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第458回:52歳で夢の転身! フォルクスワーゲンの部品を扱う、イタリアおじさんストーリー

2016.07.15 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ

ビートルの祭典でカルトな屋台

イタリア中部スタッジャ・セネーゼで行われる「インターナショナル・フォルクスワーゲン・ミーティング」は、イタリアの「ビートル」ファンにとって“夏のお約束イベント”である。この連載では2014年に動画編をお届けしたので、ご記憶の方もいらっしゃるだろう。

第31回となる2016年のイベントは、7月の8日から10日にかけて開催された。今回も各国の愛好者が参加。中には、遠くイギリスやルーマニアからの来場者もあった。

このイベントでは、毎回ビートル関連のさまざまな屋台が出店される。ただしこれまでは、Tシャツやマグカップなど、グッズ類が中心であった。

今年はといえば、新しいタイプの店が増えている。ある店は、陳列してある品をひと目見るだけで、少々カルトな屋台であることがわかった。なぜなら、すすけたり退色したりしたオリジナルパーツの箱が、いくつもテーブルの上に陳列されていたからだ。

ボクが興味深げに観察し始めると、早速店主が笑顔で話しかけてきた。
「俺はビートルのオリジナルパーツを得意としてるんだよ」

ヴィンチェンツォさんという彼は、商品の中からテールランプレンズをふたつ手にとって見せてくれた。
「こっちはヘラ社製のオリジナル、そしてこっちはリプロダクション品だ」
価格は前者が200ユーロ、後者はその半値以下の90ユーロである。

「でもほら、赤とオレンジの色が微妙に違うだろ?」
いわれてみると、色味がたしかに違う。オリジナル派は、こうした細かい部分にも、神経を使うという。

さらに「こっちは1949~1951年のテールランプ……」と、お宝紹介は続いた。

第31回「インターナショナル・フォルクスワーゲン・ミーティング」の会場で。2016年7月9日撮影。
第31回「インターナショナル・フォルクスワーゲン・ミーティング」の会場で。2016年7月9日撮影。 拡大
クリスタルガラス工房の見学や、地元ラジオ局の出張スタジオで盛り上がる本会場でのディナーなど、3日間のプログラムは盛りだくさん。
クリスタルガラス工房の見学や、地元ラジオ局の出張スタジオで盛り上がる本会場でのディナーなど、3日間のプログラムは盛りだくさん。 拡大
「マッジョリーノ・ガレージ」を主宰するヴィンチェンツォ・ムッツィオさん。
「マッジョリーノ・ガレージ」を主宰するヴィンチェンツォ・ムッツィオさん。 拡大
「フォルクスワーゲン・ビートル」のテールランプレンズ。左がヘラ社による純正で、右がリプロダクション品。
「フォルクスワーゲン・ビートル」のテールランプレンズ。左がヘラ社による純正で、右がリプロダクション品。 拡大
フォルクスワーゲン の中古車

“好き”を仕事に

ビートルのオリジナルパーツは、年々入手が難しくなるばかりだ。そのためヴィンチェンツォさんは、ドイツ、スイス、英国、時に米国やブラジルまで駆け回って、パーツを確保しているという。

さぞかし業界歴が長いのだろうと思いきや、聞いてみると、
「去年開業したんだよ。アハハ」
と笑って答える。

ヴィンチェンツォさんは、1963年南部シチリア州カターニャ生まれで、今年53歳。ビートルとのなれそめは?
「子供のころ、映画で見たハービーだったよ」

ハービーと呼ばれるビートルが登場するのは、1968年のディズニー映画『ラブ・バッグ』。人間の感情を持ったビートルが活躍するアクションムービーである。
以来ビートルのとりことなり、最初に買ったミニカーもビートル、20歳で最初に買ったクルマもビートルだったという。

2002年、39歳のとき北部ミラノに移り住んで製薬業界の仕事に就く。 
しかし、ビートルへの熱き思いは捨てがたかった。

オフタイムにオリジナルパーツの売買を始めた。会社ではカンパニーカーとして「BMW 5シリーズ」をあてがわれ、幹部にまで昇進した。
「しかし好きなことを仕事にしたいと思ってさ、去年辞めちゃったんだ」
52歳での転身である。

家族の反応は?

「22歳だった娘はかなりうろたえたけど、フリージャーナリストをやってる女房は、黙って認めてくれたよ」

ヴィンチェンツォさんの後ろ姿。シャツのイラストからも「ビートル」への愛がにじむ。
ヴィンチェンツォさんの後ろ姿。シャツのイラストからも「ビートル」への愛がにじむ。 拡大
かつて10万km走行したオーナーに贈呈されていた、フォルクスワーゲンの記念バッジ。
かつて10万km走行したオーナーに贈呈されていた、フォルクスワーゲンの記念バッジ。 拡大
キャップを外すための工具が一体になったホイール用レンチ。
キャップを外すための工具が一体になったホイール用レンチ。 拡大
グリュンディック製純正ラジオ。ダイヤルにフォルクスワーゲンマークが刻まれている。
グリュンディック製純正ラジオ。ダイヤルにフォルクスワーゲンマークが刻まれている。 拡大

女房の顔も見てみたい

独立1年目にもかかわらず、まずは快調な滑り出しという。

「アマチュア時代のまじめな取引が実を結んだ」と本人は分析する。ネットオークションの世界でいうなら、「今回は気持ちいい取引ができました。ありがとうございました」といったところか。

部品販売の合間には、修理に関するコンサルティングやレストアも手がけている。修復したビートルの台数は、アマチュア時代も合わせると、20台にのぼるというから驚きだ。
「三つ子の魂百まで」とは、ヴィンチェンツォさんにふさわしい言葉だ。

最後にビートルの魅力を聞くと、ヴィンチェンツォさんは「1にシンプルなこと、2に堅牢(けんろう)であること」と、即座に応えてくれた。

そういえば、前述の映画『ラブ・バッグ』のハービーは、車体が前後真っぷたつになりながらも、主人である落ち目のレーシングドライバー、ジムを助け続けた。
当日は会場に来ていなかったが、ミラノで彼を待つ夫人も、ハービーのような献身的な人に違いない、と読んだボクであった。

(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

スペアタイヤと、その内側におさまるツールキット。
スペアタイヤと、その内側におさまるツールキット。 拡大
バックランプとオリジナルの化粧箱。
バックランプとオリジナルの化粧箱。 拡大
往年のオフィシャルグッズであるライター。当時のものだけに、ちゃんとMade in Germanyである。
往年のオフィシャルグッズであるライター。当時のものだけに、ちゃんとMade in Germanyである。 拡大
ヴィンチェンツォさん(写真左)と、彼を長年頼りにしているお客さんのステファノさん(右)。写真の「ビートル」は1951年型。
ヴィンチェンツォさん(写真左)と、彼を長年頼りにしているお客さんのステファノさん(右)。写真の「ビートル」は1951年型。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナ在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、22年間にわたってリポーターを務めている。『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。最新刊は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。

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