プジョー308GTi 250 by PEUGEOT SPORT(FF/6MT)
これぞスーパーホットハッチ 2016.05.23 試乗記 270psバージョンと250psバージョン、2つの仕様がラインナップされる、プジョーの高性能モデル「308GTi by PEUGEOT SPORT」。今回は、後者の「250」に試乗。「270」との違いを交えつつ、その走りの質をリポートする。デチューン版とて特別
プジョー量販車史上、最強のホットハッチ。そんなフレーズと共に日本で2016年2月に発売されたのが、GTi by PEUGEOT SPORTなる長いグレード名称が与えられた308。単なるGTiではなく自身のモータースポーツ部門の名前を加えた点に、プジョーがこのモデルのチューニングにかけた“真剣度”が伝わってくる。
興味深いのは、6段MTが組み合わされる1.6リッターのターボ付きエンジンに最高出力250psと同270psの、2種類のチューニングが用意されていることだ。『webCG』ではすでに270psバージョン(以下、270)をミニサーキット風コースでテストドライブした印象を報告しているので、今回は250psバージョン(以下、250)に一般道で乗った印象を記したい。
ちなみに、両バージョンの価格差は51万円と、それなりに大きい。そこには前述のエンジンチューニングの違いに加えて、フロントシートのデザインやホイールサイズの違い、さらにはフロントブレーキのサイズの違いなども含まれる。
外観からわからないメカニズムに関しては、270では標準装備となるトルセンLSDが250では採用されていないのも相違点。ボディー前半部分をレッド、後半部分をブラックで塗り分けた個性的なツートンカラー“クープ・フランシュ”のエクステリアカラーも、選択可能なのは270のみで、こちら250には設定されていない。
好みの分かれるインテリア
専用デザインのフロントグリルやバンパー、サイドスカートなどのボディーキット類は、270と250とで共通のアイテム。先に記した通り、シューズの径が1インチ小さく、フロントホイールのスポーク間から姿をのぞかせるブレーキディスクもやや小ぶり……といったわずかな違いはあるものの、基本的なスタイリングは、こちら250も270とほぼ同様ということだ。
インテリアでは、フロントシートのデザインが唯一の違い。座面のサイドやシートバックのショルダー部分の張り出しが大きなプジョースポール製のバケットシートを採用する270の方が、当然サポート性は高くなる。一方、シートベルトの装用性などの点からは、「立体的な張り出しをほどほどに抑えたこちらのシートの方が好み」という声も挙がりそうだ。
それはそれとして、そのドライビングポジションは個人的には相性が悪かった。
プジョーが「i-Cockpit」と呼ぶ、直径が極端に小さなステアリングホイールを低い位置で操るそのスタンスは、どう好意的に解釈しても、やはり人間工学的に優れるとは思えない。
メーターパネルをダッシュボードの高い位置にレイアウトし、ステアリングホイールよりも上から視線を大きく落とすことなく数値を読み取る……というのが、そうした独特のスタンスをとる一番の目的であるはず。
しかし、そのために強いられる犠牲は少なくない。加えて言えば、スイッチ数削減のためにすべての空調操作系をタッチスクリーン内に収めたことも操作性を著しく悪化させており、やり過ぎ感が否めない。遠からず、物理的なスイッチが復活するという改善策が施されると予想する。
エンジンの出来に感心
ドライビングポジションがしっくりこない感覚はどうにも拭えない一方で、その走りは、まず、とても1.6リッターモデルとは思えない力強さが印象的だ。
最高出力は20ps落ち……とはいっても、270に対してその差が現れるのは、6000rpmという高回転まで引っ張った時。そもそも、最大トルク値はいずれのバージョンも33.7kgmで共通。ピークは1900rpmという日常域で、駆動ギア比も共通だから、“普段乗り”で力強さの差を実感する場面が皆無なのも当然なのだ。
軽く、確実に決まるシフトの操作感は、レバーの位置も含めて良好。各ギア間のレシオが特にクロスしている、という印象はないものの、排気量1リッターあたりの出力が150psを超えるハイチューンエンジンながら、1200rpmほども回っていればアクセル操作に応えてくれるフレキシブルさも持ち合わせるがゆえに、シフト時のトルクのつながり感は悪くない。
タコメーター上のレッドラインは、前述の最高出力の発生回転数と同じ6000rpm。だが、そのポイントにレブリミッターの設定はなく、うっかりしているとそれを超えてしまいそうになる。
すなわち、そんな高回転まで引っ張る際にも頭打ち感は伴わず、ストレスなく回ってくれるということ。そんな心臓にあえて注文を付けるとするなら、回転落ちが鈍く素早いアップシフト時にタイミングが合いにくいことと、270の場合と同様、サウンドがいまひとつ物足りないことだ。
「270」に負けず劣らず
「すべては新設計と言っても過言ではない」と、カタログ上ではそんな刺激的なフレーズで紹介をされる足まわりに、270との違いは報告されていない。実際、スプリングやダンパー、スタビライザーなどとともに、クロスメンバーも強化されたそのサスペンションシステムが生み出すフットワークのテイストは、「このままサーキットへと乗り込んでも、相当がんばってくれそうだな」と思わせる。なかなか強靱(きょうじん)で骨太な印象だ。
ハンドリングはまず、ステアリング操作に対する機敏な応答性がひとつの特徴。ステアリングのギア比が“速い”ことに加え、例の小径ステアリングホイールもそうした印象の一助となっているに違いない。
270が標準装備するトルセンLSDが装着されないことから、当初はそのトラクション伝達の能力を心配した。むろん、タイトなターンからの脱出時などでタイムを削ろうとするならば、それは大きな効果をもたらしてくれるに違いない。
しかし、そんな装備を持たないこの250でも、特にホイールスピンを起こしやすいとか、フロントアクスルが暴れやすいといったネガは見当たらない。結果として、加速時にステアリングフィールが大きく変動するような印象も皆無だ。
スポーツモデルとはいっても、そこはそもそも合理性を追及したハッチバックパッケージの持ち主。キャビンの居住性やラゲッジスペースの使い勝手が、オリジナルの308と比べて遜色ないものであるのは、言うまでもない。
そうした中で、このモデルを“毎日の足”として扱う際にネックになりそうなのは、やはり、相当ハードな乗り味だと思う。不整路面に出会うと、その揺すられ感はかなりのもの。正直、首都高速上に連続する継ぎ目の乗り越え時などは、なかなかつらいという印象だ。
一方で、そんなスパルタンな乗り味こそが本格スポーツモデルの証し、と受け取れる人には、基本を270と共にしつつ、よりリーズナブルに提供されるこの308GTi 250 by PEUGEOT SPORTは、きっと現代版スーパーホットハッチとして大いに気になる存在と映るはずだ。
(文=河村康彦/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
プジョー308GTi 250 by PEUGEOT SPORT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4260×1805×1455mm
ホイールベース:2620mm
車重:1320kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:250ps(184kW)/6000rpm
最大トルク:33.7kgm(330Nm)/1900rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92W /(後)225/40R18 92W(ダンロップ・ビューロVE303)
燃費:15.5km/リッター(JC08モード)
価格:385万円/テスト車=410万3260円
オプション装備:メタリックペイント<マグネティック・ブルー>(5万9400円) ※以下、販売店装着オプション 308タッチスクリーンナビゲーションシステム(18万3600円)/ETC車載器(1万260円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2712km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:319.2km
使用燃料:20.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:15.4km/リッター(満タン法)/14.0km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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