ポルシェ911ターボ カブリオレ(4WD/7AT)
たしなむように乗れ 2016.08.13 試乗記 デビュー3年目の大幅改良で、動力性能のさらなる向上が図られた「ポルシェ911ターボ カブリオレ」。540psに達するパワーや走りを極めるハイテク装備こそ見どころと思いきや、試乗してみると、より根源的な魅力が伝わってきた。心が全く乱れない
最新型の911ターボ カブリオレに乗ると、「金持ち喧嘩(けんか)せず」という言葉がスッと浮かんでくる。ことわざ本来の意味とは、ちょっと違うかもしれないが。911シリーズ最高峰の性能を持つ「911ターボ」をベースとしているにもかかわらず、乗り手が「走れ、走れ!」といたずらにかきたてられることがまるでない。実に落ち着いた気分でこの超高性能を楽しませてくれるのである。
ターボ カブリオレは、路上では非常に目立つ存在だ。事実、今回の試乗コースに含まれた東名高速道路をしずしずと走っているだけで、このマイアミブルーのワイドボディーが、周りの視線を集めてしまうのがわかる。周りのクルマたちの、動きがどことなく妙なのだ。中にはこのインパクトに吸い寄せられるかのように猛スピードで迫っては様子をうかがう、同じドイツ生まれのスポーツセダンもいた。
だが不思議なことに、こちらは一切カチンとくることもなく「お先にどうぞ」となってしまうのだ。すると相手は拍子抜けしたかのように、スピードを上げて先を急ぐ。
……あぁ、なんだかとっても気持ちいい。これこそが、この911ターボカブリオレの、とても大きな魅力だと筆者は思う。
価格に見合った乗り心地
そのリアセクションに積まれるのは、現行911ターボと同じ3.8リッターの水平対向6気筒直噴ターボ。アウトプットは最高出力540ps/6400rpm、最大トルク72.4kgm/2250-4000rpmと、クローズドボディーのクーペモデルと全く同じ。はっきり言って、途方もない数字である。
となると気になるのは、バッサリとルーフを切り落とすことで低下したはずのボディー剛性が、そのパワー&トルクにどう対応するかだろうが、この点も思わず「お見事!」とうなってしまう。だからといって、筆者は911ターボ カブリオレを「完璧な剛性を確保したオープンカー」などと評するつもりは全くない。
荒れた路面を無造作に通過すれば、20インチにまで拡大されたフロントタイヤがバネ下でふぞろいに動くし、路面のうねりによって急激なキックバックが伝わってくることが、ないとはいえない(逆にリアタイヤは、エンジン重量がのしかかるせいなのだろう、非常に落ち着いている)。
しかし、道のりの大半はただひたすら、そのプライスタグ(2502万円!)にふさわしい乗り心地で満たされるのだ。それは質感の高い、威厳のある、低重心な、ポルシェらしい乗り心地である。
「オープン状態がベスト」な作り
さらに素晴らしいのは、ルーフを開け放つと、ドライバーとクルマとの一体感が一段と高まることだ。
クローズド状態の911ターボ カブリオレは、確かにオープントップとしては非常にレベルの高い気密性と静粛性を実現している。しかし、その代わりに、タイヤのパターンノイズが余計に意識されてしまい、また、くだんのバネ下重量が、その繊細なステアフィールに少しだけ水を差す。
だが、ほろを下ろしてクローズド状態ではなくなると、そんな重箱の隅をつつくような評価はどうでもよくなってしまう。切れ味の鋭い、立体的で重厚な水冷ボクサーエンジンのサウンドと、心地よい風の流れがアッという間に不快なノイズをかき消して、ドライバーの心を満たしてくれる。多少のキックバックも、「ダイレクトな操作感」へと変換されてしまう。オープントップがもたらす体感的な効果は、非常に大きいのだ。
逆に、オープンで走ると前述のアラが隠れてしまうともいえるのだが、それだけで911ターボ カブリオレがもたらす高揚感が実現されているわけではない、と筆者は思う。
タイヤ、サスペンション、ブッシュ、ステアリング、アクセル&ブレーキペダル、そしてシャシー。それらすべての動作するタイミング、そして共振する周波数が、オープンにした状態でぴたりと整ってくる。
ほろを下ろしたことで重心も幾分低くなるし、通常時はトルクの10%ほどをフロントに配分している4WDのシステムもオープンボディーを安定させることに貢献している。とにかく、911ターボ カブリオレを構成するすべての要素が、オープン時に照準を合わせてチューニングされていると実感できるのだ。
飛ばさなくても楽しめる
だから、飛ばして楽しい911ターボ カブリオレは、全く飛ばさなくてもまた楽しい。
タイヤの路面に接する感触と、車体のダイアゴナル方向の傾きをわかりやすく伝えてくれる、極めてしなやかなサスペンションの動きを感じながら、かっちりと利くブレーキで荷重をコントロール。路面をなぞるような手応えのステアリングを少し切るだけで、確実に姿勢と向きが変わる。瞬速の7段PDKで、ジャリジャリと個性的なメカニカルサウンドを発するエンジンにタクトを振るい、悦に入る。そしてドライバーは、「すぐれた機械を操っているなぁ……」と、このクルマを運転する充実感に満たされるのだ。
世界屈指のスポーツカーであるポルシェ911、その実力を真っすぐに受け止めたいなら「GT3」や「GT3 RS」を選ぶのが妥当だ。
しかし、スポーツカーの走る道は、サーキットだけじゃない。いまや500psオーバーも当たり前となったスーパースポーツたちは、これからいろいろと価値観の転換を迫られるだろう。そして少なくとも911ターボ カブリオレは、既にそこに気が付いている。己の魅力を、いかにオープンロードで発揮するか? それに関しては、クローズドモデルである911ターボよりも、このカブリオレの方が上手(うわて)であると思う。
「どうせ飛ばせないんだから、そんなパワーはいらない」
そんなやっかみにも諦めにも似た言葉もよく耳にするが、それは違う。研ぎ澄まされた性能をたしなむように味わうのも、スポーツカーを運転する喜びのひとつなのだ。
カブリオレというのは、そのための最高の手段であると、あらためて学んだ試乗であった。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸)
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テスト車のデータ
ポルシェ911ターボ カブリオレ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4507×1880×1294mm
ホイールベース:2450mm
車重:1665kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:3.8リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:540ps(397kW)/6400rpm
最大トルク:72.4kgm(710Nm)/2250-4000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 91Y/(後)305/30ZR20 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:9.3リッター/100km(約10.8km/リッター、欧州複合モード)
価格:2502万円/テスト車=2599万円
オプション装備:ボディーカラー<マイアミブルー>(48万2000円)/電動可倒式ドアミラー(5万5000円)/パワーステアリング・プラス(4万8000円)/20インチ スポーツクラシックホイール(15万9000円)/シートベンチレーション(19万3000円)/フロアマット(3万3000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:3091km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:299.4km
使用燃料:27.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.1km/リッター(満タン法)/9.8km/リッター(車載燃費計計測値)

山田 弘樹
モータージャーナリスト。ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。