ロールス・ロイス・レイス ブラックバッジ(FR/8AT)
若き成功者たちへ 2017.02.08 試乗記 黒を基調としたドレスアップが施されたスペシャルな「ロールス・ロイス・レイス」、その名も「ブラックバッジ」に米国ラスベガスで試乗した。今風の黒いモードに身を包んだだけのモデルかと思えばさにあらず、エンジンとシャシーが磨き込まれ、ドライバーズカーとしての実力も一段と高まっていた。ダーク&クールにドレスアップ
ロールス・ロイスの開発陣が、開発にあたってインスパイアされたのは、若いユーザーたちが乗るモディファイされた「ファントム」や「ゴースト」、レイスの姿だと話した時には、思わずのけ反ってしまった。まるで自転車用のような大径のホイールを履き、車高を落とし、あるいはマットブラックで全身をラッピングした彼らのクルマを眺めて、グッドウッドの人たちは「若いユーザーのために自分たちには何ができるか」をあらためて考えたのだという。そうして、まさに30~40代あたりの若き成功者たちをターゲットに生み出されたのがレイス、そしてゴーストのブラックバッジだ。
これまた彼らの、従来のブランドイメージとはかけ離れた印象の強いラスベガスにて対面したレイス ブラックバッジは、しかしながら全身黒ずくめというわけではなかった。専用ボディーカラーとして「ブラックバッジ ブラック」は設定されるが、内外装色はビスポークが基本。では、どこが異なるのかといえば、まずは車名の通りのバッジである。ダブルRバッジは通常とは逆のブラック地にシルバー文字に。そして、ノーズ先端のフライングレディーも、ハイグロスブラック仕上げとされている。
それに合わせてフロントグリルの枠部分、左右のエアインテーク内のインサート、トランクリッドのハンドル、そしてエキゾーストパイプなどのクローム部分は、ダーク調とされてトーンを調整。一方で、サイドウィンドウのフレームや特徴的な後ヒンジドアのノブ、そしてテールランプの輪郭などのクロームはそのままとされている。これらは、それこそブラックのボディー色だろうと、すぐにレイスと認識させるグラフィック上のポイントだからだ。
足元にはお約束の大径ホイール。21インチとされたそれは、市販車初だというCFRP(カーボンファイバー強化樹脂)とアルミニウム合金を組み合わせたもので、ブラックの部分をよく見るとカーボンの織り目が確認できる。リムを打ち付けたりしないよう慎重に扱わないと……と、若干緊張してしまう。
アクセルレスポンスをひと磨き
インテリアも、やはりエアアウトレットなどのクローム部分がダーク調仕上げとされ、広い面積を覆うトリムには、ステルス機の機体に使われるというアルミニウム合金製糸を織り込んだCFRPが用いられるなど、精悍(せいかん)なイメージで仕立てられている。クオリティーは当然、文句なしの極上。専用の時計、そしてジーンズではとても座る気になれない滑らかなシート地には、無限の可能性を示すものとして「∞」のマークが入れられている。グッドウッド流の遊び心だ。
専用の設(しつら)えは、こうした内外装だけでなく走りの部分にまで及ぶ。市井のチューナーや個人のオーナーには決してできない、メーカーならではの仕事である。
まずV型12気筒6.6リッターツインターボエンジンは、最高出力632psはそのままながら、最大トルクを70Nmプラスの870Nm(88.7kgm)に引き上げている。すでにパワーは十分。アクセル操作に対するレスポンスにさらに磨きをかけるのが狙いだ。同じ理由で、8段ATはリファインされ、ドライブシャフトが強化されている。
またソフトウエアの面では“イントューティヴ スロットル レスポンス”が採用された。これはスロットル開度が25%以上になると、シフトアップする回転域を通常より300~500rpm上へ引き上げ、さらに80%以上では、6000rpmまでそのままのギアをキープし続けるというもの。また、70~80%のアクセル開度では変速スピードも短くなり、減速時には速やかにシフトダウンを行う。
その恩恵は明らかで、ほぼ全域でアクセル操作に対するピックアップが小気味よさを増し、一体感が高まっているのを実感できる。軽いショックが、おそらくあえて残された変速感も気分を盛り上げる。ワインディングロードなどでは、アクセルペダルを大きく戻すとシフトアップしてしまうのが気になることもあったが、実際にはそんな勢いで攻める人は、まあ皆無だろう。ちなみにシフトパドルの類いは備わらないし、シフトレバーはコラム式だからシーケンシャルゲートもない。そういう運転をするクルマではないということである。
また、排気系には手は入れられておらず、つまりエキゾーストサウンドはノーマルのレイスと変わらない。野太いサウンドなんていうのも、やはりロールス・ロイスの世界には当てはまらないのだ。
足取りは一段とアップテンポに
四輪エアサスペンション、そしてパワーステアリングの操舵感も引き締められている。またタイヤも、銘柄はそのままながら構造が改められていて、やはりステアリングフィールの改善につなげているという。おかげで操舵した瞬間の手応えの薄さ、ロール量の大きさはだいぶ改善されていて、自信をもってリズム良くターンインしていける。車重を意識させられない、とまでは言わないが、これなら山道に足を踏み入れても退屈と思うことはないだろう。
もちろん絶対的には安定志向ではあるのだが、車重とパワー&トルク、そして後輪駆動というレイアウトを考えれば、唐突な挙動変化が完璧に抑え込まれたフットワークは称賛に値する。ローター径の拡大によってトルクを高めたブレーキのフィーリングも秀逸で、安心して思わず飛ばし過ぎてしまったほどだ。
強いて不満を言うならば、開発陣は大事にしたという“マジックカーペットライド”とうたう乗り心地、やはり相応に引き締まった印象になっているのは否定できない。特に低速域では、コツコツ感が出ることもあったと指摘しておく。
英国流ウイットを解するしゃれ者にこそ
率直に言って、こうした内外装、そして走りの仕立て方には、否定的な見方をする方もきっと少なくはないのだろうとは思う。そもそもロールス・ロイスが、こうしたモデルを設定すること自体、賛否が分かれるに違いない。
しかし一方で、まさにターゲットである若い層からは、こういうのこそを待っていたという強力な支持を取り付けるんじゃないかという気もする。実際、メーカーではレイスの販売の2~3割がブラックバッジになるだろうと読んでいる。
個人的にも、特に走りの面で、直前にノーマルのレイスを試して不満に思っていた部分がずばり解決されていたと感じたから、可処分所得の大小はともかくとして、筆者と同じ40代前後のクルマ好きには、きっと受け入れられるのではないかなと想像しているところである。さらに言えば、このいたずら心、あるいはパンク精神みたいなものが、いかにも英国ブランドの仕事らしいと感じられて、にやりとさせられたのだ。
(文=島下泰久/写真=ロールス・ロイス/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
ロールス・ロイス・レイス ブラックバッジ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5280×1945×1505mm
ホイールベース:3110mm
車重:2430kg
駆動方式:FR
エンジン:6.6リッターV12 DOHC 48バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:632ps(465kW)/5600rpm
最大トルク:88.7kgm(870Nm)/1700-4500rpm
タイヤ:(前)255/40R21/(後)285/35R21
燃費:14.6リッター/100km(約6.8km/リッター、欧州複合モード)
価格:3999万円*/テスト車=--円
オプション装備:--
*=日本市場での車両本体価格(消費税込み)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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