スバルXV 1.6i-L EyeSight(4WD/CVT)
ヒットの予感 2017.06.27 試乗記 デザイン、走破性能、そして安全性能と、全方位的な進化を遂げた「スバルXV」。優れたコストパフォーマンスが自慢の1.6リッターモデルを加えた新型は、ヒットの予感に満ちている。装備充実のグレード「1.6i-L EyeSight」に試乗した。健脚なSUV
2代目となったスバルXVを受け取り、走りだした瞬間、「あっ、これは売れるんだろうな」と感じた。
スバルが満を持して開発した、スバル・グローバル・プラットフォーム(SGP)採用車の第2弾となるスバルXV。これまで「インプレッサ」の派生車種にすぎなかった同車は、webCGの開発者インタビューによると、どうやら今回から「並行開発」へと格上げされたそうだが、その効果は確実に走りへ反映されていた。
何より感心したのは、インプレッサより車高を70mmも高めながら、サスペンションがそのボディーをしっかりと支えていることだった。印象としてはインプレッサのロール剛性を少しだけ増した感じ。爽やかさと軽快感が際立つオリジナルに比べて、同じく良好な乗り心地を保ちながらも、そこに重厚感が加わった感じがした。
取材当日は結構な雨量で撮影には悩ましい状況だったが、60:40を基軸としてスタビリティーをコントロールする4WDは、特別にヨンク感を醸し出すこともなく、しかしながら確かな安定性をもってXVを走らせてくれた。この偉大なるフツーさは、やはり4WDの賜物(たまもの)なのだと思う。
今のスバルはノッテいる
筆者はプロトタイプ試乗会に訪れる機会を逃していたから、直接技術者からその内容を聞いていないのだが、どうやらその足まわりはサブフレームの取り付け部分から見直され、ジオメトリー(サスペンションの軌跡)はXV用に合わせ込んで作られたらしい。要するにこの新型XVは、もはやインプレッサを単に車高アップした“ナンチャッテSUV”ではないということである。
ちなみに先代は、ここを開発陣の“鼻の脂”だけで済ませたからか、そのカッコ良さの割にいまひとつウケが悪かったと記憶している。消費者とは恐ろしいもので、そういう“ごまかし”を何らかの形で感じ取るのだろう。でも、だからこそ今度のXVは、きちんと売れると思う。もっと言えば今のスバルは、ノッテいる。コンパクトSUVブームが本格的になってきた今の時期にプラットフォームを一新し、ここでXVの基礎をしっかり作り直してしまう嗅覚とタイミングの良さには、本当に感心してしまう。
よってこの新型XVで、気になるのはふたつ。まずひとつめは、今回の表題となる1.6リッターエンジンと、そのトランスミッションであるCVTの組み合わせだ。
常用域ではいいのだが……
もっともこの1.6リッターユニットに対して筆者は、なんら悪い印象を持っていない。もともとインプレッサ(とXVということになるだろう)は2リッターを主軸に開発が進められており、最初1.6リッターは廉価版としての完全な脇役だった。しかし2リッターエンジンの完成度が高まったおかげで1.6リッターもブラッシュアップするべき! となり、そこには予想以上に手が入れられた。
クランクシャフト、コンロッド、ピストンといった内部にまで手を付けて軽量化し、ダイナミックバランスを取り直したエンジンはよく回ってくれるし、エンジンブロックなどはねじり剛性まで強化されている。また燃焼室におけるTGV(タンブルジェネレーテッドバルブ)が吸入空気の流れを強化させ、燃焼効率を高めた。だから2リッターのように直噴化されていなくても、実に気持ち良く回るユニットに仕上がっているのである。
ただ同じユニットを搭載するインプレッサより110kg重たくなったボディーに対して、115ps/148Nmの出力はちょっと非力に過ぎるのだ。正確には高回転まで回したときに発せられるCVTの“ミーミー”とうなる独特の機械音がせわしなく、このスカッと気持ち良いエンジンを、あまり回し続けたくなくなってしまう。
進化したリニアトロニックCVTはパーシャルスロットル時の制御もスムーズで、少ないトルクを実にうまく引き出してくれる。だからクルマと対話しながら走らせれば、絶対的なパワーは足りなくとも、常用域では不満を抱くことはなかった。しかし長い上り坂などアクセルを長く踏み込んで加速を得ようとするような場面では、音の割に車速が上がらないCVT感覚が強くなり、非力感が必要以上に強まってしまうのである。
よって筆者の印象としては、XVに関しては2リッターがデフォルトであると感じた。インプレッサベースとはいえ車格がほんのり上がっているXVに対しては、4WDのみというラインナップも含めて2リッターを基準にして、2リッターターボを用意してもよいのではないか? とさえ思う。話はそれほど単純なものではない、ということはわかっているけれど。
電動パワステのフィールに異議あり
もうひとつ気になるのは、電動パワーステアリングの制御だ。SGPによってシャシー剛性が上がり、サスペンションの動きは格段に良くなってはいるのだが、電動パワステの制御が初期操舵時のタイヤから伝わるインフォメーションを、最終的に遮断してしまっている気がする。数値的には先代モデルより直進安定性も向上し、クルマもキビキビとよく曲がることになっているというのだが、だからこそアラが目立ってしまうのだろうか。
比較的クイックな13:1というステアリングのギアレシオに対しても、この制御が若干手応えのなさを増長させている印象を受ける。よってまたこの点でも足まわりを若干固めたであろう2リッターの方が、同じ17インチタイヤを履いていても直進安定性や、ふとした車線変更時のスタビリティーが高いと感じた。
こうして書くとネガティブな面が大きくクローズアップされてしまうように思えるが、筆者が気になったのはこのふたつだけである。そして特に電動パワステの制御などは、あまりに繊細すぎる話で、もしかしたら一般的なドライバーにとっては気にするほどのことではない話かもしれないな、とも思う。
なぜならこの1.6リッター版XVは213万8400円からと、同セグメントのコンパクトSUVとしては爆発的に安いのである。これでFWD(前輪駆動)モデルが登場したらどうなっちゃうのだろう? と心配したけれど、どうやらスバルにはその気はないようで、つまり最新のアイサイト(Ver.3)を搭載したフルタイム4WDという黄金パッケージングをもって、1.6リッターのXVは完結する。価格はすべてではないけれど、これはライバルたちにしてみれば、実に恐ろしい設定だろう。そしてたとえXVの主軸が2リッターになったとしても、そこに1.6リッターの価格設定が後押しすることは、想像に難くない。というわけで、総じて今度のXVは、売れると思った次第である。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸/編集=竹下元太郎)
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テスト車のデータ
スバルXV 1.6i-L EyeSight
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4465×1800×1595mm
ホイールベース:2670mm
車重:1430kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:115ps(85kW)/6200rpm
最大トルク:148Nm(15.1kgm)/3600rpm
タイヤ:(前)225/60R17 99H/(後)225/60R17 99H(ヨコハマ・ブルーアースE70)
燃費:15.8km/リッター(JC08モード)
価格:224万6400円/テスト車=270万5400円
オプション装備:有料色<クリスタルホワイト・パール>(3万2400円)/ブラックレザーセレクション+アドバンスドセイフティパッケージ+ルーフレール+シャークフィンアンテナ(42万6600円)
テスト車の年式:2016年型
テスト車の走行距離:1014km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:263.1km
使用燃料:28.4リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:9.3km/リッター(満タン法)/9.6km/リッター(車載燃費計計測値)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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