フォルクスワーゲン・パサートヴァリアントTDIハイライン(FF/6AT)
実用車、ここに極まる 2018.04.04 試乗記 フォルクスワーゲン(VW)が「パサート」のディーゼルモデルをリリースした。パサートといえば“質実剛健”を地でいく上質な実用車。そこに同じく実用エンジンのディーゼルを組み合わせると、仕上がりはどんな感じ? ワゴンのヴァリアントでテストした。輸入乗用車販売の2割がディーゼル
お待ちかね、フォルクスワーゲン・ディーゼルの第1弾が、「パサートTDI」である。
燃費不正問題の影響で、VWの日本市場へのディーゼル投入は2年近く遅れたといわれる。しかし、まずパサートからという順番はもとからの既定路線だった。車重の重い上級クラスのほうが、厳しい日本の排ガス規制をクリアしやすいし、ディーゼルの割高感も吸収しやすいからだ。
パサートTDIのエンジンは、最高出力190ps、最大トルク400Nmの2リッター4気筒ディーゼルターボである。2本のバランサーシャフトを備え、難敵NOx(窒素酸化物)の後処理には尿素SCR(選択触媒還元)システムを採用する。今後、日本仕様のディーゼルVWには、この系統の2リッターエンジンが使われる。2018年中にはSUVが続き、2019年には「ゴルフ」にも搭載されることが予想される。
主にBMWグループの躍進で、いまや日本の輸入乗用車セールスの2割をディーゼル車が占める。5台に1台は軽油で走る外車が選ばれているのだ。モデル数も60をかぞえるという。パサートTDIはそこにエントリーした初のクリーンディーゼルワーゲンである。
今回の試乗車は、「ヴァリアント」の「TDIハイライン」(509万9000円)。ガソリンモデルを含めたパサートシリーズで唯一、500万円を超すディーゼルワゴンである。
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回転フィールは重くても力持ち
2時間枠の試乗会は、新型「ポロ」と同時開催だった。最初がポロで、休みなしにパサートに乗り換える。ポロの影響を受けるなと言われても無理である。
ホテルの駐車場を出て、最初のひと転がしの印象は、眠いクルマだなあと思った。サクサク軽く回るガソリン1リッター3気筒と比べると、やっぱりパサートTDIはディーゼルだ。エンジンの回転フィールは重い。パワーもトルクもポロ(95ps/175Nm)の倍はあるはずだが、ファーストタッチで特にガツンとくる力強さは感じなかった。
標準グレードの「エレガンスライン」が17インチであるのに対して、ハイラインは18インチホイールに235ヨンゴーを履く。リアサスペンションはセダンより固めてあるはずだが、乗り心地はフラットで快適だ。
アクセルを踏める環境に出ると、力もある。荒れた舗装路面でちょっと加速したり、曲がり角から普通に立ち上がったりするときにも、前輪が一瞬空転したり、スキール音が出たりすることがある。トルクのあるFFディーゼル(か、EV)ならではだ。ヴァリアントより車重が50kg軽い「セダン」は、さらに快速だろう。
乗ってしまえばガソリン車と一緒
エンジンの音や振動は、最新欧州4気筒クリーンディーゼルの標準的な仕上げである。車外で聞けばガソリンエンジンではないとわかる。マツダ製ディーゼルほど静かではない。でも、乗って走れば静かで、ガソリン車と大差ない。
タコメーターのレッドゾーンは5000rpmから。100km/h時のエンジン回転数は、DSGの6速トップで1700rpm。シフトダウンしてゆくと、3速(3800rpm)まで落としてもまだ十分静かである。
試乗車にはオプションのデジタルメーターが付いていた。低いギアで引っ張ると、4500rpmあたりから回転の伸びが落ちるが、バーチャルタコメーターの針はジワジワと上り詰めて、きっちり5000rpmまで回る。その途端、昔のレーシングカーの機械式タコメーターのように針が秒殺でドロップする。それがタコメーターチューンという感じでおもしろかった。
計器盤のインフォメーションを繰ってゆくと、「AdBlue走行距離 9000km」という表示が出た。これは走行可能距離の意味である。尿素水溶液タンクは13リッター入りで、日本の平均的な使い方だと1万km以上はもつという。詳細な燃費計測はできなかったが、約60kmの短い試乗区間でトリップコンピューターは14km/リッター台を示していた。車重1.6tの2リッターディーゼルとして燃費はわるくなさそうだ。
安いのに一番大きい
メルセデスでもBMWでもアウディでもない、フォルクスワーゲンの、中でもパサートを選ぶ人が、パサートを買う人である。
ライバルと比べて特徴的なのは、ヴァリアント(ワゴン)の販売比率が高いこと。外車であることをひけらかす趣味はないけれど、クルマは使い倒したい。そういうタイプがパサートのメインカスタマーであるように思う。
とすると、VWの先陣をきってこのクルマにディーゼルが搭載されたのは理にかなっている。同期デビューの新型ポロのようにファン・トゥ・ドライブではないが、もともと「華だけがない」のは、代々パサートの伝統みたいなものだと筆者は感じている。
ディーゼルの“お代”は、セダンでもヴァリアントでも同グレード比で一律35万円だ。「BMW 320d」やメルセデスの「C220d」より安いが、ボディーは一番大きい。お徳用感が高いのもパサートの伝統といえる。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・パサートヴァリアントTDIハイライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4775×1830×1510mm
ホイールベース:2790mm
車重:1630kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:190ps(140kW)/3500-4000rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1900-3300rpm
タイヤ:(前)235/45R18 94W/(後)235/45R18 94W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:20.6km/リッター(JC08モード)
価格:509万9000円/テスト車=529万3400円
オプション装備:テクノロジーパッケージ<ダイナミックライトアシスト+アラウンドビューカメラ“Area View”+駐車支援システム“Park Assist”+デジタルメータークラスター“Active Info Display”>(14万0400円) ※以下、販売店オプション フロアマット<プレミアムクリーン>(5万4000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:2123km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(3)/山岳路(3)
テスト距離:65.5km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:14.4km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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