第508回:1年で利用者が倍増!
イタリアでカーシェアリングがブレイク中
2017.06.30
マッキナ あらモーダ!
登録ドライバーは1年で倍増
最近イタリアの大きな街で目立つものといえば、カーシェアリングのクルマである。
都市ごとにローカルな業者もあるが、大手はふたつである。ひとつは、ダイムラーが主導し、世界各地で展開する「CAR2GO(カートゥーゴー)」だ。ホワイトとブルーに塗られた「スマート・フォーツー」および「同フォーフォー」を使用している。
もうひとつは長年Agip(アジップ)ブランドで知られてきたEni(エニ)社のグループ企業が運営する「エンジョイ」だ。こちらは2013年のサービス開始で、赤いボディーカラーの「フィアット500」および「同500L」を主に使っている。
2015年にイタリア環境省などが発表したところによると、この国でのカーシェアリングサービスの加入者は50万人を数えた。これは成人の100人に1人が加入している計算だ。同時に、過去5年間でおよそ10倍になったという。
2017年6月6日には、日本の経団連に相当するイタリア産業連盟の一組織である「レンタカーおよび自動車サービス産業会(ANIASA)」が、2016年にカーシェアリング加入者が108万人を突破したことを発表した。1年で倍以上になったということである。
ANIASAは、カーシェアリングの平均的利用者像も公開している。それによると、平均年齢は38歳。在住エリアは46%が都市部、27%が都市周辺部だ。使用頻度は多くのユーザーが週1回で、仕事の場合平日の9時から12時の間、週末の利用は16時から19時の間が最も多いという。
イタリア人カーシェア利用者に聞く
最近は大都市のスーパーマーケットの一角を借りて、カーシェアリング登録募集のキャンペーンが頻繁に行われていることも、加入者の増加にひと役買っていると思われる。
ただし、ボクの周囲は熱烈なクルマ好きばかりで、好みのクルマを自己所有しているイタリア人が多い。「カーシェア使ったことある?」と聞いても、「そんなの使うわけないじゃん」で会話が終了してしまう。
実際のカーシェアリング利用者に話を聞くチャンスは、これまでなかなか訪れなかった。が、ようやく先日、カーシェアリングの利用者に話を聞くことができた。場所は、フィレンツェの紳士ファッション見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ」のランチ会場でのことだ。
フォトジャーナリストとしてイタリアを代表する通信社で活躍するマウリツィオ・デッリンノチェンティ氏は、フィレンツェ在住である。
彼にとって最後のクルマは、「プジョー206」だったという。「なかなかいいクルマだった」と振り返るものの、数年前それを捨てカーシェアリングCAR2GOに切り替えた。
「フィレンツェ市街で四輪車の路上駐車は場所の争奪戦。夜中に仕事で疲れて帰ってきて、止める場を探すのは、いま思い出しても、しんどかったよ」とマウリツィオ氏は振り返る。大都市の路上でクルマの無料駐車場を探してさまよい、気がつけば目的地からとんでもないほど遠くまで運転していたことがたびたびある筆者としては、この気持ち、わかるわかる。
加えて、昨今のフィレンツェでは市電の延伸工事がやたら多く、期間中は駐車場は少なくなる。いや工事が終わっても、駐車場は縮小されていることがほとんどだ。
206を捨てたマウリツィオ氏は、以来「市内の足はスクーター」と決め、必要に応じてCAR2GOを利用している。
「スマートフォンのAppで空車の場所検索から、予約、開錠、返却までできるのが便利このうえないね」と語る。
イタリアのレンタカー営業所は、土曜午後と日曜休業の店が多く不便だが、カーシェアリングはそれを一気に解決してくれる。また、これは日本のカーシェアリングも同様だが「一度登録すれば、ヨーロッパ中の他都市でも使える」のも、全国を駆け回るジャーナリストという仕事柄、マウリツィオさんにとって魅力だ。
日本よりもメリットは大きい
加えてマウリツィオ氏は「イタリアでは、金銭的にもカーシェアリングのメリットが大きいよ」と語る。自動車保険・燃料とも欧州圏内でも極めて高額なイタリアでは、そうした維持費の合計は、数年乗るとクルマの残存価格を超えてしまう、と説明する。
CAR2GOのイタリア国内料金を紹介すると、登録料9ユーロ(約1100円)。これは日本のカーシェアリングサービス大手であるタイムズカープラス(1550円。以下タイムズ)とあまり変わりはない。なお、CAR2GOに月額基本料金の設定はない。(タイムズは月額1030円)。
スマート・フォーツーの場合、利用料金は1分0.24ユーロ(約30円)。1時間パックは13.9ユーロ(約1700円)、1日パック59ユーロ(約7350円)だ。いずれも200kmを超えた時点で0.29ユーロ(約36円)/走行kmが加算される。
参考までに、タイムズの場合、「ベーシック」クラスのショート料金は、206円/15分で距離料金なし。24時間パックは8230円+16円/走行kmである。
しかしながら日本と違い、使用車は明らかにカーシェアとわかるペインティングが施されている。女子を乗せるときカッコ悪くないのだろうか?
マウリツィオ氏の場合「女子と出掛けるときは、自転車に乗ったほうが楽しい」のだそうだ。そもそもイタリアで、そのカーシェア用ペインティングの是非が話題になったことはない。「カーシェア車はカーシェア車」と割り切っていることがわかる。
そんなことよりも注目すべきメリットがある。レンタカーや日本の大半のカーシェアリングと違い、エリア内なら「乗り捨て」が可能なことだ。さらに路上に設営された縦列駐車型のものも含め公共駐車場は原則無料。歴史的旧市街の一般車両進入制限地域にも基本的に入れる。イタリアにおけるカーシェアリングは、日本以上にメリットが大きいのだ。
拡大 |
急変するライフスタイルに合わせて
過去を振り返れば、イタリアは乗用車の保有率が高かった。2014年の統計でも1000人あたり乗用車保有台数は608台。欧州平均の487台と比べるとかなり多い。
ところがイタリアの不動産検索サイトが2017年3月に発表した調査によると、2005年から2015年に、サイト訪問者による郊外住宅の検索は37%も減少している。代わりに高まっているのは都市の住宅の人気だ。ボクの周囲でも都市に移り住む若者や、リタイア後に便利さを求めて郊外の家から引っ越してきたお年寄りがいる。
そうしたライフスタイルの急激な変化が起きているイタリアで、都市生活に便利なカーシェアリングの伸びしろはまだまだあると思われる。また、ANIASAの関係者がテレビで語ったところによると、いまの若者はクルマのブランドにこだわりがないという点も、カーシェアリング人気を後押ししているという。
残念ながら、ボクが住むシエナでは、まだカーシェアリングサービスは開始されていない。今回の執筆を機会に、市役所で自転車シェアリング行政をけん引した市の幹部にカーシェアリングの可能性を問い合わせてみたが、いまだ返答はない。人口5万数千人規模の街ゆえ、ビジネスもしくはサービスとして成り立ちにくいのが原因であろう。大都市はますます便利になり、中規模かそれ以下の都市は不便になってゆく。日本と同様の現象がイタリアでも起こりつつある。
「わが街でも、ひょっとして明日カーシェアリングが始まるのではないか?」などと空想する日々を繰り返しているうち、ボクのクルマがいまだスタッドレスを履いたままであることに気づいた。そのうえ整備工場の工場長によれば、保管してもらっている夏タイヤはもう寿命という。なんとかせにゃ。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=関 顕也)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第970回:クルマの背中に浮かぶ文字たち――空いた字間が語るもの 2026.7.16 アナタは自動車のボディー背面に施されたメーカー/ブランドのロゴについて考えたことがあるだろうか? 字間を詰めたり、広げたり、時代によって変わるそのトレンドと、その背景にあるメーカーの思惑を、自動車史にも精通する大矢アキオが語る。
-
第969回:裏地に『大脱走』! ピッティ・イマージネ・ウオモと自動車模様 2026.7.9 イタリアで開催された世界屈指の紳士モード見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ」を、現地在住の大矢アキオが取材。自動車にまつわるアパレルの最新トレンドを探り、新興ブランドのひたむきさと、老舗の刻んできた年輪に触れた。
-
第968回:初代「ルノー・トゥインゴ」は「フィアット500」と同じ旋風を起こせるか? 2026.7.2 リバイバルデザインの新型「ルノー・トゥインゴ」がデビューしてはや3カ月。このクルマの登場により、オリジナルにあたる初代がネオヒストリックとして脚光を浴びることはあるのか? 「フィアット500」の例を振り返りつつ、欧州在住の大矢アキオが考察する。
-
第967回:初代「トヨタ・クラウン」や“ヨタハチ”が「ミッレミリア」を走った! 2026.6.25 イタリアの歴史あるヒストリックカーラリー「ミッレミリア」に、日本のクルマが初めて参加! 石畳の道を行く初代「トヨペット・クラウン」に「トヨタ・スポーツ800」「2000GT」「スープラ」の姿を、現地在住の大矢アキオがリポートする。
-
第966回:フェラーリ・ルーチェ 地元イタリアで一般人はこう見た&大矢的こころ 2026.6.18 その斬新すぎるデザインで物議を醸している、フェラーリ初の量産電気自動車「ルーチェ」。このクルマは、おひざ元のイタリアではどのように受け止められているのか? かの地において自動車史と自動車文化をつぶさに見てきた大矢アキオがリポートする。
-
NEW
ポルシェ911カレラT(後編)
2026.7.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバルとSTIでクルマの走りを鍛え、モータースポーツにも積極的に取り組んできた辰己英治さん。彼の目に、“スポーツカーの水準器”こと「ポルシェ911」はどのように映ったのだろう? 走りの楽しさを追求した「カレラT」グレードに乗っての印象を聞いた。 -
ホンダCB750ホーネット(6MT)【レビュー】
2026.7.18試乗記ホンダのスポーツネイキッド「CB750ホーネット」が、話題の「E-Clutch」を獲得。ライディングの幅を広げる自動クラッチシステムは、パンチの利いた2気筒のストリートファイターにどんな走りをもたらすのか? その仕上がりを確かめた。 -
人気沸騰「ランクル“FJ”」を手にするもうひとつの方法
2026.7.17サブスク「KINTO」で「ランドクルーザー“FJ”」に乗る<AD>2026年5月に発売されるやオーダーが集中し、受注停止となってしまった「ランドクルーザー“FJ”」。しかし、あきらめるのはまだ早い。“FJ”とのカーライフを実現できる、トヨタの新車サブスクリプションサービス「KINTO」という手段があるのだ。 -
新型「アルピーヌA110」はどんなクルマに? グッドウッドを駆けたテストカーから読み解く
2026.7.17デイリーコラムアルピーヌが次期型「A110」を示唆する「A110フューチャー」を初公開。グッドウッドで走る姿を披露した。そこから分かる未来のA110の姿とは? 電動化がアナウンスされているが、エンジン車の設定はあるのか? 公式発表とテストカーの姿から深掘りする。 -
ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)【試乗記】
2026.7.17試乗記「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。 -
写真で解説する新型「日産エルグランド」
2026.7.16画像・写真新型「日産エルグランド」は、日本伝統の美をデザインに生かしながら、同社独自の最新技術を組み合わせて“走りのよさ”も徹底追求したという意欲作。その見どころを写真とともに解説する。







