メルセデス・ベンツSLC180スポーツ(FR/9AT)
やんちゃな末っ子 2016.08.11 試乗記 メルセデス・ベンツがラインナップするオープンモデルの“末っ子”が「SLC」。新設定の1.6リッターターボエンジンを積んだ「SLC180スポーツ」に試乗し、マイナーチェンジとともに新しい名前を冠することとなった、同車の実力を確かめた。“前の名前”はなんだっけ?
メルセデス・ベンツのモデル名の整理が進んだので、編集部から「メルセデス・ベンツSLC180スポーツに乗っていただきます」というメールをもらった時、一瞬、SLCってどんなモデルだっけと首をひねった。そうだ、SLCは元「SLK」だ。
メルセデスのロードスターを表す「SL」と、「Cクラス」相当の車格を表す「C」を組み合わせたのがSLC。銀行や政党の再編が進んだ時期に、「りそな銀行(あるいは日本新党)ってもともとはなんだっけ?」と思ったのに似ている。
2016年初夏に導入されたSLCは、3代目SLKのビッグマイナーチェンジ版。試乗前にあれこれ予想するのもこういう仕事の楽しみのひとつ。あれやこれや想像してみる。
SLKというモデルは代々、カッティングエッジな走りよりも、スポーティーさと優雅さがバランスしたスポーツカーだった。SLCも、さらに洗練されたスポーツカーに仕上がっていると予想する。
モデル名に「C」とあるように、SLCは同社のCクラスの系列にある。開発時期が異なるし、現行Cクラスのホイールベースは2840mm、一方SLCが2430mmだから、もちろん性質は異なるだろう。けれどもここ最近のCクラスのドライブフィールがどんどん上質になっているという傾向は、SLCにも引き継がれていると想像する。
と、あれやこれや考えながら集合場所に赴くと、ちょうど編集部のスタッフがSLC180スポーツのフロントマスクを撮影しているところだった。男っぽくなった、と感じたのはフロントのエアダム開口部が大きくなっているからだ。
インテリアは最近のメルセデス・ベンツのテイストで、色使いはシンプルでありながら、造形に凝ることで華やかさを演出している。渋ハデという言葉が頭に浮かぶ。高級感とスポーティーさがうまくブレンドした、なかなかかっちょいい内装だ。
ここで、メルセデス・ベンツSLC180スポーツが搭載する、最高出力156psの1.6リッター直列4気筒直噴ターボエンジンを始動する。
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第一印象は「ちょっとちぐはぐ」
1.6リッターのターボエンジンには、試乗を開始した最初の数分で好感を持った。信号が青に変わって発進する時、アクセルを軽く踏み込んだ瞬間にみっちり中身の詰まったトルクが後輪に伝わる。市街地で、アクセルを軽く踏み込んだり少し戻したり、という微妙な操作を連続しても、柔軟に対応してくれる。ぴきっぴきっと敏感に応答するわけではないけれど、素直さが伝わってくる。
素直でクセのない手応えには、9段ATも寄与している。変速ショックは非常に小さいのでギアが変わったことにはなかなか気付かないけれど、注意深く観察すると、早め早めのタイミングで「す、す、す」とシフトアップしていることがわかる。ちなみにここまでは、パワートレインの性質を変える「ダイナミックセレクト」を「コンフォート」にセットしての印象。
上品で穏やか、それでいて決して鈍くないパワートレインと対照的なのが、足まわりだ。路面の凸凹を乗り越えた瞬間のショックをダイレクトに伝えるセッティング。スポーツカーらしい引き締まった足まわりとも言える。ただ、最近のメルセデス・ベンツ各車に乗って感じる、4本の足が生き物のように伸び縮みする快適な乗り心地を期待していたので、頭の中には「?」がともった。
あるいは、試乗したメルセデス・ベンツSLC180スポーツが、ベーシックなメルセデス・ベンツSLC180よりも10mmローダウンしたスポーティーなサスペンションを採用していることの影響もあるのかもしれない。
このあたりは直接乗り比べたわけではないので断言はできないけれど、市街地を走る限りは優雅で洗練されたスポーツカーというよりも、柔軟性に富むパワートレインと硬派な足まわりを組み合わせた、ちょっとちぐはぐなスポーツカーだという印象を受けた。
けれどもこのちぐはぐ感は、「ダイナミックセレクト」を操作すると霧散した。
想像以上に硬派で若々しい
「ダイナミックセレクト」には、「エコ」「コンフォート」「スポーツ」「スポーツ+」「インディビデュアル」の5つのモードがあり、アクセル操作に対するレスポンス、9段ATが変速するタイミング、排気音、ステアリングホイールの手応えが変化する。
首都高速に上がり、「コンフォート」から「スポーツ」に切り替えると、「コーン!」と排気音のボリュームが上がった。
ステアリングホイールの手応えがグッと骨っぽくなり、アクセルを踏み込んだ時のエンジンの反応は明らかに素早くなる。
この瞬間、あぁなるほどと思った。このクルマは、見かけがハンサムになっただけでなく、中身も男前なスポーツカーなのだ。「コンフォート」モードで走らせていた時にはやや粗っぽいと感じたサスペンションも、「スポーツ」の状態なら気にならない。
気にならないどころか、パワートレインにしろ足まわりにしろ、ソリッドな手応えは気に入った。
面白いのは、タウンスピードではバタつくと感じた足まわりが、速度を上げるにつれ快適になることで、かなりの高速に合わせて足まわりをセッティングしているように感じた。
デザインもステキだし小回りも利くので、銀座でお買い物に使うのもいいでしょう。でも、このクルマの真価が発揮されるのは一生懸命に走った時であるのはまちがいない。
快適指向のエレガントなオープンスポーツという事前の予想はハズれで、メルセデス・ベンツSLC180スポーツは硬派で若々しいスポーツカーだった。ちょっとやんちゃな性格は、メルセデス・ベンツ一家のスポーツカーのラインナップにあって、末っ子という印象だ。
(文=サトータケシ/写真=向後一宏)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツSLC180スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4145×1845×1295mm
ホイールベース:2430mm
車重:1520kg
駆動方式:FR
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:156ps(115kW)/5300rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1250-4000rpm
タイヤ:(前)225/40ZR18 92Y/(後)245/35ZR18 92Y(ピレリPゼロ)
燃費:14.9km/リッター(JC08モード)
価格:590万円/テスト車=599万6000円
オプション装備:メタリックペイント<イリジウムシルバー>(9万6000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2107km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:359.8km
使用燃料:31.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.4km/リッター(満タン法)/11.1km/リッター(車載燃費計計測値)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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