第351回:新たな燃料電池が世界を救う!?
日産「e-Bio Fuel-Cell」の将来性を考える
2016.06.23
エディターから一言
2016年6月14日、バイオエタノールを燃料とする、新たな燃料電池車の技術を日産自動車が発表した(関連ニュース)。同社は、このエコカー開発がモビリティーの未来に大きく貢献すると主張するが……? そのメリットと、いま考えられる課題を報告する。
「燃料運び」の効率が違う
日産自動車が、新しい「固体酸化物型燃料電池(SOFC)」の構想を発表した。名付けて「e-Bio Fuel-Cell」。まだ開発段階だというが、わざわざ説明会まで開いたところをみると、そう遠くない将来、これを積んだ新型の燃料電池車(FCV)が発売されるに違いない。欧米の主要メーカーもFCVの開発に躍起だが、取りあえず本格市販FCVのトップ3はトヨタ、ホンダ、そして日産と、日本勢が受け持つことになりそうだ。
技術説明を聞くと、「トヨタ・ミライ」や「ホンダ・クラリティ フューエルセル」に積まれる「固体高分子型燃料電池(PEFC)」に対し、日産式のSOFCは利点のオンパレードのように見える。
水素イオンと酸素イオンを出会わせ、水の電気分解の逆コースをたどって発電するという燃料電池(FC)の原理は同じだが、その水素の持ち運び方がまるで違う。トヨタとホンダが水素ガスを超高圧のタンクにためるのに対し、日産は液体のバイオエタノールを燃料として運ぶ。これだけで、体積は何分の一にも縮小できる。
水素ガスに頼って航続距離を稼ぐには、巨大な容器が必要になる。トヨタもホンダもJC08モードで700km以上と豪語しているが、実用走行では一充填あたり450km程度といわれている。ここを「額面400km、実質300km」程度に抑え、タンクを小さくしなければ、クルマそのものも小型化が難しい。
もともとタンクがかさばるだけでなく、その周囲を頑丈なクラッシャブルストラクチャーで囲まなければならず、どうしても車体が大きくなってしまうのだ。そこを無理に小さくしても、近未来の電気自動車(EV)に対しての圧倒的な優位は保ちにくい。
熱対策がキーポイント
そこを突いたのが、今回の日産式SOFCだ。容量わずか30リッターの、普通の構造(材質は異なるが)の燃料タンクを装備した実験車(Cセグメント相当)が、軽く航続距離600km以上を走破したという。
すでにバイオエタノール燃料はガソリンに混入されて全国どこでも売られているし、給油施設の整備についても、地下タンクを二重殻にして専用のシール材を使えば、新たに水素ステーションを建設するより容易に、世のガソリンスタンドを転用できる。しかし、それだけでは話がうますぎるので、少し疑いの目でも見てみよう。
まず熱だ。タンクから導き入れたバイオエタノール燃料から改質器(エネファームのようなもの)で水素を取り出してSOFCスタックに送り込むのだが、その過程で非常な高熱を発する。最大700度にも達するという。
実は30年ほど前にも、クライスラーなど数社が各種メタノールやガソリンを改質する方式のFCVを試みたことがあったが、いずれも熱対策に手を焼いて放棄された。激しい温度変化だけでなく、分布の偏りなどによるゆがみに耐え、なおかつ軽量な材質の選定や設計が難しかったからだ。日産はこの点、従来の割れやすいセラミックに代えて、熱に強い鉄主体の素材をSOFCスタックに使用することで対処しているという。
改質器の働きを活性化するためには強力な予熱が必要で、前述の廃熱も効果的に活用されるとのことだが、改質にともなってCO2が排出されるのは無視できない。走行する現場でもCO2を出したのでは、何のためのFCVかわからなくなってしまう。
食料問題とも関係が?
食糧とのトレードオフも難問だ。バイオエタノール燃料はいろいろな植物から作られるが、現時点ではトウモロコシとサトウキビが主力。かつて原油がもっと高価だったころ、サトウキビ栽培の大国ブラジルは、産油国でもないのに石油の輸出で外貨を稼いでいた。
原油を輸入し、各種の石油製品に精製して輸出していたのだ。そのために国内でのガソリン消費を抑えようと、極端なまでのエタノール優遇策を採った。そのためブラジルでは、一時ほとんどのクルマがエタノール化され、街にはほんのり甘い酒の匂いが満ちていた。
あのころはFCなどではなく、従来の内燃機関にエタノールを入れていただけで、排気管の早期腐食などの欠陥も隠せなかった。クルマ用品店の軒先に、まるで材木屋のように排気管が陳列されていたものだ。消費者はみんなそれに慣れてしまったから、ガソリン規制が厳しくなくなった今でも、対策を施されたエタノール専用車が、ブラジルでは大きな勢力を占めている。
それとともにクローズアップされたのが、食糧不足への影響だ。クルマ用の燃料が増産されればされるほど、食べるための作物は減る。まだまだ飢餓に苦しむ人々が多い今、これは切実な人道問題だ。それを解決するために耕作面積を増やそうと森林を伐採すれば、古来の生物多様性にまで影響を及ぼしかねない。また、耕作や開墾のためのトラクターや運搬に用いられるトラックから排出されるCO2も、バイオエタノール燃料を使うFCVからの、間接的な排出物といえる。
“電動車”への期待は高まる
まあCO2の一部に関しては、京都議定書(1997年)で認められたカーボンオフセットとして扱うこともできるだろう。バイオエタノールなど植物に由来する燃料から排出されたCO2は、その植物が成長する過程で光合成により吸収したもので、存在する位置を変えただけという解釈だ。つまり、どこかの段階で石油・石炭など地下資源のエネルギーに頼らなければオーケーというわけで、これは水素ガスを使うFCVにも当てはまる。
だから、水力、太陽光、風力、潮力などの自然エネルギーによって発電し、それで水を電気分解してFCVに使うのでなければ、本当のところは「CO2フリー」とはいえない。でもそれなら、その電力で直接EVを充電した方が効率が高いはず。
充電時間がかかるというのも実は杞憂(きゆう)で、人は必ず眠るから、その間コンセントにつないでおけばロスはない。昼間ソーラーパネルで発電して電力会社に売り、その一部を就寝中に充電に利用するのであれば、これも立派なソーラーカーだ。あれこれ新機軸を研究したあげく、クルマとエネルギーの議論は、意外とシンプルな結論に落ち着くのではないだろうか。
(文=熊倉重春/写真=webCG、日産自動車)

熊倉 重春
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