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アバルト595(FF/5AT)

カルロの魂 2017.05.19 試乗記 鈴木 真人 FCAが擁する高性能スポーツブランド「アバルト」のラインナップにおいて、最もベーシックなモデルとなるのが「595」である。刺激的な走りと門戸の広さを併せ持つAT仕様に試乗し、“さそり印”のスポーツカーに受け継がれる伝統に思いをはせた。

車名変更でフィアットと差別化

車名に「アバルト」が入っていれば、「フィアット」の高性能版だろうなと想像がつく。イタリア車について多少の知識があれば当然のことだが、世間一般の常識ではない。4月に東京の代々木公園で行われた「アースデイ東京」でアバルトがサポートするNPO法人の取材をした時、話を聞く前にブランドの歴史を説明するハメになった。担当者の女性から「支援していただいているのはありがたいんですが、アバルトって何なのかよくわからないんです……」と言われたからである。

これまで「アバルト500」と呼ばれていたモデルを「アバルト595」に改名したのは、差別化を明確にするためだろう。知らない人にとっては、「フィアット500」と同じような形をしたクルマが別の名前で呼ばれていることは不可解かもしれない。以前から上級グレードには595の名が与えられていたが、ベーシックなモデルも595を名乗ることになった。この数字は、1957年デビューの2代目500をチューンしたかつてのモデルに由来している。479ccだったノーマルから拡大された排気量の数字なのだ。

現代の595に搭載されるエンジンは、もちろん595ccではない。直列4気筒1.4リッターターボエンジンで、145psの最高出力を得ている。改名と同時にマイナーチェンジが行われ、従来のMT版135ps、AT版140psからパワーが向上した。上級版の「ツーリズモ」165ps、「コンペティツィオーネ」180psには見劣りするが、リッター100psを超えるハイチューンである。

内外装にも小変更が施された。前後バンパーの形状が変更され、フロントライトがLEDになった。リアコンビネーションランプの変化が最もわかりやすい。ドーナツ状になり、真ん中はボディーの地肌がむき出しになる。インテリアでは、開放型だったトレイに代えてフタ付きのグローブボックスが採用された。

「アバルト595」のフロントマスク。よりワイド感を強調した意匠のバンパーが、従来モデルとの大きな違いだ。
「アバルト595」のフロントマスク。よりワイド感を強調した意匠のバンパーが、従来モデルとの大きな違いだ。拡大
インテリアでは、グローブボックスやドリンクホルダーが新たに追加されたほか、ステアリングホイールの意匠が変更された。
インテリアでは、グローブボックスやドリンクホルダーが新たに追加されたほか、ステアリングホイールの意匠が変更された。拡大
リアフェンダーパネルに装着された「595」のバッジ。2017年2月の改良に伴い、車名もそれまでの「アバルト500」から「アバルト595」に変更となった。
リアフェンダーパネルに装着された「595」のバッジ。2017年2月の改良に伴い、車名もそれまでの「アバルト500」から「アバルト595」に変更となった。拡大
「アバルト595」には5段MT仕様と5段セミAT仕様が用意されている。今回は後者に試乗した。
「アバルト595」には5段MT仕様と5段セミAT仕様が用意されている。今回は後者に試乗した。拡大
アバルト 595 の中古車

どの角度からもサソリが見える

アバルトの象徴であるサソリの紋章はボディーの前後と側面にあるから、どの角度からでも目に入る。ホイールの中心にもサソリがいた。ボンネットを開けると、真っ赤なエンジンカバーにサソリが鎮座している。乗り込む時はフロアマットの上にあるサソリを踏まないように気をつけなければならない。ステアリングホイールの真ん中にもサソリがいて、運転中も自分がアバルトに乗っていることを意識する。クルマから降りても、キーに小さなサソリがいるから逃れることはできない。

フィアット500とは100万円ほどの価格差がある。エンジンパワー以外にもアバルトであることを明確に意識させるサービスがあって当然だ。ただ、リアには500のエンブレムも残されている。ダッシュボードの左側にも500があった。ポップな500のアイコンは秀逸なデザインなので、捨て去るのは惜しいのだろう。

よりスポーティーなデザインになったというヘッドレスト一体型シートは、ホールド性が高い。最適なポジションを見つけるのに手間取ったが、うまく収まってしまえば運転に集中できる。前後左右の揺れをものともせずに姿勢を保つことを、快適性よりも重視しているようだ。このクルマの性格を考えれば、正しい態度である。

想像のとおり、乗り心地は良好とはいえない。ホイールベースが短いこともあって、前後と上下にピョコピョコと動く。トランスミッションはシングルクラッチのシーケンシャル式なので、ATモードで走っていると意図せぬタイミングでシフトアップしてピョコピョコを助長することがある。ただ、チューンドエンジンのおかげでネガティブな面は目立たない。フィアット500では低速コーナーでギクシャクした走りになりがちだったが、豊かなトルクがマイナスを最小限に抑え込むのだ。

ボディーカラーにはグレー系の「Grigio Campovolo」、レッド系の「Rosso Abarth」、ホワイト系の「Bianco Gara」の3色が用意される。
ボディーカラーにはグレー系の「Grigio Campovolo」、レッド系の「Rosso Abarth」、ホワイト系の「Bianco Gara」の3色が用意される。拡大
テールゲートを飾る、アバルトのエンブレムと「500」のロゴ。ダッシュボードの助手席側にも、500のロゴが残されている。
テールゲートを飾る、アバルトのエンブレムと「500」のロゴ。ダッシュボードの助手席側にも、500のロゴが残されている。拡大
スポーティーなヘッドレスト一体型のフロントシート。表皮はファブリックで、ヘッドレストには「ABARTH」のロゴが刺しゅうされる。
スポーティーなヘッドレスト一体型のフロントシート。表皮はファブリックで、ヘッドレストには「ABARTH」のロゴが刺しゅうされる。拡大
タイヤサイズは195/45R16。銘柄は「コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5」だった。
タイヤサイズは195/45R16。銘柄は「コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5」だった。拡大

「SPORT」ボタンでトルク向上

慣れれば高速道路ではストレスなく巡航できる。重厚感は望めないが、コンパクトなサイズを考えれば高速コーナーでの安定感は頼もしい。追い越しでパワー不足を感じたら、「SPORT」ボタンを押す。通常時は180Nmの最大トルクが210Nmに向上するのだ。これはツーリズモの通常時の数値と同じである。はっきりと力強さが増したことが感じられ、余裕を持って追い越しを行うことができる。

ダッシュボードの上にはターボのブースト計が設置されており、中央のSPORTの文字が赤くなるのがモード変更の合図だ。アクセルペダルを踏み込むと針が素早く動き、過給が始まったことを視覚的に表現する。ワインディングロードでメリハリのある走りをすると、針が目まぐるしく左右に行ったり来たりする。このクルマが真価を発揮するステージだ。MTモードを選んで、パドルを駆使しながら高回転を保つことに集中する。ブースト計が0.8を超えるあたりを維持すれば、かなり速く走れるはずだ。

ドライバーにとってはアバルト595は楽しいクルマに違いない。しかし、パッセンジャーは必ずしもこの見解に同意しないだろう。助手席はともかく、後席に座ると座高の高いタイプの人は頭が天井に当たってしまう。悪路を飛ばしているときなどは、首をすくめていなければコブができそうだ。

実はドライバーも我慢しなければならない点がある。足元が狭く、ペダルが左にオフセットされているので左足の置き場に困るのだ。一昔前ならこれもスポーティーなしつらえだと解釈されたかもしれないが、スポーツ走行は正しいドライビングポジションからというのが今どきの通り相場である。

「アバルト595」の最高出力は145ps、最大トルクは210Nm(「SPORT」モード選択時)。0-100km/h加速は7.8秒と公称されている。
「アバルト595」の最高出力は145ps、最大トルクは210Nm(「SPORT」モード選択時)。0-100km/h加速は7.8秒と公称されている。拡大
ダッシュボードに取り付けられたブースト計。「SPORT」モード選択時には、中央の文字が赤に変化する。
ダッシュボードに取り付けられたブースト計。「SPORT」モード選択時には、中央の文字が赤に変化する。拡大
メーターは中央部にインフォメーションディスプレイを備えた単眼式。走行モードに応じて表示が切り替わる。(写真をクリックすると、2種類の表示が見られます)
メーターは中央部にインフォメーションディスプレイを備えた単眼式。走行モードに応じて表示が切り替わる。(写真をクリックすると、2種類の表示が見られます)拡大
燃費性能は5段MT仕様で13.1km/リッター、5段セミAT仕様で12.6km/リッターとなっている(ともにJC08モード)。
燃費性能は5段MT仕様で13.1km/リッター、5段セミAT仕様で12.6km/リッターとなっている(ともにJC08モード)。拡大

レースでの活躍から生まれたブランド

多少の苦労は覚悟してもアバルトを手に入れたいと思うのは、やはりこのブランドに思い入れのある人だろう。正確に言えば、大切なのは創始者であるカルロ・アバルトに対するリスペクトである。

カルロの生まれた時の名は、カールだった。彼はオーストリア・ハンガリー二重帝国の首都ウィーンで生を受けている。イタリア人の父カルロはオーストリアに移住してカール・アントンと名乗り、1908年にオーストリア人女性との間に長男を授かった。幼いころからクルマが好きだったカールは機械工学を学び、二輪レースに出場するようになるとたちまち頭角を現す。

1939年にイタリアに渡って市民権を獲得し、カルロという名前を使うようになった。元ポルシェのルドルフ・フルシュカに招かれてチシタリアでエンジニア兼テストドライバーとして働くが、会社は倒産。工場を居抜きで引き取った彼は、資金援助を得て自らの会社を設立する。フィアットなどのクルマに高度なチューンを施してレースを戦うコンストラクターとなった。彼がサソリ座生まれであることから採用された紋章を付けたモデルがレースで大活躍し、オリジナルモデルも製造するようになる。

1971年にフィアットに買収された後も、アバルトはレース部門として目覚ましい戦績を残している。1990年代後半からは目立った活動がなくなるが、2007年に正式に復活がアナウンスされてからはスポーティーなモデルのブランドとなって再び脚光を浴びるようになった。アバルト595も、カルロの魂を受け継いでいる。輝かしい歴史を知っていれば、所有する喜びは大きくなるはずだ。

(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

今日のアバルトブランドの起源は、1949年にカルロ・アバルトが興したアバルト&C社にさかのぼる。同社はスポーツカーやレーシングカーの設計・製作、チューニングキットの開発などを手がけた。
今日のアバルトブランドの起源は、1949年にカルロ・アバルトが興したアバルト&C社にさかのぼる。同社はスポーツカーやレーシングカーの設計・製作、チューニングキットの開発などを手がけた。拡大
エンジンのヘッドカバーに施されたサソリのマーク。アバルトの象徴であるサソリのマークは、創業者のカルロ・アバルトがサソリ座であったことから採用された。
エンジンのヘッドカバーに施されたサソリのマーク。アバルトの象徴であるサソリのマークは、創業者のカルロ・アバルトがサソリ座であったことから採用された。拡大
クローム仕上げの2本出しマフラー。専用形状のリアバンパーやルーフスポイラーとともに、リアビューにおける「アバルト595」の特徴となっている。
クローム仕上げの2本出しマフラー。専用形状のリアバンパーやルーフスポイラーとともに、リアビューにおける「アバルト595」の特徴となっている。拡大
かつてモータースポーツで名をはせたアバルト。今日の「595」や「124スパイダー」も、ラリー競技やワンメイクレースなどで活躍している。
かつてモータースポーツで名をはせたアバルト。今日の「595」や「124スパイダー」も、ラリー競技やワンメイクレースなどで活躍している。拡大

テスト車のデータ

アバルト595

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3660×1625×1505mm
ホイールベース:2300mm
車重:1110kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:5段AT
最高出力:145ps(107kW)/5500rpm
最大トルク:180Nm(18.4kgm)/2000rpm ※SPORTスイッチ使用時は210Nm(21.4kgm)/3000rpm
タイヤ:(前)195/45R16 84V/(後)195/45R16 84V(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:12.6km/リッター(JC08モード)
価格:309万9600円/テスト車=347万7600円
オプション装備:スペシャルソリッドカラー<Bianco Gara>(5万4000円) ※以下、販売店オプション サイドストライプ(1万6200円)/アバルトオリジナルETC車載器(1万2960円)/パイオニア・カロッツェリアAVIC-CZ900(29万4840円)

テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2014km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(5)/山岳路(1)
テスト距離:371.4km
使用燃料:33.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.1km/リッター(満タン法)/11.8km/リッター(車載燃費計計測値)

アバルト595
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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