メルセデスAMG GLS63 4MATIC(4WD/7AT)
男も女もノックアウト 2016.06.28 試乗記 マイナーチェンジを機に、「GLクラス」から「GLS」へと名を変えて登場した、メルセデス・ベンツの最上級SUV。その中でも最強のパフォーマンスが与えられた、AMG仕様の走行性能や乗り心地を報告する。最上級のSUVは“生態系の頂点”
もう7年ほど前のことだが、とあるクルマ屋さんにいたところ、でっかいホイールなどで重武装した「カイエンターボ」が現れた。その時点で、その場にいた男たちの心の中には警戒警報が吹き荒れた。
「すごいのが来たぞ」「超肉食系だぞ」
見た瞬間、われら草食獣は、心理的に逃げる準備をしてしまっていた。
重武装のカイエンターボから降り立った男は、ものすごいガタイをしていた。ありていに言って、“超人ハルク”であった。その時点で、その場にいた男たちの尻は完全に浮き気味になった。ひとりが言った。
「やばい。プロレスラーですかね?」
もうプロレスラーに殴られるのを覚悟したかのような、か細い声だった。
超人ハルクがドアを開けて入ってきた。店内は緊張の絶頂である。それはどこかで見覚えのある顔だった。私は叫んだ。
「ひょっとして、G.G.佐藤さんですか!?」
その後の話は割愛するが、いまどきの男は、でっかくて強そうで速そうで高そうなSUVに乗った男を、生態系の頂点に君臨する百獣の王として最も警戒するようである。今回私が乗ったのはその中の一台、「メルセデスAMG GLS63 4MATIC」だ。
GLSは従来の「GLクラス」のフェイスリフトモデルだが、メルセデスの新しいネームスキームに合わせて名称を変更し、フロントバンパーとグリル、ヘッドライト、エンジンフード、リアハッチやリアコンビネーションランプなどの変更も行っている。ぶっちゃけ「GLE」や「GLC」の相似形となり、遠くから正面を見るとかなり見分けが難しくなった。
これはセダン系における「S」「E」「C」のクラス分けとまったく同じ文法上にあるが、サイドに回れば、3列シートのヘッドクリアランスや荷室容量の確保のために直立したテールゲートが、GLSであることを明示する。
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ジェントルな高出力エンジン
個人的には、GLクラス当時に比べると顔つきがシュッと上品になったように感じる。だから以前より小さく見える。これがGLEやGLCとの見分けをさらに難しくしており、超人ハルク感も若干弱まっているわけだが、デザイン的な完成度は明らかに高まっている。特にこのAMGは、フロントグリル下の“口”が大きい分、かえってバランスがよくエレガントだ。
「GLS350d」系の3リッターV6ディーゼルターボは、最高出力258psで最大トルク63.2kgm、「GLS400」系(日本未導入)の3リッターV6ツインターボは333psと49.0kgm、「GLS550」系の4.7リッターV8ツインターボは455psと71.4kgm。そしてこのメルセデスAMG GLS63 4MATICの5.5リッターV8ツインターボは、585psと77.5kgmを発生し、AMGスピードシフトプラス(7段AT)が組み合わされる。
思えば、5.5リッターツインターボだ。今や5リッターの自然吸気エンジンが「前時代の遺物」と愛(め)でられつつあるというのに、ダウンサイジングを拒絶したかのような5.5リッターツインターボはどうなのか。
といっても、AMGは「Gクラス」や「Sクラス」、「SLクラス」に6リッターV12ツインターボもラインナップしている。「ターボを付ければ自然吸気より燃費はいい」ということで大排気量もOK(?)なのかもしれない。いずれにせよ、世の中にはこういう存在があっていい。
ただし、乗り味は思ったより良識的だ。もっと暴力的でワイルドなイメージを抱いてしまうが、実はAMG仕様は、排気量が小さいほど性格が過激で、大きくなるほどジェントルになる傾向がある。2リッターや4リッターのツインターボはまるでレーシングエンジンのようだが、この5.5リッターはかなり抑え気味だ。
身のこなしも意外に穏やか
585psというとそれだけで身構えるが、車重が2610kgあるのでさすがに「狂気のような加速」はない。せいぜい「うおお、速い!」くらいである。もちろんこのあたりの基準は各人それぞれだが、スーパースポーツ級のパフォーマンスが重さでかなり相殺され、トルクがフラットなこともあり、意外に穏やかに感じられる。
AMGダイナミックセレクトコントローラーを「コンフォート」にしておけば、あのAMGの自動ブリッピング時の「ブリッ!」というサウンドも響かず、車内は極めて平穏だ。その時の乗り心地はまさにコンフォート。意外なほどロールも許す。
このロール、速度が上がるとかえって快適性を損なう面もある。高速道路では「スポーツ」以上がおすすめだ。最強の「スポーツプラス」でも、乗り心地は望外に快適。コンフォートモードより少しカッチリしててダイレクトという程度で、「これがちょうどいい!」という方も少なくなかろう。助手席の美女(今回はおじさん同士)の機嫌を損ねることはまずないはずだ。ずっとスポーツプラスでもまったく問題ない。
この最強モードなら、自動ブリッピングでブリブリ言わせながら、世界を征服したような無敵のドライブを楽しめる。ただ、今やAMGの象徴ともいえる自動ブリッピング時のブリブリ音、このAMG GLS63ではやや控え目だ。「A45」や「AMG GT」のような派手なレーシングサウンドではないので念のため。単に遮音性が高いだけかもしれないが。
走行モードをスポーツ寄りにすればするほどギア選択は自動的に低くなり、その分燃費は悪化するが気分はアガる。肉食系には年中「スポーツプラス」モードを推奨したい。
気遣いもできる超人
メルセデスのSUVのフラッグシップだけに、装備も完璧なまでに充実している。従来の4本スポークに代わって新しいT字型スポークのステアリングホイールを採用し、インストゥルメントパネルにメディアディスプレイ、センターコンソールにタッチパッド、そしてアンビエントライティングやイオン式空気清浄機まで装備された。
インテリアトリムも刷新され、さらにナッパレザーのダッシュボードやDINAMICAルーフライナー、Bang&Olufsenのサウンドシステムがセットになった「AMGエクスクルーシブパッケージ」も用意されている。
ただ、今回の試乗車の場合、オプションはボディーカラー(ダイヤモンドホワイト)の11万1000円のみ。それで十分満艦飾の充実装備だった。このクラスは今やオプション地獄(天国?)が当たり前だが、つるしで満艦飾というのは大変ありがたい。
中でも私が感動したのは、前席カップホルダーの冷温機能だった。通常ドリンク冷温機能は、センターコンソール内などにエアコン風を導入して行うものだが、このクルマのソレはカップホルダーそのものが冷たくなったり温かくなったりする。
目を凝らして触って観察してみたが、どこにも冷風/温風吹き出し口はなく、底や側面そのものが冷たくなったり温かくなったりした。そして冷温機能オン時には、青または赤のインジケーターが点灯する。超人ハルクの細やかな気遣いに、美女もウットリしてくれることだろう。
(文=清水草一/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
メルセデスAMG GLS63 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5160×1980×1850mm
ホイールベース:3075mm
車重:2610kg
駆動方式:4WD
エンジン:5.5リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:585ps(430kW)/5500rpm
最大トルク:77.5kgm(760Nm)/1750-5250rpm
タイヤ:(前)285/40ZR22 110Y/(後)285/40ZR22 110Y(ピレリPゼロ)
燃費:7.4km/リッター(JC08モード)
価格:1900万円/テスト車=1911万1000円
オプション装備:メタリックペイント<ダイヤモンドホワイト>(11万1000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2465km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:263.7km
使用燃料:41.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.4km/リッター(満タン法)/6.4km/リッター(車載燃費計計測値)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。