第47回:フェラーリは舐めるように乗れ
2017.06.27 カーマニア人間国宝への道フェラーリでスルタン気分
タイミングベルト交換その他納車整備も滞りなく終了し、赤い玉号はめでたく納車となった。
私がコーナーストーンズで納車を受けた回数は、もはや数えきれないほどだが(表現に誇張アリ)、今回は約5年ぶり。久しぶりの納車でした。
「458イタリア」を買う前は、「360モデナ」から「328GTB」(約1カ月)→「328GTS」(約1年)→「F355」(約1年半)→「カウンタック アニバーサリー」(約半年)→「512TR」(約1年半)と、平均1年おきに買い替えておりまして、そのことにカタルシスを感じていました。フェラーリを毎年買い替える(含むランボルギーニ)! まるでスルタンやないけ! と。
値落ちが最小のフェラーリ様(とランボルギーニ様)だからできることなのですが、知らない人が聞けばとんでもない大金持ちっしょ?
私は、平民がこうしてスルタン気分を味わうのは、とってもスバラシイことだと思うのです。だから皆さまもぜひ、ファイト一発でフェラーリを買ってみてください! その瞬間に極楽浄土が広がります。ホントです。
でもホンモノの富裕層は、「スペチアーレ」など限定モデルをゲットすることで、出費が最小限どころか儲(もう)かっちゃってるわけでして、そのことには強い憤りを感じますウフフ~。いやまぁいいんですけどね。私も走行距離を抑えるなどして、平民なりにセコく値落ちを防いでるので……。
フェラーリ破滅教に学ぶ
そういえば、いつかフェラーリを買うぞ! と思っている方の中には、「買ったら通勤で毎日乗ってやる!」とか、「普段もフェラーリ乗り回したる!」と漠然と考えている方が少なくないのですが、それは間違ってます!
毎日フォアグラ食うのはダメ! それじゃうまいもまずいもわかんなくなるし!
かつて、私の大乗フェラーリ教に対抗して、『フェラーリ破滅教』を立ち上げた、大宮さんというグレイトな男がいました。
大宮さんはほぼ毎日、愛車の「F355スパイダー」をオープンで乗り回しました。
オープンのままカバーをかけて月決めの青空駐車場に止め置き、カバーが風で飛ぶ&大雨に降られてカバーがバスタブになるなど、フェラーリ様を徹底的に痛めつけました。それが大宮さんなりの愛のカタチだったのですが、氏のF355スパイダーは激しい勢いで劣化しました。
ボディーはズタボロ、車内はカビだらけ、無用なブリッピングの多用もあってエンジンは7万kmあたりから1~2気筒死亡、「スバル・インプレッサWRX(GC8)」のようなボクサーサウンドを発しました。続いて乗った「360スパイダー」にはじかに自転車を積載し、ボディーを傷つけまくりました。
後先考えず今この瞬間の快楽を最優先するその姿勢は、実に男らしくカッコよかったのですが、大宮さんが乗ったフェラーリはどれもボロ雑巾のようになり、当然下取りもボロ雑巾。氏のフェラーリライフは3台で破滅となりました。
やっぱフェラーリ様は大事にするものなのです! 最大のタブーは酷使! 乗ること! フェラーリ様は乗ると減る! だからチビチビ舐(な)めるように乗れ! 皆さま、それを肝に銘じてください。
シアワセを極大化するコツ
といいつつ私も、過去韓国や竜飛岬へフェラーリで特攻しておりますが、その分はどっかで節約してください。
フェラーリはたまの御馳走(ごちそう)。極言すれば、食べなくてもいい。見るだけでも満足できる宝石です。
加えてその御馳走をよりおいしくいただくために、足グルマは安っぽい方がいい。ふだんはすき屋の牛丼食って、たまに超絶御馳走を味わって涙を流す。それがシアワセを極大化するコツです。
ということで、たまの御馳走・赤い玉号のエンジンに火を入れ、コーナーストーンズから国道246号線に乗り出そうとした私は、その瞬間、激しい衝撃を受けました。
「ハンドル、軽っ!!」
据え切りはフツーに重かったのですが、動き出した瞬間からハンドルがメッチャ軽いのです! この軽さはどんなスカスカ電動パワステよりも上! パワステ付いてないのに!
以前乗った2台の328は、思えばフツーだった。それに比べると赤い玉号は、うーん、3分の1くらいの手応えか? 「ちょっと軽い」とかそういうレベルじゃない。鬼のように軽い! 想像を絶するほど! でもまあハンドルなんかいーや。フェラーリは一にエンジン、二にカッコだから。
赤い玉号は246に出た。アクセルを踏み込むオレ。鳴り響くフェラーリサウンド。
「くおおおおおおおおお~~~~~」
血が逆流するような快感が全身を貫く。嗚呼(ああ)、この瞬間がフェラーリだよね……。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第320回:脳内デートカー 2025.10.6 清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。
-
第319回:かわいい奥さんを泣かせるな 2025.9.22 清水草一の話題の連載。夜の首都高で「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗した。ビシッと安定したその走りは、いかにもな“BMWらしさ”に満ちていた。これはひょっとするとカーマニア憧れの「R32 GT-R」を超えている?
-
第318回:種の多様性 2025.9.8 清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。
-
第317回:「いつかはクラウン」はいつか 2025.8.25 清水草一の話題の連載。1955年に「トヨペット・クラウン」が誕生してから2025年で70周年を迎えた。16代目となる最新モデルはグローバルカーとなり、4タイプが出そろう。そんな日本を代表するモデルをカーマニアはどうみる?
-
第316回:本国より100万円安いんです 2025.8.11 清水草一の話題の連載。夜の首都高にマイルドハイブリッドシステムを搭載した「アルファ・ロメオ・ジュニア」で出撃した。かつて「155」と「147」を所有したカーマニアは、最新のイタリアンコンパクトSUVになにを感じた?
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。