ダイハツ・ミラ イースG“SA III”(FF/CVT)/ミラ イースL“SA III”(FF/CVT)
2代目は手堅く 2017.06.12 試乗記 低価格・低燃費という、軽自動車の本質を徹底的に追求した「ダイハツ・ミラ イース」がフルモデルチェンジ。従来モデルやライバル車との比較をまじえつつ、「+αの魅力を追求した」という新型の実力を検証した。その功績は小さくない
一時は絶滅しかけていたハッチバック型の軽自動車(以下、軽)が復活したのは、間違いなく2011年に発売された初代ミラ イース(以下、イース)の功績だろう。
イース発表前夜のダイハツは本気で“軽の危機”と悩んでいた。2009年に景気対策としてエコカー補助金/減税が導入されたことで、新車需要がハイブリッドに集中。それまで右肩上がりでシェアを伸ばしていた軽の需要が完全に失速していたからだ。そこでダイハツは“軽は安くて、燃費がいい”という原点に回帰したイースの開発を決意する。
低燃費には軽量化と空気抵抗減が不可欠だから、イースが背の低いハッチバック形式となったのは当然の理屈である。イースでは同時に、低価格化のためにクルマの骨格構造や開発組織、部品購買体制、販売戦略まで見直した。
車体は軽量であると同時に設計もシンプル化。市場のニーズに押されて膨大にふくれあがっていた仕様数も激減させた。ここでいう“仕様数”とは単純なグレード数だけでなく、グレードごとの細かい部分の作り分けや、オプションの組み合わせ選択肢のリストラも含んだものである。
そんなイースが大成功したのは、みなさんもご承知のとおり。イースに触発されて、宿敵「スズキ・アルト」の開発にもいきなり力が入って、最新のアルトも以前とは別物というくらいに存在感が大きくなった。結果として、ハッチバックは軽の主力ジャンルとして見事に復権したわけだ。
というわけで、今度のイースは“ダイハツの社運が賭かったブランニュー商品”ではなく、“膨大な既納ユーザーを抱える定番商品のモデルチェンジ”である。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
内外装に見る、先代とは一味違うこだわり
“定番のモデルチェンジ”という目で見ると、新型イースはいかにも手堅い。先代から見ると、“なるほど”と合点する部分が多い。
たとえば、良くも悪くもビックリするほど簡素だったインテリアの質感と使い勝手は、飛躍的に向上している。樹脂シボの表現力は最近のダイハツらしい美点で、少なくとも見た目にはしっとりとした潤いすら感じられる。
また、先代では細かな手まわり品の置き場に困ることが多かったが、それは実際のユーザーからもかなりの突き上げがあったらしい。ダッシュボードを横断する“たな”も使いやすそうだし、箱ティッシュと小物収納を両立したセンターコンソールは秀逸。日本人に不可欠なドリンクホルダーも、左右のエアコン吹き出し口前……という特等席に移設された。
先代でも年々メッキが増えていたエクステリアは、新型ではそういう小手先ではない造形としての高級感を目指したっぽい。
今回担当した荒川カメラマンがフロントノーズのバッジ周辺がへこんでいることに、疑念(笑)を呈した。そこで聞いてみると、新型のデザインはエンジンフード長をギリギリまで伸ばした“クルマらしいカタチ”がキモで、このへこみも、バッジの厚み分を削ってでもフード長を確保するためだそうである。いやあ、軽のデザインは本当に1mm、いや0.5mm単位(!)のせめぎ合いなのだ。
せっかくなので、今回の取材でうかがったバッジネタをもうひとつ。
新型イースのフロントバッジも先代とまったく同じ意匠である。これは社章ではなく、あくまで商品エンブレムなので、モデルチェンジごとにデザインを変えるケースも少なくない。しかし、今回はある人の強いこだわりを受けて先代のそれを引き継いだとか。
“ある人”とは先代のチーフエンジニアをつとめた上田 亨氏。上田氏はイース発売以降、ダイハツの開発部門全体を率いる上級執行役員まで出世された。現在は退任されている上田氏だが、新型イースの開発中はまさに氏が開発部門のトップで、エンブレムが継承されたのも、イースに対する思い入れが人一倍強い上田氏の意向が効いたらしい。つまり、初代イースはそれくらい、記念すべきエポックな商品だったということだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
燃費や動力性能より“扱いやすさ”を重視
新型イースの技術的なハイライトは、飛躍的な軽量化と、ダイハツでは今回初登場となるステレオカメラ式運転支援システム“スマートアシストIII(SA III)”だろう。
廉価なグレードの「L」と「B」で650kg(FF車の場合。以下同じ)、上級の「G」や「X」で670kgというイースの車重は、当世きっての軽量自慢であるスズキ・アルトとほぼ同等といっていい。アルトの場合は、“CVT車”という条件なら全車650kgである。
最初に乗ったのは最上級の「G“SA III”」である。イースの宿敵アルトは、その軽さによる躍動的に小気味いい動力性能が特徴だが、イースGのそれは、正直なところ、思ったほど活発ではなかった。もちろん市街地で困るほど遅いわけもないが、“600kg級”の階級からすると、よくいえば重厚、悪くいうと期待していたより、ちょっとかったるい。
その理由のひとつは控えめなエンジン性能(アルト比で-3ps/-6Nm)もあろうが、最近のダイハツが、カタログ燃費やピーク性能より、リアルな実用燃費や柔軟性に重きを置くようになった影響もあるだろう。
事実、加速側はちょっと物足りないが、スロットルオフでジワッと減速してくれる扱いやすさは、アルトよりちょっと上手の気もする。それに、シフトレバーを“S”レンジにすればそれなりに活発になる(同時にエンジン音もそれ相応に盛大になるけど)。
足まわりの調律に物申す
また、アイドルストップの質感というか、マナー向上も明確。イースのそれも完全停止前(11km/h以下)からエンジンを止めるタイプだが、完全停車直前に再加速するようなケースの再始動でも、もはや、グズるようなクセはほとんど解消されている。
これをスズキの“ISG”のようなセミハイブリッドではなく、古典的なスターター構造で実現しているのはたいしたものだ。これもまた、実際のユーザーの突き上げに応じて地道に改良してきた結果だろう。
市街地での乗り心地は基本的に快適。最近のダイハツ軽はグレードを問わずにフロントスタビライザーをケチらない生真面目さが好印象だが、軽量かつ低価格が売りのイースにかぎっては、全車フロントスタビレスである。
そういう事前知識をもって乗ると、イースの身のこなしは、まさにそういう感じ。低速でもステアリングを切った瞬間にフロントからスパッとロールして、対照的にフラットに安定したリアを軸に曲がっていく。全体に安心感のある設定だが、スポーツ的な面白さはない。こういう挙動は街中ではステアリングの接地感にもつながっていて悪くないものの、高速道に乗り入れると、ちょっと動きすぎる感があるのは否めない。
この点、ダイハツの宿敵であるスズキは、いまだに廉価グレードではフロントスタビを省略する割り切りを見せる。いっぽうで、フロントスタビレスでも、しっかりしたロール剛性と乗り心地の両立点を見つける調律は、スズキのほうがちょっとうまい。
……と、ここまでは最上級G(とその下のXも走りは同じ)のイースに乗った印象なのだが、その次に試すことができたLの味わいは、その差はイースに興味のない人にとってはさまつなレベルではあるが、乗り比べると確実にちがっていた。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
アドバンテージは運転支援システムにあり
Lの動力性能は上級グレードのそれよりハッキリと活発だ。20kgという車重差は1t以上のクルマでは誤差の範囲内でしかないが、600kg級のウェイトで、しかもエンジン性能もギリギリ……のイースでは、それが無視できないちがいとして浮き彫りになる。
また、タイヤもGやXの14インチに対して、Lはひとサイズ小さい13インチとなるが、これもまた市街地では明確にメリットがある。低速での細かい凹凸への吸収力が増すのは当然としても、ロールしやすいイースの基本特性とも穏やかな13インチのマッチングはよく、乗り味はより優しく、身のこなしは、おおげさにいうと“優雅”になる。
もっとも、高速では14インチのほうが明らかに安定しているが、いずれにしてもイースは街乗りのアシとして割り切るべきクルマである。だいたい、市場の声を緻密に調査したうえで、新型ではリアワイパーを廃止した……というハナシも、イースの実際の使われかたを象徴している。
だから、まれに高速道に乗るときにはおとなしく走って、あくまで市街地でメリットを重視して13インチ……いうのがイース選びの基本だと、私は断言してみたい。
宿敵アルトに対するイースの明確なアドバンテージは、歩行者や車線検知機能が追加されて、対車両なら80km/h以下から自動ブレーキが作動するなど、大幅に機能アップしたSA IIIだろう。現状でのアルトのそれは30km/h以下の追突にしか効かない。
SA IIIはダイハツ初のステレオカメラ式だが、背の低いイースに使える超コンパクト設計がお見事。スズキの同種システム(デュアルカメラブレーキサポート)は大きすぎてスーパーハイトタイプにしか搭載できず、最新の「ワゴンR」ではまた新しいタイプを使っている。
さらにSA IIIにはコーナーセンサーも同時装着となり、“ちょっとコスッた”みたいな軽微なアクシデントの予防にも効果を発揮するだろう。以前なら“こんなもの死んでも使うか!”と突っ張っていた私も、アラフィフとなった今では、高齢化社会へのリアルな対応として、思わずヒザをたたきたくなる。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
出来は良いが、驚きはない
これ以外にも、シンプルなハイバック型ながらも立派なサイズで座り心地のいい新設計フロントシートなど、(ある部分は大胆にハショリしながらも)必要なところには“なるほど”が多い点こそ、イースの伝統である。
ちなみに、初代イース発売時に“79万5000円!”で話題となった最安の「D」は、新型では「B」という名称に変更となった。そのココロは“本来のビジネスユースに、期待していたほどウケなかった”だからだそうで、よりズバリと分かりやすい名称にしたという。
また、そのBでは装備内容も吟味されていて、“4ドアなのに集中ドアロックなし!”だった従来型Dに対して、新しいBは集中ロック付きのキーレスエントリーが標準装備化されたので安心である。ただ、低価格を維持するために、今度はなんとリアウィンドウが固定式(!)となったが、それも実際の使われ方を吟味した結果だろう。たしかに1~2名乗車でリアウィンドウを開ける機会はそうはない……。
新型イースはなるほど、先代ユーザーがスミズミまでうらやみそうなデキだが、クルマオタクのたわ言をお許しいただけるなら、デザインでも機能でも乗り味でも、なにかもうひとつ、いまだに軽を軽んじる人間をギャフンといわせる驚きがほしかった気もする。
それはそうと、新型イースのカタログ燃費は先代と変わりなく、最良グレードで35.2km/リッター(JC08モード)である。つまり、数値はアルトには届いておらず、ダイハツとスズキの仁義なき燃費競争はひと段落した感もある。それはともかく、特別な電動技術をあえて使わずに、これまでスズキと張り合ってきたダイハツ技術者の方々の口ぶりには“いや、もう限界……”みたい雰囲気もあって、私はシンパシーを禁じえなかった。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
ダイハツ・ミラ イースG“SA III”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1500mm
ホイールベース:2455mm
車重:670kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:49ps(36kW)/6800rpm
最大トルク:57Nm(5.8kgm)/5200rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:34.2km/リッター(JC08モード)
価格:120万9600円/テスト車=139万0673円
オプション装備:純正ナビ装着用アップグレードパック(1万9440円) ※以下、販売店オプション ETC車載器<エントリーモデル>(1万7280円)/カーペットマット<高機能タイプ、グレー>(2万0153円)/ワイドスタンダードメモリーナビ(12万4200円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:825km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
![]() |
ダイハツ・ミラ イースL“SA III”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1500mm
ホイールベース:2455mm
車重:650kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:49ps(36kW)/6800rpm
最大トルク:57Nm(5.8kgm)/5200rpm
タイヤ:(前)155/70R13 75S/(後)155/70R13 75S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:35.2km/リッター(JC08モード)
価格:93万9600円/テスト車=108万9353円
オプション装備:純正ナビ装着用アップグレードパック(1万9440円)/リアヘッドレスト(1万0800円) ※以下、販売店オプション ETC車載器<スタンダードモデル>(1万7820円)/カーペットマット<グレー>(1万5293円)/ワイドエントリーメモリーナビ(8万6400円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:400km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。