第388回:全方位的に進化した「マツダCX-5」
主査に聞く新型の見どころ
2016.12.21
エディターから一言
![]() |
2016年11月のロサンゼルスオートショーでデビューした新型「マツダCX-5」が、いよいよわれわれの前に現れた。「すべてのお客さまを笑顔にするSUV」をキーワードに開発された新型に込められた思いを、児玉眞也主査に聞いた。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
いいモノができたらどんどん投入する
「マツダ、ちょっといいよね」と多くの人に言われるようになったのは、2012年にCX-5が登場してからだ。一瞬、もう? と思ったが、12年に登場し、14年にマイナーチェンジしているので、早すぎるということはない。プレスリリースを見る限り、パワートレインもプラットフォームも流用のように見受けられるが、果たして、どこが変わったのか。まずはじっくりと眺めてから、開発責任者に話をうかがった。
まずは児玉眞也主査にインタビューした。インテリアのエンジニアとしてキャリアをスタートし、スペインのフォード工場で「マツダ2(デミオ)」の生産に携わり、オーストラリアとタイでピックアップトラックを担当した後、現行「アクセラ」の主査を経て、新型CX-5の主査を務める。
――海外での販売台数を見ると、まだ右肩上がりなのにフルモデルチェンジするの、早くないですか?
児玉主査(以下、児玉):多くの人から少し早いんじゃないかと言われます。実際まだ5年たっていないですからね。けれど、最近のマツダを見ていただければわかると思うのですが、いいモノができたら、できたタイミングでどんどん投入するという姿勢ですからそれにのっとったということでしょうか。今の世界的なコンパクト~ミドルクラスのSUVブームに乗り遅れたくなかったというのもあります。
――CX-5はマツダの新世代商品群の第1弾で、このクルマをきっかけにマツダが変わったといっても過言ではない重要なモデルですが、その新型の主査はプレッシャーでしたか?
児玉:自分で勝手に財務データを確認して気づいたんですが、CX-5はマツダの収益のおよそ4割を稼ぎ出しているモデルなんです。なのでプレッシャーはありました。たくさんの新しいマツダユーザーを獲得してくれたモデルですから、せっかく獲得したお客さんの心がマツダから離れてしまわないようなモデルチェンジにしなくてはなりませんし。
全体の調和に苦心
――今回のモデルチェンジで最もアピールしたい点をひとつ挙げるなら?
児玉:ひとつなら静粛性の向上ですかねえ……。
――ひとつじゃ収まりきらなそうですね。
児玉:そうですね。苦心したのは、具体的などこかではなく全体の調和なんです。例えばシートの開発では、今回はシート担当者だけでなく、パワートレイン担当、シャシー担当も一緒にあれこれやってくれました。シート担当だけでやると、どうしてもスタティックだけがよいシートになるんです。私は海外が長く浦島太郎みたいなところがあるんですが、今回このクルマの主査を務めて、われわれはパーツをつくっているのではなくクルマをつくっているんだという意識が社員一人一人に浸透しているなと感じましたね。
――やりきった感がありますね。
児玉:発売前に本部長クラス以上全員が三次のテストコースで試乗するわけですが、複数の役員から異口同音に「各セクションがちゃんと同じベクトルを向いて仕事できているな」という趣旨のことを言われたんです。全体の調和こそが最も重要だと考えていたので、認められてうれしかったですね。
著しいインテリアの質感向上
さてその児玉さんの自信作、新型CX-5をじっくり眺める。説明するより写真を見てもらったほうが早いが、フロントマスクは切れ長のヘッドランプがクロームパーツを通じてフロントグリルとつながっている。リアは先代とあまり変わっていない。プロファイルは水平基調が強まった。見た目の重心が下がり、前後ともトレッドがわずかながら拡大したおかげで安定感が増した。マツダはエンジンが横置きでも長いボンネットフードで縦置きみたいに見せるのが大好きだが、新型CX-5でもAピラーを先代よりも35mm後退させた。先代を踏襲し、ボディーが天地に薄く見えるよう、フロントバンパー下端から前後フェンダーモールを通じてリアバンパー下端まで黒い樹脂があしらわれる。
カタログやテレビCMに使われるコミュニケーションカラーは、ソウルレッドクリスタルメタリックという新しい赤で、光の当たり方によって陰影が出やすく、先代にあった赤よりも深みのある塗装だ。来季の広島カープ選手のヘルメットもこれになるのだろうか。
インテリアは格段に質感が高まった。ダッシュボードのデザインも外観同様に水平基調。センターコンソールが一段と高くなってセダンのインテリアのようだ。他の新世代マツダ車同様、ドライビングポジションにこだわったレイアウトで、アクセルペダルとフットレストが左右の足が同じ姿勢になるよう配置されるほか、ドアアームレストとセンターアームレストが同じ高さにそろえられた。高くなったコンソールはデザインのためだけではなく、ATセレクターの位置を60mm高め、操作性を向上させたとマツダは主張する。後席のシートバックは先代より寝かせて24度に設定され、28度の位置にリクライニングすることもできるようになった。上級グレードにはリアにもシートヒーターを付けられる。
パワートレインは基本的に先代からのキャリーオーバーで、スペックも同じ。2.2リッター直4ターボディーゼルエンジンには、ナチュラル・サウンド・スムーザーとナチュラル・サウンド周波数コントロールという音と振動を減じる策が講じられているほか、DE精密過給制御も採用され、パーシャルスロットル時のトルク応答がより緻密に制御され、ペダル操作によりリニアに反応するようになった。エンジンの駆動トルクを必要なタイミングで瞬時に変化させることによって前後の荷重を変化させ、だれの運転でも安定してコーナーをクリアできるG-ベクタリング・コントロールももちろん装備される。
ようやくACCが全車速対応に
児玉主査が一番アピールしたいとおっしゃった静粛性向上。確かに乗り込んでドアを閉めると、気密性の高い部屋に入ったように一気に外界の音が遠のく。エンジンをかけても移動のために数十メートル走らせても静かだった。“ディーゼルにしては”というわけではなく静かだった。マツダによれば、走行騒音は先代の20km/h低い車速のレベルを実現している。
このほか、商品性向上につながる重要な改善がふたつあった。ひとつはアクティブ・ドライビング・ディスプレイがプラスチックのモニターに投影するタイプからフロントウィンドウに投影するタイプになったこと。ウィンドウガラスに投影するほうがコストがかかるためにこれまでは導入できなかったのだろうが、価格の安いデミオならともかく、CX-5の場合、販売競争する相手のことを考えても、この機能を設定するなら絶対にウィンドウ投影タイプだと思う。
もうひとつはACC(マツダの言い方では「マツダ・レーダー・クルーズコントロール」)がようやく全車速対応になったこと。従来は30km/h未満になると前車追従がキャンセルとなっていた。ACCの初期にはこういう途中でキャンセルされるモデルも結構あったが、最近では全車速対応が主流。マツダには何度か「なぜ全車速対応にしないんですか?」と尋ねたことがあり、その度に「最後はドライバーが責任をもって停止させるべき……」という答えが返ってきた。
だがモデルチェンジで全車速対応となったということはマツダもそのほうがドライバーにメリットが大きいと認めたということだろう。技術的には、先代はミリ波レーダーのみでセンシングしていたが、新型はカメラからの情報も併用するようになり、より前車を検知する精度が上がったため、可能になったということだろう。もちろん、停止まで対応するからといって過信はダメだが、正しく使えばこんなに便利な装備はない。
いろいろなモデルで採用済みの新技術を投入し、プラットフォームとパワートレインは大幅に手を入れて改善したという新型CX-5。きっと試乗してもいいに違いない。
(文=塩見 智/写真=高橋信宏/編集=竹下元太郎)
