メルセデス・ベンツC350eアバンギャルド(FR/7AT)
ひとくせあるニュータイプ 2016.02.08 試乗記 メルセデス・ベンツのコンパクトセダン「Cクラス」に、プラグインハイブリッドモデル「C350eアバンギャルド」が登場。EVモードの使い勝手やパワートレインの感触を含めた、走りの印象を報告する。無視できない“新入り”
知り合いのカメラマンから「仕事のアシにCクラスの『ステーションワゴン』を考えてるんだけど、どう思う?」と相談されて、もろ手を挙げて賛成した。あんなによくできたクルマを仕事のアシにできるなんて、うらやましいぐらい。それくらい、現行のメルセデス・ベンツCクラスは完成度が高いと思う。
昔からメルセデスは「実用の道具としては最高」という評価を受けてきた。けれどもいまのCクラスは、ただの道具じゃない。機敏なハンドリングと快適な乗り心地を兼備していることや、デザインでも目を楽しませるなど、「クルマ趣味の相棒としても高得点」である。
知人が夜も眠れないぐらい悩んでいるのが、パワートレインにどれを選ぶかだ。2リッターのガソリンターボと2.1リッターのディーゼルターボを試乗した感想を尋ねられたので、クルマ全体の雰囲気が上質に感じられるディーゼルを薦めておいた。けれど、まだ踏ん切りはついていないようだ。
さらに夜も眠れなくなりそうなのが、プラグインハイブリッドモデルの「メルセデス・ベンツC350e」が2016年1月に発売されたことだ。実際には価格帯が違うので、外部充電もできるプラグインハイブリッドを購入することはないだろうけれど、Cクラスの購入を検討している人にとって気になる存在であることは間違いない。
試乗開始にあたっては、荷室床下に位置するリチウムイオンバッテリーはフル充電した。バッテリーの容量は6.2kWhで、同じプラグインハイブリッド車の「三菱アウトランダーPHEV」のバッテリー容量が12kWhであることを考えると、容量が小さいと感じられる。
ただ、アウトランダーの場合は蓄えた電力を外部に給電することも視野に入れているから、走行性能や燃費など、クルマとしての機能を極めようというメルセデス・ベンツとは考え方が異なるのだろう。
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走行モードは使いよう
バッテリーになみなみと電力を蓄えたメルセデス・ベンツC350eが集合場所に現れる。このクルマのハイブリッドシステムでは、「E-SAVE」というモードを選ぶとバッテリーの電気を維持することができるのだ。
ほかに3つのモードがあり、「HYBRID」では走行状態やバッテリー残量に合わせてエンジンと電気モーターを併用する。「E-MODE」はEVモードで、最高速度130km/hまで電気モーターのみで走る。「CHARGE」のモードでは、走行しながらエンジンと回生ブレーキが発電した電気をバッテリーに蓄える。例えば、市街地では「CHARGE」モードで充電に励み、静かな住宅街に入ったところで「E-MODE」に切り替えてEVとして粛々と走る、なんていう使い方が考えられる。
見慣れたデザインの運転席に収まる。速度計と回転計の間に上記4つのモードが表示されるメーター以外は、ガソリン/ディーゼルのCクラスと内装デザインは共通だ。
「E-MODE」をセレクトして、都内の一般道をしばらく走ってから首都高速に上がる。カタログによればEVとしての航続距離は28.6km(ステーションワゴンは28.8km)とのことだが、どこまでモーターだけで走れるか。パワートレインからのノイズがほぼ皆無で、振動もないEV走行は快適至極。しかもアクセル操作に対するレスポンスはまさに電光石火だから、運転していても楽しい。
この幸せが1kmでも長く続くことを祈る。この日はすごく冷え込んでいてエアコン全開だったこともあってか、カタログ値の約半分の15km付近で電気がなくなり、エンジンが始動する。正確には、電気がなくなったわけではなく、残量が20%程度になるとEVからハイブリッド車へと切り替わる。寒かったあの朝のことを思えば、EVには最悪のコンディションだったはずだ。つまり、最低でも15kmはEV走行ができるといえそうだ。
自宅とオフィスの距離が15km以内の方が通勤に使えば、往復ともにEV走行でまかなえることになる。フル充電に要する時間は200Vで約4時間だから、オフィスに着いてランチが終わる頃には充電が完了している。ただし、急速充電器には対応していない。なお、前述の「CHARGE」モードを選べば、走りながら約40分で充電は完了する。
「燃費がいい」だけじゃない
ここからは、普通のハイブリッド車として走る。エンジンとモーターの間に位置するクラッチが、両者をつなげたり切り離したりすることで、「エンジンのみ」「モーターのみ」「エンジン+モーター」という走行パターンを切り替える。エンジンのみでも、2リッターの直4ターボは最高出力211psと最大トルク35.7kgmを発生するから力に不満はない。
いっぽう、最高出力82psと最大トルク34.7kgmを発生し、なおかつブースト機能も持つモーターのアシストを得ると、システム全体では279psと61.2kgmを発生する。
最大トルク61.2kgmといえば、メルセデスのエンジンでいえば4.6リッターのV8ツインターボと同等。エンジンとモーターの共同作業による加速には、ヘビー級のパンチ力がある。この加速感を一度でも味わえば、メルセデス・ベンツにとって、プラグインハイブリッド車がただ燃費がいいだけのクルマではないことがよ~くわかる。「エコ」と「パワー」を両立させる、ぜいたくなクルマなのだ。
メルセデス・ベンツC350eにも、「C180」「C200」「C220d」「C250」と同じくダイナミックセレクトが備わり、「ECO」「Comfort」「Sport」「Sport+」「Individual」の各モードを選択することができる。ここでSport+をセレクトすれば、ステアリングホイールはぐっと重みを増し、パワートレインの反応も鋭くなり、サスペンションもソリッドなセッティングに変わる。だからといってエンジンがわんわんほえるわけではなく、クールで速い、新しいタイプのスポーツセダンを楽しめる。
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運転していて「?」な部分も
このモデルには、アクセルペダルにも特徴がある。モーターだけで走るEVモードから、エンジン+モーターで走るハイブリッドモードに切り替わりそうになると、アクセルペダルの抵抗が増えて「切り替わっちゃうよ」と教えてくれるのだ。小人がアクセルペダルを押し返して「これ以上踏むと、エコじゃなくなるよ」と教えてくれる感じだ。
また、前を走るクルマとの車間距離と速度差から、ここでアクセルペダルを戻したほうがいいと判断すると、今度は小人がアクセルペダルをこんこんと2度ノックしてくれる。「ここでアクセルを戻してエンブレ利かせたほうが効率がいいよ」と注意してくれるのだ。このふたつの機能を総称して、メルセデスは「インテリジェントアクセルペダル」と呼ぶ。どちらも、人とクルマが連携して効率(燃費)を高めようとする、賢いアイデアだ。
と、いった具合に、「なかなかいいじゃん」と思って試乗を続けていたのだけれど、高速や中高速コーナーの連続など、さまざまなシチュエーションに出くわすと、「ん?」と思うことがふたつ現れた。
ひとつは、モーターだけで走っている状態からエンジンが始動したり、逆にエンジンが停止してモーターだけで走ったりするタイミングで、軽微ではあるけれどショックを感じるのだ。それは、これまでの車種では感じたことのない類いのショックで、衝撃自体は小さいけれど、ちょっとトゲのあるものだ。あえて擬音にすれば、「キン」という感覚だ。
このショックは、ある一定の条件で出現するわけではないので、タチが悪い。さっきのショックは気のせいだったのかな、と思い始めると、「キン」がやってくる。再現性は低いので何が原因かはつかみかねるけれど、どうもクラッチのオン・オフが国産ハイブリッド車ほどスムーズではない印象だ。
もうひとつ、これも常にそうなるというわけではないけれど、ブレーキの踏力が変化する。ブレーキをグッと踏み込むと、ペダルの踏み応えがスッと軽くなったりする。初代「プリウス」を思い出して、ちょっと懐かしい。
面白いのは、先行車との車間距離を保ちながら追従するディストロニック・プラス(ステアリングアシスト付き)を作動させて半自動運転で前のクルマにくっついていくと、2つの「?」が消えてスムーズに走ることだ。自動運転のほうが得意なのか?
どちらにせよ、このふたつの「?」は、700万円の価格に見合うとは言い難い。仮に知人が「メルセデス・ベンツC350e」が欲しいと言ったとしても、3塁コーチスボックスから「1球待て」のサインを送りたい。
(文=サトータケシ/写真=峰 昌宏)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツC350eアバンギャルド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1810×1430mm
ホイールベース:2840mm
車重:1830kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:211ps(155kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1200-4000rpm
モーター最高出力:82ps(60kW)
モーター最大トルク:34.7kgm(340Nm)
タイヤ:(前)225/45R18 95Y/(後)245/40R18 97Y(ミシュラン・プライマシー3)
燃費:17.2km/リッター(ハイブリッド燃料消費率/JC08モード)
価格:707万円/テスト車=803万円
オプション装備:レザーエクスクルーシブパッケージ<ヘッドアップディスプレイ+ハンズフリーアクセス+自動開閉トランクリッド+本革シート+エアバランスパッケージ+Burmesterサラウンドサウンドシステム+パノラミックスライディングルーフ>(77万1000円)/ボディーカラー<ダイヤモンドホワイト>(18万9000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1409km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:174.5km
使用燃料:13.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.0km/リッター(満タン法)/11.6km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。