マツダ・アクセラスポーツ 20S-SKYACTIV(FF/6AT)【試乗記】
淡麗辛口 2011.10.26 試乗記 マツダ・アクセラスポーツ 20S-SKYACTIV(FF/6AT)……240万5500円(17インチホイール装着車)/212万9000円(15インチホイール装着車)
「スカイアクティブ」と呼ばれる次世代技術を盛り込みながら、マイナーチェンジが施された「マツダ・アクセラ」。その走りは、どう変わった?
誠実さが感じられるクルマ
トヨタでいえばハイブリッド、日産でいえば電気自動車といった“省燃費性能看板グルマ”をもたないマツダは、いま既存の技術にとことん磨きをかけることで、ここ数年でかなり切実になってきた消費者の燃費意識に真正面から応えようとしている。
それがマツダの新時代総合技術である「SKYACTIV」(末尾に「E」はないが、スカイアクティブと読む)。派手な名前とは裏腹に、マイナーチェンジした「アクセラ」に乗ると、そこにはマツダの誠実なクルマ造りを感じ取ることができる。
アクセラのエンジンは2リッターの直噴式直列4気筒。その方法論は「デミオ」と同じ「高圧縮エンジン」の採用にある。圧縮比こそ12:1とデミオ(14:1で1.3リッターとしては世界一)には及ばないものの、これはたいしたもの。たとえば「フェラーリ458イタリア」の圧縮比は12.5:1である。
エンジンの圧縮比を高める理由は、当然ながら燃焼効率を上げるためだ。燃焼効率が上がれば燃料は無駄なく燃やされるため、当然燃費は良くなる。
ならばすべてのクルマが圧縮を上げれば良いではないか? と思うかもしれないが、それこそが内燃機関永遠のテーマであり、とても難しい。シリンダーに送り込まれた空気は圧縮されるほどに爆発時のエネルギーを増幅するが、その圧縮率が高いほど空気は発火しやすくなり、プラグで点火する前に爆発を起こしてしまう(いわゆる異常燃焼だ)。そうすれば、当然エンジンを壊す可能性も大きくなるのだ。いわばこうした“いたちごっこ”に早々に見切りをつけたのがトヨタのハイブリッドといえるかもしれない。
まるで“走る技術展”
ともかくマツダは、それでも内燃機関の可能性に賭けた。高圧縮ピストンのトップにはくぼみ(キャビティー)をもうけ、ピストンが上死点に達した際の最適な燃焼室形状を作り上げる。直噴化したインジェクターには6つもの燃料噴射口を持たせ(マルチホールインジェクター)、最適な混合気を生成。エンジンをロングストローク化したのは、低中速トルク型にするのと同時に、シリンダーのボア径を小さくすることで、燃焼効率を上げようとした結果。テクノロジーフェチには、“萌え〜”な内容のオンパレードなのである。
現在欧州のトレンドは、「小排気量ターボ+多段化トランスミッション」まっしぐらだが、マツダはこれにも安直に迎合しない。効率化を狙いながらもターボは、やはり踏み込むほどに燃費が悪く、また小排気量ゆえの唐突な出だしなど、ドライバビリティーに欠ける部分がある、というのがその見解だった。逆に自然吸気エンジンは、排気量が多い分だけトルクが厚く、元来アクセルレスポンスもリニア。だから必要以上にトランスミッションを多段化せずとも、楽に走ることができる。じっさいそのドライバビリティーや高燃費を評価している北米では、2リッターエンジンの需要がまだまだ多いのだという。
ただし筆者がこのアクセラを強く推す理由は、じつはそこ(燃費性能)ではない。このクルマの素晴らしさは、生まれ変わったといってもよいそのシャシー性能にある。逆に言えばそれは、ライバルのエコカーたちにはない武器だといえる。ようするに、走りが奥深くて楽しいのだ。
欧州車も顔負け
今回の試乗は、新グレード「SKYACTIV」シリーズの固め打ち。15インチと17インチ、異なるホイールサイズのハッチバックを乗り比べたが、正直そのどちらにもうなってしまった。
国産車の常として、廉価モデルは価格が命。タイヤもダンパーも、すべてにコストを強烈に意識して、走りを切り捨てる傾向がある。しかしアクセラの15インチ仕様(195/65R15)は、リッター20kmを達成するエコタイヤ(ブリヂストンと共同開発)を履くにもかかわらず、走りの大本命モデルであった。
一般的に“アシがいい”というと、ステアリング・ゲインが高く、とかく俊敏に反応するクルマを思い浮かべがちだ。マイナーチェンジ前のアクセラも、間違いなくこの傾向だった。
しかし、SKYACTIV仕様となったアクセラのハンドリングは、別人(車?)のように懐が深い。初期操舵(そうだ)時にこそ軽快さが演出されてはいるものの、その先は、ステアリングを切り増せば切り増した分だけタイヤに荷重がかかり、じわりとロールしていく。決して限界が高いタイヤではないはずなのに、接地性が最後まで途切れないから、ドライバーは自然にクルマを曲げていくことができるのだ。対してリアタイヤはどっしりと地に足を着けている。「滑ったら修正するのがドライビングだ」とでも言いたげだった、これまでの限界が低い走りとはわけが違う。
これに似たハンドリングのクルマとして「ルノー・ルーテシア」を思い出すが、こちらがフランス産の少し重い赤ワインだとしたら、アクセラは淡麗辛口な日本酒の味わい。そのすっきりとした、欧州車顔負けのハンドリングは、開発主査によるとSKYACTIVコンセプトによるボディー剛性の向上がもたらしたものなのだという。
「静かな15インチ」に期待
ただひとつ、15インチ仕様で気になったのは、遮音性の低さ。それだけが、常用速度域が異なる欧州車にかなわない。相対的に薄作りな遮音材やガラス越しに、専用タイヤがもたらすロードノイズが、かなり大きく入ってくる。
しかし、この問題をも見事にクリアしていたのが17インチモデル(205/50R17)だった。大径タイヤを装着すれば、コーナリング性能は上がっても乗り心地は悪くなる、というのは昔の話か。専用設計されたショックアブソーバー(と専用タイヤ)は路面からの小刻みな入力や、サスペンションまわりから発生する微振動を吸収・減衰してしまう。タイヤ幅が広がり、サイドウォールも低扁平化されたために、もちろん走りの性能も数段上手に高められているが、それよりもこの包容力と質感の高さに感嘆する。「17インチタイヤなんて履けないよ!」とすねながらも、「やっぱ高い方がいいのかなぁ」と、ちょっと悔しくなった。
個人的には15インチ推し。標準装着タイヤを履き潰したら、その後タイヤだけを静粛性の高いものに奮発して、さらに乗り倒す! という筋書きが頭の中で成り立つのだが、17インチは本当に魅力的である。
トルクコンバーター領域を減らし、ロックアップ領域を増やすことで俊敏な変速レスポンスを得たという新型6段AT「SKYACTIVーDRIVE」は、欧州勢が採用するデュアル・クラッチ・システムに、変速時間、変速ショックともにかなわないと感じた。というより、デュアル・クラッチ・システムには変速ショック自体がない。
ただし、「かなう必要があるのか?」と問われれば、「さほどない」と答える。従来の緩慢なATよりはSKYACTIV−DRIVEの方がはるかに応答が良く、サーキットを走るのでもない限り、そこにもどかしさを感じないからだ。本当であれば6段MTが欲しいところだが、その需要は日本にはもうないのだろう。
かなりの長文になってしまったが、そうやって丁寧に説明してこそ、新型アクセラの作り込みは伝わると思う。これだけ不景気な時代に、かけるべき部分にはコストをかけ、これほどまじめに造られたクルマは、なかなかない。
(文=山田弘樹/写真=峰昌宏)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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