レクサスLC 開発者インタビュー
“静”のイメージを打ち破る 2017.05.05 試乗記 Lexus International製品企画 主幹
落畑 学(おちはた まなぶ)さん
レクサスの「LC」はLuxury Coupeの略称であると同時に、Lexus Challengeという意味を併せ持つという。一台のニューモデルという枠を超えて、これからのレクサスの方向性を指し示すという重要な役割を担うことになる。欧米のプレミアムブランドに立ち向かうための戦略を、開発を担当した落畑 学さんに伺った。
使命は次世代への移行を知らせること
――LCはこれまでレクサスにはなかったジャンルのクルマですね。
僕らはこれまでラグジュアリークーペを持てていなかったんです。そこにモデルを投入するんですが、プレミアムブランドはみんなやっていることなんですね。そこを充実させて、もう一段レクサスを上のレベルに引き上げる必要がありました。今までなかなかレクサスに目を向けていただけなかったお客さまの期待に応えられる商品をつくろうよということになったんですね。高い目標を掲げて、もう少し上の価格帯にあるクルマを見ながら、負けないような商品をつくろうと考えました。
――フラッグシップクーペということで、イメージリーダーの役割もありますね。
このクルマの使命は、レクサスがこのクルマから次のステージに向かいますよ、次世代に移行しますよということを広い層の方に知っていただくことです。ある程度の数が世の中に出回らないといけません。技術陣としてはやりたいことをすべて盛り込みたいんですが、価格が高くなってしまうとめったに見ないクルマになってしまいます。採算度外視というわけにはいきません。
――月間販売目標が50台のところ、1800台もの注文があったそうですね。単純に計算すると、今注文しても3年待ちということになりますが……。
50台というのは、あくまでもモデル通期での平均ということです。生産体制は整っているので、半年ぐらいでお届けしたいと思っています。こういうクルマは最初にバーンと注文がきて、その後どうやって販売台数を保ち続けるかが課題。期待に応えるためには、レベルアップしていかなければならないですね。
LFAの技術をフィードバック
期待に応える、レベルアップするということは、モデルバリエーションも広がるのだろうか。「LFA」のV10エンジンを搭載する予定はないんですか? と問いかけると、落畑さんは口ごもってしまった。
えーっと……。あの。
――「SC」はオープンでしたし、このクルマもすぐに屋根を開けられそうな形ですね!
いや、私は何も申し上げていません。パワーユニットについても、何も申し上げることはありません……。
立場上、言えることが限られているのはわかっている。オープンモデルやPHV仕様などの可能性はありそうな感触だったが、もちろん確実な言葉は聞けなかった。意地悪な質問はこれくらいにして、パワーユニットについて聞いてみた。
アメリカではハイブリッドはエコ一辺倒だという思考回路があるのは確かですね。ただ、実際に試乗してもらうと、こんなに面白いクルマもできるんだ、というマインドチェンジがありました。とはいえ、やはりV8エンジンに対しては特別な思いがあるようです。
――ガソリンエンジンモデルは、かなり豪快なV8サウンドが響きますね。
LFAを除けば、今までレクサスは“静”のイメージが強いブランドだったのだと思います。今回は特徴的なサウンドを出すことも商品性として重要だろうということで、どんどん出していこうよと。
――LFAではエンジンサウンドをつくり込んでいましたが、技術は継承されているんですか?
もちろん、LFAで培ってきた技術は確実にフィードバックされています。ある周波数帯域を際立たせることで気持ちいい和音を作れるというのは、LFAから引き継いだ考え方ですね。あえてバルクヘッドに穴を開け、ドライバーに快音を聞かせる手法も使いました。前から吸気音、後ろから排気音が聞こえて立体的なサウンドになるように工夫しました。
発進加速のハイブリッド、マックスパワーのV8
ガソリンエンジン車の10段ATの開発を担当した宮崎光史さんに伺うと、段数を増やしたのは変速のリズムを良くして滑らかな走りを実現するためだということだった。ハイブリッドシステム担当の加藤春哉さんは、無段変速機は自由度が高いので、効率を追求しすぎると人間の感性に合わなくなるからあえて段を付けたと話す。矛盾するように聞こえてしまうが、2つのパワーユニットを用意したことにはどんな理由があるのだろうか。
ハイブリッドモデルは、レクサスの強みですからどうしても必要です。一方で自然吸気V8エンジンのナチュラルな力強さも大きな魅力ですから外せません。だから、両モデルには上下関係を付けずに好みで選んでいただくようにしました。
――落畑さん個人としては、どちらを購入したいですか?
……両方買います(笑)。いや、本当にそれぞれの良さがあるんです。ハイブリッドで「Sport S+」のモードを選ぶと、電気ターボ的な味付けが楽しめます。マルチステージハイブリッドシステムは低回転域のトルクが豊かなので、ドリフト走行もできると言っています。エコだけでなく、エンジンをより積極的に使える走って楽しいハイブリッドなんです。
――サーキットではどちらが速いんですか?
試してはいませんが、サーキットではマックスパワーが効いてきますからV8のほうが速いでしょうね。発進加速はモーターのトルクを生かしてハイブリッドが有利なんですが、途中でV8が追い越すことになります。でも、差はわずかなんですよ。
――今のところ、V8とハイブリッドのどちらが売れているんですか?
1800台のうち、V8が1000台、ハイブリッドが800台といったところですね。もう少しハイブリッドが伸びると思ったんですが、ハイブリッドを選ぶお客さまは左脳タイプなんじゃないかと思うんです。右脳タイプは直感的にV8を選び、左脳タイプはしばらく考えてハイブリッドに決めるのではないかと期待しています(笑)。
LF-LCという明確なゴール
――新しくGA-Lプラットフォームを開発したというのは、思い切った決断ですね。
2012年に発表した「LF-LC」というゴールが明確にありましたので、考え方はシンプルでした。コンセプトカーですから、そのままの形で商品にすることはできません。全幅は2mを超えていましたし、全高は実車の1345mmよりもさらに低かったので居住性が悪すぎます。それでも、あのモチーフは必ず実現しなければならないという思いがありました。技術的に検討した結果、既存のプラットフォームを使ったのでは非常に残念なものになることがわかりました。
――試作したんですか?
要件を盛り込んだモデルをスチロールで作りました。もっこりして、まるで違うクルマになってしまいましたね。ボンネットは高くなるし、サスペンションを収める場所もありません。理想的なシルエットを成立させるには、プラットフォームからやるしかなかったんです。
――開発費用が莫大(ばくだい)なものになりそうですが……。
もちろん、LC単体ではできません。専用だとコスト的に無理がありますが、「LS」も含めたFRファミリーの次世代プラットフォームと考えれば成立します。
――デザインの面でも、新しい方向性を示す役割がありますね。
スピンドルグリルからフードに広がっていく流れがあり、さらにフードから室内にも回り込んでいます。グリルを起点にしてうまくインテグレートされているのかなあと思いますね。
――LCによってレクサスの未来像を示すことができましたか?
これまでにないエモーショナルなイメージをつくり出すことはできたと思います。続くモデルも同じ方向に向かっていくと期待していただいてかまいませんよ。
(インタビューとまとめ=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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