第436回:「スーパーカーの国」イタリアでいま、スーパーカーが売れてない!
2016.02.12 マッキナ あらモーダ!フェラーリ見たけりゃ中国で
「もはやイタリアはスーパーカーの国ではない」
イタリアを代表する自動車専門サイトのひとつ『オムニアウト』が、興味深い記事を2015年12月に配信した。イタリア自動車輸入組合の統計を分析したものだ。それによると2015年1~11月に国内で登録されたスーパーカーはわずか252台、シェアにして0.1%にとどまる。ここでスーパーカーとされているのは、フェラーリの「F12ベルリネッタ」「488GTB」「FF」、ランボルギーニの「アヴェンタドール」と「ウラカン」、マクラーレンの「650S」といったモデルだ。
リーマンショックの発生年であるものの、まだ販売に影響が少なかった2008年に登録されたスーパーカーの台数(1265台)からすると、およそ8割減になる。
記事は、同期間の自動車登録台数全体の落ち込みが約24%だったのに対して、スーパーカー市場の縮小が著しいことを指摘。背景として、依然として先行き不透明な経済状況と、2011年に導入された高出力車向け特別税があることを示唆している。
現在は、最高出力185kW(251.5ps)を超える車両に対して、1kW(1.36ps)あたり20ユーロ(約2600円)の特別税が課される。
例えば、485kWの「フェラーリFF DCT」を購入した場合、通常の自動車税1455ユーロ(約19万円)に、300kWオーバー分の特別税6000ユーロ(約78万円)が加算される。特別税の税率は乗り続けるごとに段階的に減ってゆくが、ゼロになるには20年も待たなければならない。参考までに、わが家の小型車は103kWで、2016年1月末に支払った自動車税は、年間283.8ユーロ(約3万7000円)であった。
記事は、「イタリアはスーパーカーの故郷であるが、イタリア人がその製品を鑑賞するためには、販売が好調な中国か中東、または米国といった“高級車パラダイス”に行かなければならない」と、皮肉交じりに締めくくっている。
スーパーカーは持たずとも幸せ
イタリア国内でフェラーリやランボルギーニを見かける機会がまれであることは、以前から本欄でもたびたび記してきた。例えば、筆者は県庁所在地に住んでいるにも関わらず、最後にそれらのスーパーカーを見たのはいつのことか、覚えていない。370km離れたミラノに向かうアウトストラーダを走っていても、その行程で目撃するかしないかは日による。
“数時間に一度くらいの頻度”で見かけられるのは、ミラノ屈指のファッションストリート「モンテ・ナポレオーネ通り」である。それも、スイスから越境してショッピングに来たイタリアファンだったりする。東京の表参道交差点に立っていれば、15分に1台くらいの割でフェラーリがやってくるのとはまるで違う。
以前からそんな具合だったところに、リーマンショック以降は、前述のようにスーパーカーに対する課税が強化され、さらにイタリア財務警察が脱税取り締まりのためスーパーカーの路上検問を頻繁に実施するようになった。それなりのクルマで走っているとパトカーに止められ、さまざまな個人情報を聞かれるのである。これではスーパーカー市場が萎縮してしまうのは、いうまでもない。
ただ、これからイタリア経済が回復してもスーパーカー市場が急回復するとは考えにくい。なぜなら彼らには彼らの精神性があるからだ。
ふだん彫金、服飾、靴といったイタリアの手工芸職人を取材していて、たびたび聞かされるのは、「私たちの国には資源がない。最高にいいものを作って輸出し、自分たち自身は質素に生きるのだ」という言葉である。そうした言葉は、文字にすると暗い印象も与えてしまうが、当の本人たちは豊かなマインドとともに生きている。
ボク自身もそうだった。東京生活時代はイタリアのブランドに憧れ、それらに囲まれた生活に憧れていた。しかし、イタリアに実際に住んでみると、モノに支配された生活よりも、日ごろ食べる、何気ない食べ物のうまさだったり、自分が住む街の心地よさ、ちょっと郊外に出れば広がる自然のほうが、よほど大切に思えてくるのである。
外国人であるボクがこれである。生まれついたときからそうした環境にあって、一歩家を出れば幼なじみとすぐに会える街に住むイタリア人は、そうした物欲にまみれない価値観が深く植えつけられている。だから、フェラーリF1に誇りを感じても、自分の生活を犠牲にしてまで働いて、スーパースポーツカーを手に入れようなどとは思わないのである。
“あれ”もイタリアにはありません
少々説教くさくなってしまったので、ここからは、ちょっと気楽な話を……。
スーパーカーがイタリアでめったに見られない話にちなんで、「イタリアにありそうでないもの」を列挙してみよう。そのほとんどは、ボク自身も現地に住み始めるまで「ある」と信じていたものである。
まずは、食事編。
1.タバスコと筒入りパルメザンチーズ
いずれも、日本の普及期のイタリア料理店がアメリカ経由でやってきたことによるものである。
2.スパゲティを注文したとき、フォークとともに配膳されるスプーン
イタリア人は、フォークだけで食べる。ちなみに、スパゲティをナイフで切って食べる西欧の外国人を見かけるが、その様子が気の短い料理人の目に触れると、危険だ。
3.スープスパゲティ
他の形状のパスタでブイヨンに入ったものはあるが、スパゲティには出会ったことがない。
4.パイナップルなど、ファンタジーな具材があふれるピッツァ
これも米国流。イタリアのピッツァの具は、トマト、チーズ、サラミなど極めて保守的である。
5. ドレッシング
野菜やサラダの味付けは大抵オリーブオイルとビネガーだけ。ましてや「イタリアンドレッシング」などと名付けられた商品は見かけない。
ナンパなイタリアンも絶滅寸前!?
次は、生活編である。
1. セクシーな女性用パジャマ
現実は、限りなくジャージに近いか、クマなど余計なアップリケが付いていたりして、かなりなえてしまう。
2.人前でカンツォーネを朗々と歌える一般人/女性宅のバルコニー下でセレナーデのマンドリンを弾く男
もはや絶滅危惧種である。ただし、南部の一部都市ではお金を払うと、女性の家の前で演奏してくれるサービスが継続中とか。
……それに関連して、
3.プレイボーイ
ボクがイタリアにやってきた1990年代末、面白かったのは、女子への声がけに積極的な男性たちだった。といっても若者ではない。おじさんである。
当時イタリアには日本人語学留学生があふれていた。他の外国人学生と違い、日本文化の影響でイエス・ノーをはっきりと言わぬ彼女たちを狙うのは、街のおじさんたちだった。会社が終わると広場に繰り出して、まずは手始めにお茶に誘っていたものだ。ボクの知るパオロさん(仮名。当時50代後半)もそのひとりだった。夫人そして高校生と大学生の子どもがいるにもかかわらず、毎夕せっせと広場でナンパを楽しんでいた。パオロさんを名指ししているわけではなかったが、彼らの“活躍”ぶりは、東京・九段のイタリア文化会館における留学生リポートにしっかり報告されていたほどである。
時が流れて今、パオロさんは年金生活者になった。日本人留学生が減ったこともあって、ご本人は、気が向くと街に出てくる程度になってしまった。
イタリア中央統計局の2013年データによると、この国では18~34歳男性のおよそ10人に7人が親と同居している。就職難といった深刻な経済的背景を無視してはいけないが、同じ年代の女性の両親との同居率が5割ちょっとなのに比べると、男性のそれは高い。積極的には女性との出会いを求めない傾向は、日本だけでなくイタリアの若者の間にも見られるのだ。
イタリア名物の優男(やさおとこ)も、日本のファッション誌上に限られた世界になりつつある。ボクとしては、スーパーカーの消滅よりも寂しい当世イタリア事情である。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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