ベントレー・フライングスパーV8 S(4WD/8AT)
真のドライバーズサルーンをお望みなら 2017.01.16 試乗記 「ベントレー・フライングスパーV8」の高性能仕様「V8 S」に試乗。21psと20Nmのエクストラを得た「S」モデルで印象的だったのはバランスの良さ。端正さとスポーティーさがジェントルに釣り合った、きめ細かなドライバーズカーだった。オーナードライバーのために
2016年3月のジュネーブでお目見えしたベントレーの最量販モデル、フライングスパーV8の高性能版である。フラッグシップの「W12」とV8の間をつなぐ、という位置付けで登場したこれは4リッターV8ツインターボが最高出力507psから528psに、最大トルクが660Nmから680Nmに強化されている。
でもって、2017年モデルのお値段は12気筒が2435万円であるのに対して、V8は1945万円、V8 Sは2100万円とお値打ちになっている。V8より155万円高くて、12気筒とは335万円の距離がある。つまり、V8を買う人に、プラス155万円で、21psと20Nm、それに0-100km/h加速が0.3秒速くなって、内外装がこんなにスポーティーになりますよ、とオススメするモデルなのだ。
飲食業界では、客単価を上げるために松竹梅とグレードを3つ設ける。3つあると真ん中の竹が売れるそうなのだ。で、フライングスパーV8 Sの場合は、ショーファーに運転を任せるのではなくて、自分でステアリングを握る、よりエンスージアスティックな、ベントレー本来のオーナードライバーのための4ドアサルーンなのである、ということになるだろう。
外観はマトリックスグリルと呼ばれる例の餅焼き網グリルがグロスブラック仕上げになってすごみを増し、グリルの下のバンパーがF1のフロントウイングみたいなデザインになる。V8では19インチが標準なのに対して、V8 Sは20インチのホイールに格上げされる。ただし、テスト車はオプションの21インチを履いていて、足元がいっそうキリリとしている。
タイヤは275/35ZR21のピレリP ZEROだ。これって「フェラーリF40」で登場したブランドである。SUVみたいに径がでかくて、スーパーカーのように超偏平。ホイールの形状のせいか、マテルのホットロッドみたい、と筆者は思った。
視線を後ろにズラしていくと、エッジの立ったリアフェンダーの盛り上がりで目が止まる。1950~60年代のフライングスパーを思い起こさせる。現行モデルのデザイン上のハイライトである。
バランスの良さが印象的
インテリアに目を転じると、ダッシュボードのパネルにエンジントーンが使われている。金属のそれはピカピカに輝いていて、見つめていると催眠術をかけられそうだ。シートはブラック&ホワイトの2トーンというおシャレさで、座面と背面に“ダイヤモンドキルトパターン”が施されている。ド派手だけれど、『ティファニーで朝食を』のオードリー・ヘプバーンみたいにシックでもある。ステアリングホイールも外周はブラックで、内側は純白である。真っ白い手袋と洗濯した洋服がいる。
センターコンソールの小さな黒いエンジン・スタート・ボタンを押すと、4リッターのV8ツインターボは淡々と目覚める。これは祝祭日にお祭り騒ぎをするためのクルマではない。V8 Sで印象的なのはバランスである。最高出力528ps/6000rpm、最大トルク69.3kgm/1700rpmというモンスターパワー&トルクの持ち主だけれど、端正さとスポーティーさがジェントルに釣り合っている。肌触りがきめ細かくて、トンがったところがない。
記憶の中の「コンチネンタルGTスピード」と知らず知らずに比較しているからか、乗り心地は実にしっとりとしている。2+2の「コンチネンタルGT」よりもホイールベースが32cm長い。その分、加減速時のピッチングが乗り心地を硬くせずとも抑えられていて、よりフラットで快適なのだ。
電子制御のエアサスの設定は、コンフォートからスポーティーまで4段階あるけれど、その変化の幅はそう大きくない。最スポーティーを選んでも、乗り心地はあまり硬くならないし、最コンフォートにしてもフワフワにはならない。常に適度なしなやかさを維持しつつ、微妙に変化する。パワーの向上に伴って、レスポンス重視でサスペンションをチューニングし直しているというけれど、そのチューニングのワザこそがV8 Sの見どころだろう。
緩急自在のフットワーク
2530kgというヘビー級ボディーを箱根の山道で走らせてみても、実に安定している。前後重量配分は55:45とフロントヘビーではあるけれど、いかにも軽快だ。パワーステアリングの味付けやら、前40:後ろ60でトルクを配分するフルタイム4WDシステムやら、ぶ厚いトルクやらのおかげで、ドライバーはエフォートレス(努力いらず)に全長5mを超える大型サルーンをふた回りも小さなクルマであるがごとくに操ることができる。
100km/h巡航は8段オートマチックの恩恵もあって1500rpm程度でユルユルと回っている。その際、V8の半分は眠って燃費を稼ぐ。いつシリンダー休止が始まり、いつ終わるのかは感知できない。
V8ツインターボは4000rpm以上に到達すると、W12にも似たサウンドを控えめに発する。最高速306km/hを豪語する。その意味ではスーパーカーゆえ、フルスロットルはつかの間である。ストレートがあっという間に終わってしまうからだ。70年代のフェラーリ、ランボルギーニとは異なり、21世紀のベントレーはおそらくホントに300km/h出る。と想像させるほど速くて安定している。公道にライバルはいない。
日々付き合うなら
ものすごく正直にいうと、V8 Sは「アウディA8」に似ている。そして、筆者があらためて思うのは、ベントレー独自の6リッターW12ツインターボの神々しさである。驚異的にスムーズではあるけれど、時に荒々しいビートが顔を出す。荒ぶる神。あるいは、本物の貴族。現代の神話。W12に比べるとV8はブレッド&バターで、V8 Sはそれにイチゴジャムが付いている程度と考えていただいてよい。
W12と比べたら、である。クルマの種類が違う、と申し上げたいのだ。毎日がお祭り騒ぎであることを好まない方もたくさんいらっしゃる。スターターボタンを押すたびに、バフォンッ! という内燃機関の爆発を体感しているのではくたびれる。8気筒を選ぶのは、ベントレーを日常の足に使う方の至極まっとうなご判断なのだ。モダンベントレーは12気筒に限る。なんてことを筆者が言いたがるのは、ドンと行くならドンと行ってほしいという物事の単純化でありまして、リアルなベントレーライフとは無縁の世界に住んでいるからである。スビマセン。
(文=今尾直樹/写真=小河原認/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
ベントレー・フライングスパーV8 S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5299×1976×1488mm
ホイールベース:3066mm
車重:2417kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:528ps(388kW)/6000rpm
最大トルク:69.3kgm(680Nm)/1700rpm
タイヤ:(前)275/35ZR21 103Y/(後)275/35ZR21 103Y(ピレリP ZERO)
燃費:10.9リッター/100km(約9.2km/リッター、EU複合モード)
価格:2100万円/テスト車=2294万円
オプション装備:オプショナルペイント(75万9700円)/インテリアスタイルスペシフィケーションとコントラストステッチ(31万5600円)/3本スポーク デュオトーンスポーツステアリングホイール(6万0500円)/21インチ マリナードライビングスペック ブラックホイール(44万6800円)/ブライトティント フェイシアアルミパネル(35万7400円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1599km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:260.0km
使用燃料:43.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.0km/リッター(満タン法)/6.3km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
クルマの乗り味の“味”って何だ?
2026.1.20あの多田哲哉のクルマQ&A「乗り味」という言葉があるように、クルマの運転感覚は“味”で表現されることがある。では、車両開発者はその味をどう解釈して、どんなプロセスで理想を実現しているのか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
プジョー208 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.1.20試乗記「プジョー208」にマイルドハイブリッド車の「GTハイブリッド」が登場。仕組みとしては先に上陸を果たしたステランティス グループの各車と同じだが、小さなボディーに合わせてパワーが絞られているのが興味深いところだ。果たしてその乗り味は? -
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。














































