングが好きだからです。動きというものは、2本の線で表現できます。2本のラインと光と影、すなわち陰影があれば十分に表現できるのです。複雑である必要などありません。
――このコンピューター全盛の時代において、デザイナーに芸術的な素養というものは必要とお考えですか。それとも、場合によっては創造性すらコンピューターがカバーしてくれるとお考えですか。
ホーイドンク:デザイナーにとって一番大切なのは創造力であり、コンピューターがそれをカバーしてくれることはないでしょう。もちろん、デザイナーだけでなくエンジニアにも創造性は必要です。とりわけわれわれデザインチームというのは、まずはわが社のヘリテージとなるモデルの歴史を知って、それらのデザインの背後にどのような技術があるのかを理解しなくてはなりません。そうしたうえで新しいデザインを創造します。そして、それを見た人がそのクルマのことを理解して、魅了され、クルマと恋に落ちて、しかも長い間、使い続けていく中で、また新しい発見をしてもらえるようなものを創造しなくてはなりません。そういったことはコンピューターだけではできないでしょう。もちろんコンピューターはよく使いますが、クリエイティブな決定や仕事というのは、人の力でやらなくてはなりません。
グッドデザインとは「オーセンティック」であること
――自動車のデザイン史において、1950年代から60年代はイタリアンカロッツェリアの時代で、80年代から90年代はエアロダイナミクスの時代、2000年代はブランディングの時代だったと仮にまとめるなら、今はどんな時代だと思いますか。
ホーイドンク:面白い質問ですね。その分析には同感です。ただそういった分析は、時代を振り返ったときのほうがしやすいのかもしれません。その時代に生きていると、その時代を定義するのは難しいものです。しかし、あと数年たってこの10年間を振り返ってみたら「インテリジェンスの時代」、すなわちクルマが非常にインテリジェントになった時代というふうに形容できるのではないでしょうか。
――インテリジェンスの時代とは、つまりコネクティビティー(相互接続性)に代表されるクルマの情報端末化や自動運転などを意味しているのでしょうか。
ホーイドンク:もちろんそれもありますが、それだけではありません。エンジンそのものもドライブトレインも、インテリジェントになっています。i8ではパワーユニットがシステム化されており、ドライバーが望むものをクルマ側が認識し、必要なパワーを供給するという非常にインテリジェントな構成になっています。
――クルマ自体はどんどん進化して、形を変えていきますが、「いい自動車デザイン」とはどのようなものとお考えでしょうか。
ホーイドンク:オーセンティックであることが重要です。つまりそのクルマを見れば、実際に運転をしたときの感覚が想像でき、そこにいかなる新技術が入っているのかがわかるデザインがクルマにとってのグッドデザインだと思います。そこで再び、例として挙げたいのがi8です。見るからに速いスポーツカーのデザインであり、実際に速い。また、見るからにクリーンで、しかも軽量なクルマだということも伝わるのではないでしょうか。
(文=webCG 竹下元太郎/写真=小林俊樹)

竹下 元太郎
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