プジョー508GT BlueHDi(FF/6AT)
スポーティーなフラッグシップ 2016.08.16 試乗記 プジョーのラグジュアリーモデル「508」に、2リッターのクリーンディーゼルエンジンが搭載された。「GT」の2文字が示す通り、スポーティーなフラッグシップに生まれ変わったのが最新型のポイントである。セダンの「508GT BlueHDi」に試乗した。ディーゼル専用モデルへ
かつてプジョーのトップモデルであった「607」。その後継ポジションをも担う新たなフラッグシップとして508が初公開されたのは、2010年秋のパリサロンの場。翌2011年の6月に日本で発売されてからも、すでに丸5年以上が経過。かくしてそのライフもさすがに「そろそろ後半戦」と、そう受け取るのが自然なモデルでもあるはずだ。
そんな微妙なタイミングで日本導入が図られたのが、508GT BlueHDiと「508SW GT BlueHDi」。今後日本で販売される508シリーズは、セダンの前者とステーションワゴンの後者という、ディーゼルエンジンを搭載するこの2つのGTグレードに絞られることになる。
“BlueHDi”の名称が示すように、従来の1.6リッターターボ付きガソリンエンジンに代わって搭載されるのは、酸化触媒と尿素水溶液を使用した選択還元触媒、そして微粒子フィルターという“三段構え”による最新の排ガス浄化システムを備えた、ターボ付きの高圧直噴ディーゼルエンジン。それは、同時に日本に導入された「308GT BlueHDi/308SW GT BlueHDi」が用いる2リッターユニットと同一。180psの最高出力と400Nm(40.8kgm)の最大トルクも同スペックとなっている。
そんな同じ心臓を積む308に比べると、ボディーはふた回りほど大きく、車両重量も200kg近く重い。それゆえ、燃費データが劣るのはやむを得ないところ。一方で、燃料タンクの容量は20リッターも多く、航続距離は逆転。JC08燃費モードである18.0km/リッターにタンク容量の72リッターを掛け算すると、走行可能レンジは実に1296kmという長距離に達する。
「給油するのは年に数回……」と、そんなユーザーすらも現れそうな“長い脚”の持ち主であることは間違いない。
前サスがダブルウイッシュボーンに
この新規導入モデルには、従来の508とは“見えざる大きな違い”がもう一点ある。
それはフロントのサスペンション形式。これまで日本に導入されてきたモデルがマクファーソンストラット式であったのに対して、今度のモデルはダブルウイッシュボーン式と、全く異なるシステムを採用しているのだ。
実は、ヨーロッパ市場向けの508には、デビュー当初からこれら2種類のフロントサスペンションが用意されていた。大半のグレードに採用されたのがマクファーソンストラット式。一方、大出力エンジンを搭載するスポーティーグレードに限って採用されてきたのがダブルウイッシュボーン式だった。
今回日本に導入されたのは、実はシリーズ中でも最もスポーティーなグレード。ちなみに、デビュー当初の国際試乗会の場で担当エンジニア氏に問うたところ、「軽量さとコストを意識して完全新開発を行ったのがマクファーソンストラット式で、より高いコーナリングポテンシャルを狙ったのがダブルウイッシュボーン式」という、半ば予想通りの答えが返ってきたものだ。
今回テストドライブを行ったのは、434万円という価格のセダン。電動シェード付きのパノラミックルーフや、エレクトリック・テールゲートを標準装備とするステーションワゴンのSWは、そのちょうど30万円高で用意される。
今や熟成の域
走り始めての率直な第一印象は、「さすがにちょっと“旧(ふる)く”なったかな……」というものだった。
ボディーの剛性感は、オールニューの新世代骨格を用いる308のそれに明確に見劣りする。路面凹凸を拾った際のボディー振動の減衰は必ずしも即座には行われず、加えてステアリングコラムにも微振動が感じられるあたりに、そうした「ボディーがちょっと旧いかな……」という印象を抱いてしまうのだ。
なぜかエンジン透過音も、こちらの方がやや大きく伝わる印象。特に騒々しいというほどではないものの、ノイズ面での“ディーゼルらしさ”は、むしろ弟分の308をこちらフラッグシップが上回ってしまう。
実は、装備リストを眺めても、同様に“旧さ”を感じずにいられない部分もある。レーダーデバイスを用いたいわゆる“自動ブレーキ”や、前車追従機能付きのクルーズコントロールなど、昨今登場のモデルがこぞってその採用を競い合う、先進のドライバー補助システムが、残念ながらいまだ508には設定されていないのだ。
もちろんこのあたりは、ここ数年で急速に普及が進んだアイテムだけに、5年以上前に誕生のモデルにとっては不利である部分。
とはいえ、フラッグシップに位置するモデルとしては、やはり物足りない感は否めないもの。継続生産中のモデル向けに開発し、適合を図るための手間やコストを考えると、次期モデルでの一括採用を期待する方が現実的かもしれない。
動力性能に不満なし
前述のように、同エンジンを搭載する308に比べると重量が大きく増したこともあり、駆動ギア比が見直されてはいるものの、それでもやはり加速の力感はこちらの方がマイルド。
とはいえ、そこはわずかに2000rpmで400Nmという、自然吸気のガソリンエンジンであれば4リッターユニット級にも相当する最大トルクを発生する心臓の持ち主。街乗りシーンから高速道路、さらにはワインディング路に至るまで、どのようなシーンでも絶対的な動力性能に不満はみじんも抱かなかった。
もちろんこの期に及んでは、よりワイドなカバーレシオと、さらに小さなステップ比を両立させるより多段のトランスミッションが欲しいという思いも皆無ではない。が、現状の6段ATとのマッチングも決して悪くはない。
ちなみに、100km/hクルージング時のエンジン回転数は、4500rpm以上がレッドゾーンの大きく見やすいタコメーター上で1600rpm弱。ちょうどこの付近からが「本領発揮」のゾーンで、実際に相当量のアクセル踏み増しに対しても、キックダウンを行わないまま、力強く背中を押してくれることになる。
235/45サイズの18インチシューズを標準で履くフットワークは、ワインディング路をそれなりのアップテンポで駆け抜けても、タイヤが簡単に悲鳴を上げたりノーズの重さを感じさせられたりする場面にはまず遭遇しない。
600kgという後軸重に対して前軸重は1050kgと、スペック上は明確なフロントヘビーというバランス。にもかかわらず、そんな走りのテイストを演じることができているのは、やはりフロントにキャパシティーの大きなダブルウイッシュボーン式をおごった成果でもありそうだ。
ただし、その乗り味は基本的にはしなやかなサスストローク感を演じつつも、時にちょっとばかりの関節の硬さを意識させる。ここだけは、より滑らかなテイストを享受できた“フロント・ストラットサス時代”がちょっと懐かしくも思えることとなったのも事実ではあった。
(文=河村康彦/写真=小河原認)
テスト車のデータ
プジョー508GT BlueHDi
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4830×1855×1455mm
ホイールベース:2815mm
車重:1650kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:180ps(133kW)/3750rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/2000rpm
タイヤ:(前)235/45R18 98W/(後)235/45R18 98W(ミシュラン・プライマシーHP)
燃費:18.0km/リッター(JC08モード)
価格:434万円/テスト車=441万0200円
オプション装備:メタリックペイント(7万0200円)
テスト車の年式:2016年型
テスト車の走行距離:1781km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。