第410回:ランボルギーニ開発のキーマン
“最速の猛牛”「ウラカン ペルフォルマンテ」を語る
2017.05.11
エディターから一言
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ドイツ・ニュルブルクリンクサーキットのノルドシュライフェ(北コース)、車両開発の聖地としても名高いこのコースで現在、量産車の最速ラップタイムを保持しているのが、今夏にもデリバリーが始まる「ランボルギーニ・ウラカン ペルフォルマンテ」だ。“最速の猛牛”の強さの秘密はどこにあるのか、ランボルギーニの研究・開発部門担当取締役であるマウリツィオ・レッジャーニ氏に聞いた。
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決め手は新たなエアロパーツ
――まず、ウラカン ペルフォルマンテを開発するに至った経緯を教えてください。
マウリツィオ・レッジャーニ氏(以下、レッジャーニ):われわれ開発陣には、既存のモデルを上回るハイパフォーマンスカーを作るというミッションがあります。そこで、スーパースポーツカーの性能を測る基準は何にすべきなのか、セールスやコマーシャルを担当するスタッフとともに検討したのです。そしてそれは「ノルドシュライフェのラップタイム」に定まりました。
同コースでのタイムアタックは、2015年に「アヴェンタドールSV」で実施された。タイムは6分59秒73。この記録はその後、「ポルシェ918スパイダー」(6分57秒)に塗り替えられるが、2016年10月5日には、ウラカン ペルフォルマンテが6分52秒01をマーク。ランボルギーニが王座奪還に成功した。
「ノルドシュライフェを攻略するためには、従来の対策では不十分でした」と、レッジャーニ氏は当時を振り返る。
レッジャーニ:特に、エアロダイナミクスの改善はマストでした。今回のペルフォルマンテでは、可能な限りアグレッシブに、空力性能の開発に取り組むことになりました。
その結果生まれたのが、「エアロダイナミカ・ランボルギーニ・アッティーヴァ(ALA)」と名付けられたアクティブエアロダイナミクスシステムである。ALAは、内部に電子制御式フラップを持つ「フロントアクティブスポイラー」と「リアアクティブウイング」で構成されており、それぞれのフラップを開閉することで、車体周辺の空気の流れを変化させる。例えば、フルブレーキング時にはフラップを閉じて高ダウンフォースを発生させ、加速時にはドラッグ(空気抵抗)を減らしトップスピードを上げるエアフローを実現。常に走行状態に合った緻密な電子制御を行い、走りのパフォーマンスを最大化するのだ。
今までになかった“曲がり方”
――エアロパーツ内で空気の流路を切り替えて、空力的な負荷を変化させるというのは、量産車では新しい試みですね。
レッジャーニ:初めての例でしょう。特許も取得しています。特にリアのアクティブウイングは、エアダクトが車体の右側と左側とに独立して設けられているのがポイントで、コーナリング時、イン側だけダウンフォースを増大させる一方でアウト側はドラッグを減らし、旋回性能を高めることができます。この「エアロベクタリング」を使うと、より速くコーナーを駆け抜けられるのはもちろん、より少ないステアリング操作で曲がれるようになるため、ドライバーの負荷が減少するというメリットが得られるのです。
――旋回性能を高めるメカニズムとしては、トルクベクタリングを採用している車種も多く見受けられますが?
レッジャーニ:(コーナリング中にイン側のホイールを制動することで旋回性を高める)トルクベクタリングは物理的にエネルギーを消耗するものですが、エアロベクタリングはそうしたロスがありません。空力的な変化だけでコーナリング性能を高める極めてユニークな技術であり、ニュルブルクリンクのような(全長が20kmもあり、さまざまなコーナーが存在する)コースにアプローチする手段としては、実にクレバーなメカニズムなのです。
――空力に関する知識がないと、よく理解できないメカニズム……というのは、ひとつの欠点ですよね?(笑)
レッジャーニ:(苦笑いして)でも、乗れば誰でも体で理解できますよ。ダウンフォースについて言うなら、標準的なウラカンの7倍以上。信じがたいほどの安定感をもたらします。そしてそのまま、超速で駆け抜けられる。
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「パワー」と「軽さ」も後押し
――ランボルギーニには、フラッグシップモデルとして「アヴェンタドール」もラインナップされています。(弟分の)ウラカンがアヴェンタドールよりも速いというのは、問題にはなりませんか?
レッジャーニ:そんなことはありません。ウラカン ペルフォルマンテは、アヴェンタドールよりも後発のマシンですからね。
エンジニアリングに携わる者がチャレンジを続けるのは当然で、技術開発は日進月歩というレッジャーニ氏。今回はそのかいあって、空力性能において、大幅な飛躍が見られたというわけだ。
レッジャーニ:もちろん、それだけではありません。ペルフォルマンテの最高出力は、標準モデルの「ウラカン」(610ps)比で30ps増しの640ps。このアドバンテージは、軽量なチタンバルブを初めて採用することで実現したものです。最大発生値の約7割に相当するトルクをわずか1000rpmで引き出せるのも特長。極めてレスポンシブに仕上がっています。車重も、カーボンパーツと新設計のエキゾーストシステムを採用したことでノーマルよりも40kg軽くなっている。そして、先に述べた強力なダウンフォース。どんな走りができるのか、想像できるでしょう。
ノルドシュライフェのタイムアタックに関して言えば、4WDであることも重要なポイントです。2輪駆動では強大なパワーを路面に十分伝えきることができず、結果的にタイムへの望みは薄くなってしまう。その点ペルフォルマンテは、エンジン、4WDシステム、サスペンション、エアロダイナミクスの“パーフェクトミックス”といえると思います。
誰でも楽しめるスーパースポーツ
――そんなペルフォルマンテには、オープンモデルの「スパイダー」は用意されるでしょうか? 先代の「ガヤルド」では、高性能モデル「スーパーレジェーラ」にもオープンバージョンがラインナップされていましたね?
レッジャーニ:作ることは可能ですよ。ただ、スパイダーになってしまうと、あまりコンペティティブではないですね。車重も重くなってしまうだろうし……(笑)。
――スタンダードのウラカン(クーペ)は、どれくらいのタイムでノルドシュライフェを周回できるのですか?
レッジャーニ:ランボルギーニは基本的に、スタンダードカーのタイムアタックはしません。私個人の印象としては……おそらく7分20秒を切るくらいでラップできるのではないかと想像しますが。
その後、「過去、実際にアタックしたドライバーがいて、結果は7分28秒だった」という指摘を受けて、レッジャーニ氏は苦笑い。しかし、いずれにしても、ペルフォルマンテの性能がノーマルのウラカンを大きく凌駕していることに変わりはない。
――レッジャーニ氏自身は、そんなペルフォルマンテをドライブして、どんな印象をいだいているのだろうか……?
レッジャーニ:ノーマルよりも、はるかに安定していてイージーですね。加速やコーナリングスピードの高さは信じられないほど。それでいて、クルマが信頼できる。もっと速く走れるという自信が持てるのです。しかも、運転していて、とても楽しい!
――ハイレベルな運転技術を持つドライバーなら、ですか?
レッジャーニ:ノー。そんなことはありません。ペルフォルマンテの走りが格別であることは、どんなドライバーでも認識できるはずです。ノーマルのウラカンとは異次元のパフォーマンスを、誰でも難なく引き出すことができる。ウラカン ペルフォルマンテは、あらゆるドライバーに楽しんでもらえるスーパースポーツなんです。
(文=webCG 関 顕也/写真=webCG、ランボルギーニ)

関 顕也
webCG編集。1973年生まれ。2005年の東京モーターショー開催のときにwebCG編集部入り。車歴は「ホンダ・ビート」「ランチア・デルタHFインテグラーレ」「トライアンフ・ボンネビル」などで、子どもができてからは理想のファミリーカーを求めて迷走中。
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