BMW 318iスポーツ(FR/8AT)
3気筒の誘惑 2017.03.17 試乗記 BMWの「3シリーズ セダン」に、「1シリーズ」や「2シリーズ」と同じ1.5リッター直3ターボを搭載した廉価モデルが登場。そこに“駆けぬける歓び”はあるのか? 走りや乗り心地の印象に加えて、燃費のデータを報告する。3シリーズの新たなエントリーモデル
BMWといえば3シリーズ。40代以上には共通の認識だろう。コンパクトでスポーティーなセダンの代表であり、憧れの輸入車の代表だった。ただ、若い人にはSUVのイメージのほうが強いのかもしれない。2000年に発売された「X5」はプレミアムSUVブームを先導した。Xシリーズはその後ラインナップを拡大し、今はBMWの屋台骨を支える存在に成長している。
各メーカーがSUVに雪崩を打っているのだから、売れ筋モデルに注力するのは当然のことだ。クルマづくりの方向性が変わったわけではない。強豪がひしめく中でBMWのSUVが強みを保っているのは、「駆けぬける歓び」というフレーズに象徴される走りのブランドイメージのおかげである。中心にあるのは、今も変わらず3シリーズなのだ。
「318i」は、3シリーズのボトムラインを支えるため、新たに導入されたエントリーモデルである。これまでは2リッター直4ターボエンジンを搭載する「320i」がその役目を担っていた。318iという名前から1.8リッターだと思ってしまいそうだが、実際には1.5リッターである。しかも3気筒エンジンなのだ。「118i」や「218i」で一足先に採用されていたもので、「MINI」に採用されているエンジンも同タイプだ。
気筒あたりの排気量は500ccが最も効率的であるというのがBMWの主張で、1.5リッターなら3気筒、2リッターは4気筒という理屈でモジュラー化を進めている。いわゆるダウンサイジングターボエンジンだから珍しいものではないが、318iはDセグメントのFRセダンである。横置きエンジンのFFハッチバックならば普通でも、このクラスにも流れが波及したというところに意味がある。ストレート6が金看板だったBMWが気筒数半分のエンジンを採用したのだから、よほどの自信があるのだろう。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
3気筒でも快音が響く
運転席に座った気分は、気筒数に影響を受けない。緻密で誠実な機械と相対しているという感触が伝わってくる。コックピットはドライバーに向けて最適化されており、虚飾やギミックとは無縁だ。ストイックではあるが、事務的ではない。運転という目的に向けてロジカルに組み立てられている。
エンジンをかけても、気筒数をすぐに意識することはなかった。アイドリングで3気筒だということに気づくのは、かなり鋭敏な神経の持ち主だろう。バランサーシャフトによって振動を抑えているのはもちろんのことだ。無段階可変バルブ・コントロール・システム「バルブトロニック」、吸排気のバリアブル・バルブタイミング可変機構「ダブルVANOS」など、BMWの誇る先進テクノロジーが注ぎ込まれたエンジンはよくしつけられたマナーを見せる。
ひとつだけ注文をつけるならば、アイドリングストップからエンジンが再始動する時の振る舞いだ。地震が起きたかと勘違いするような衝撃は高級感を損なう。日本の軽自動車は3気筒でもしっかり振動を抑えることに成功しているのだから、BMWにもできないはずがない。
エンジンの最高出力は136psと控えめな数字だが、22.4kgmの最大トルクは1250rpmという低回転から供給される。市街地走行での実用性は十分で、気筒数や排気量は脳裏に浮かばない。振動や騒音に関しても、気になる部分はなかった。街乗りに支障があるようなクルマを世に出すはずはないわけで、BMWファンにとって気になるのはハイスピードではどうかというところだろう。
アクセルペダルを踏み込むと、期待通りの快音が聞こえてきた。3気筒だからという言い訳は通用しないから、きっちりと排気音を作り込んであるのだ。やはりここでもダウンサイジングのネガティブな面は見られない。ただ、しばらくするとかすかな違和感を覚えるようになった。音と加速力の相関関係がどうもしっくりこないのだ。音だけが先に行ってしまう感じで、望み通りのスピードが得られない。
パンチ力不足はモード切り替えでカバー
対面走行の高速道路で2車線になる区間を利用して追い越しをかけた時には、どうにももどかしい気持ちになった。右車線で加速するものの、再度1車線に戻るまでに前に出るのが不可能だとわかって諦めることが何度かあった。ここ一番のパンチ力ということではさすがに分が悪い。
それでもまだ方法はある。センターコンソールに備えられたドライビング・パフォーマンス・コントロールのスイッチで走行モードを切り替えればいい。「安全性が限定されたダイナミック走行」と警告される「SPORT+」を選ぶのは遠慮して、「SPORT」モードにした。シャシー、ステアリング、エンジンレスポンスの設定が変わり、スポーティーな走行が可能になる。
変化ははっきりとわかった。少々乗り心地が悪くなるのと引き換えに、エンジンの活力は明確に向上した。排気音も勇ましくなったように感じる。最も穏やかな「ECO PRO」だとタイムラグが明らかだったが、モードを変えたらかなり改善された。しかし、排気量が増えるわけではないのだから限界がある。胸のすくようなスピードが得られるわけではない。ハイウェイスターになりたいのであれば、別のモデルを選んだほうがいいだろう。
おとなしく巡航しようと思ってACCのスイッチを探したが見つからない。318iに装備されているのは、アダプティブではないただのクルーズコントロールなのだ。320i以上のモデルはACCが標準装備なのだが、318iにはオプション設定もない。320iの最廉価グレードは532万円で、318iは409万円からとなっているので価格差は123万円である。これだけ差があれば仕方がないと思えてくるが、318iの最廉価グレード「SE」は受注生産なので実質的には446万円の「スタンダード」が最もベーシックなモデルだ。試乗車はその上に位置する467万円の「スポーツ」なので、少しばかり引っかかりを感じる。
ACCはなくても、車線逸脱警告システムや前車接近警告機能、衝突回避・被害軽減ブレーキといった先進安全機能は標準装備されている。必須と考えられる装備を切り詰めたりはしないのは良心的だ。安全に関してはどのグレードでも同じレベルのサービスが提供される。
ワインディングロードでは3気筒がメリットに
ワインディングロードでも、やはりパワー不足は否定できない。変速をクルマに任せていたのでは、どうにもまだるっこしいのだ。モードをSPORTに設定し、マニュアルモードで走ることにした。ステアリングホイールの裏側を指で探ったが、パドルが見つからない。パドルも320i以上のグレード専用の装備だったのだ。
もちろんシフトセレクターを使えばマニュアルモードを使える。久しぶりに使ってみると、意外にも楽しかった。指先だけで変速するより、左手を使ってシフトする感覚が本物のMTに近い感覚なのでリズミカルに走れる。適切なギアを選んで高回転を保つという古典的なスポーツ走行は気分を高揚させる。山道では3気筒エンジンの軽さがメリットになり、キビキビした走りを満喫することができた。
1980年代にもてはやされたのが318iだった。「六本木のカローラ」と呼び習わされていた頃の話である。名前通りの1.8リッターエンジンで、4気筒SOHCの自然吸気だった。最高出力は当時の表記法でも100psを少し超えたほどだったから、現行の318iのほうがはるかにパワフルである。高性能な6気筒モデルも販売されていたが、簡単に手を出せる価格ではなかった。BMWのエンブレムさえ付いていればいいという考えの人は、迷わず318iを選んだ。
今はBMWをモテツールととらえる人はいないだろう。ユーザーの意識が変わってきたことで、3気筒エンジンの318iも有力な選択肢として受け入れられるようになった。真面目なクルマづくりをするBMWにとっては幸福な時代と言える。排気量と車格を同一視するのは、今ではただの知識不足である。318iがベストだと考えるのは、合理的でクレバーな判断だ。伝統ある名称に恥じない仕上がりのモデルである。
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸/編集=大久保史子)
テスト車のデータ
BMW 318iスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4645×1800×1440mm
ホイールベース:2810mm
車重:1550kg
駆動方式:FR
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:136ps(100kW)/4400rpm
最大トルク:22.4kgm(220Nm)/1250-4300rpm
タイヤ:(前)225/50R17 94W/(後)225/50R17 94W(ブリヂストン・ポテンザS001 RFT)
燃費:17.2km/リッター(JC08モード)
価格:467万円/テスト車=549万6000円
オプション装備:ボディーカラー<メディテラニアン・ブルー>(8万2000円)/ダコタ・レザー<ブラック/ダーク・オイスター・ハイライト>(29万2000円)/BMWコネクテッド・ドライブ・プレミアム(6万1000円)/パーキング・サポート・パッケージ(15万円)/コンフォート・パッケージ(12万円)/ストレージ・パッケージ(2万1000円)/BMWヘッドアップディスプレイ(10万円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2093km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(9)/山岳路(0)
テスト距離:539.9km
使用燃料:44.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.1km/リッター(満タン法)/12.3km/リッター(車載燃費計計測値)
![]() |

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
NEW
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(前編)
2025.10.19思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル」に試乗。小さなボディーにハイパワーエンジンを押し込み、オープンエアドライブも可能というクルマ好きのツボを押さえたぜいたくなモデルだ。箱根の山道での印象を聞いた。 -
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】
2025.10.18試乗記「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。 -
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】
2025.10.17試乗記「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。 -
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する
2025.10.17デイリーコラム改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。 -
アウディQ5 TDIクワトロ150kWアドバンスト(4WD/7AT)【試乗記】
2025.10.16試乗記今やアウディの基幹車種の一台となっているミドルサイズSUV「Q5」が、新型にフルモデルチェンジ。新たな車台と新たなハイブリッドシステムを得た3代目は、過去のモデルからいかなる進化を遂げているのか? 4WDのディーゼルエンジン搭載車で確かめた。 -
第932回:参加者9000人! レトロ自転車イベントが教えてくれるもの
2025.10.16マッキナ あらモーダ!イタリア・シエナで9000人もの愛好家が集うレトロ自転車の走行会「Eroica(エロイカ)」が開催された。未舗装路も走るこの過酷なイベントが、人々を引きつけてやまない理由とは? 最新のモデルにはないレトロな自転車の魅力とは? 大矢アキオがリポートする。