キャデラック・エスカレード プラチナム(4WD/8AT)
イロモノではなく、本物 2017.08.11 試乗記 キャデラックが誇るフルサイズSUV「エスカレード」が、パワートレインの変更を伴う大幅な改良を受けた。新たに8段ATを得たプレミアムSUVの走りは、どう進化を遂げたのか? 日欧のハイエンドモデルに比肩する、その出来栄えをリポートする。駆動系にも手を加える大幅改良
2015年2月に発売された現行エスカレードの日本仕様は、この6月に2度目の仕様変更が実施された。最新型は、米本国式でいうと2017年モデルにあたる。
ちなみに、1度目の改良が実施(≒2016年モデルの導入)されたのは2015年12月だった。このときには、iPhoneをタッチパネル(キャデラックでいう「CUE=キャデラックユーザーエクスペリエンス」)で操作可能とする「Apple CarPlay」の標準搭載や、警告のみだった「レーンディパーチャーウォーニング」から、ステアリングに操舵支援機能が追加された「レーンキープアシスト」への車線維持機能の進化、そしてクルマを真上から見ることができる「サラウンドビジョン」の機能アップ……といった手直しが入った。
今回の改良はもう少し広範である。全車に共通する改良点としては大きく4つ。まずは日本でいうスマートルームミラー(リアカメラ映像をルームミラーに投影する機能)の搭載。4WDへのローモードの追加。縦列&並列の両パターンに対応した自動駐車システム(オートマチックパーキングアシスト)の新搭載、そして最大のトピックはATが6段式から最新の8段式に載せ換えられたことである。
また、2つあるグレードでそれぞれ固有の変更点もある。より安価な「プレミアム」では新デザインのホイールの採用とセカンドのベンチシート化(定員7人→8人)、そして今回の取材車である上級の「プラチナム」では後席エンターテインメントシステムのアップグレード(ポートのHDMI化、ワイヤレスヘッドフォンのデジタル化など)があげられる。
巨体なのに運転しやすい
というわけで、個人的には発売直後におこなわれた軽井沢での試乗会以来の対面となったエスカレードは、日本の交通環境におくと、やはり場ちがいのようにデカい。ましてや、エスカレードで都内の喧騒をはいずるのはこれが初めてなので、乗り出す前から緊張した。
だが、それはまったく肩すかし気分の取り越し苦労だった。エスカレードは物理的に走れる場所なら、すこぶる運転しやすく、ギリギリまでストレスとは無縁である。
エスカレードはたしかにデカいんだが、車両感覚は良好そのもの。四角四面スタイリングのおかげもあるが、よじのぼるような運転席高さがメチャ効きである。しょせん乗用ワゴンにウブ毛をはやした程度のDセグメントあたりのクロスオーバーには、せまい路地でエスカレードより気をつかうクルマもある。
まあ、いまや希少なラダーフレーム構造自体は古典的というほかないが、フロントはダブルウイッシュボーン独立懸架であり、前後にスタビライザーも備わる。ステアリング反応は切り側も戻し側もドンピシャの調律で、ひと昔前のようなコツはまるで不要だ。
標準装備のサラウンドビジョンは今どきめずらしくもない装備であるものの、都会のエスカレードでは涙が出るほどありがたい必須アイテムである。周囲の歩行者や自転車を見落とさない役割だけでなく、せまくてトリッキーなコインパーキングでも、これがあれば枠内にまっすぐ美しくとめるのも苦ではないし、意地悪な“輪止め機”で高価な22インチホイールをガリッてしまう危険性も飛躍的に減る。
ちなみに新搭載のオートパーキングシステムは、国産車の一部のそれのように白線も検知できるタイプではないようだが、前後(もしくは左右)のどちらかに駐車車両があれば、切り返しも含めて 他社に劣らず見事な仕事をする。作動速度レンジがけっこう広いのも美点で、ブレーキ操作が甘いとすぐにキャンセルされてしまうものが多い国産のそれより、特別な気づかいなく使える。
“左ハンドル”ってそんなに問題?
エスカレードはこの日本仕様もいまだに左ハンドルのみ。これをもって“日本で売る気がない、これじゃトランプも許すまい”と、もっともらしく説教する大手一般メディアもある。しかし、「バイパー」乗りの編集部・堀田君も書いていたように、それはまったく現実が見えていない空論である。
クルマに詳しい皆さんが集まるwebCGでは今さらな話だが、日本のアメ車マーケットの規模は、国産車はもちろん、ドイツ車とも比較にならないほどちっぽけなものだ。ハンドル位置ごときのイチャモン以前に、マニア向けだろうがなんだろうが、今すぐ売れる商品を1台でも多くショールームに置いてくれよ……というレベルにすぎない。
また、幸運なことに日本は“左ハンのガイシャ”を柔軟に受け入れた交通文化が浸透している。少なくとも東京ではゲートの左側にも発券機を備える駐車場は多いし、高速や有料道の入り口には全国的に左ハン用発券機が普及している。保険制度も含めて、本来とは逆ハンドルのクルマに、日本ほど優しい国は世界的にもめずらしい。
自動車業界におけるトランプショックは今ここにある問題であって、長い目で正論を語っている場合ではない。今の日本でアメ車が1台でも多く売れるのが国益にかなう……と本気で思うなら“ハンドル位置など関係なく乗りたくなるアメ車”をアピールするほうが、何倍も即効性がある対応策だろう。
だいたい、とくにエスカレードのような巨漢グルマを日本で乗りこなすには、じつは左ハンドルのほうが逆に運転しやすい。思い切って路肩ギリギリまで寄せられるからだ。
もちろん、片側一車線道路での追い越しには、本来のハンドル位置以上の細心の注意が必要である。しかし、最近は邪魔な路肩駐車も激減したし、追い越しではドライバーに少しくらい気をつかわせたほうが、おのずと紳士的な安全運転促進効果もある(?)ともいえるだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
車内の静かさは特筆に値する
いわゆる普通の試乗記っぽい意味での改良型エスカレードのポイントは、やはり8段ATである。その恩恵は実際にとても大きい。6段AT時代からビックリするほど静かだったエスカレードの車内は、さらに輪をかけて“静寂”とでもいいたくなる空間となった。
ギアが2つ増えたからといってトップのエンジン回転が極端に下がったわけではない。しかし、より細かく刻むレシオのおかげで、追い越し加速などを含めても、巡航中の平均エンジン回転数は以前より明らかに低くなった。
6.2リッターという大排気量だから、2.6t超の車重でもエンジンの絶対トルクに不足は感じないが、エンジン回転計を観察していると、カキカキと絶え間なく緻密に変速を繰り返している。しかも、その作動が素晴らしく滑らかで、シフトショックはほとんどゼロ! いやホント、エスカレードの新パワートレインの静粛性と高級感は一級品である。
このV8に必要に応じて4気筒となる気筒休止機構も備わるのは以前と変わりない。エンジンに必要以上の負荷がかかりにくい8段ATのおかげで、気筒休止の頻度も以前より確実に高まっている。
気筒休止のショックも皆無に近い。まあ、8気筒時と4気筒時のエンジン音が異なるので、耳をすませてオタク心を全開にすれば、気筒休止の瞬間に気づかないではないが、無意識だとまるでわからない。
風切り音も驚くほど小さい。これだけ四角いカタチなのに高速でもウインドノイズはほとんど気にならない。 しかも、ロードノイズまではるか遠くからしか聞こえないから、これは空力というより、全身にわたって、とにかく遮音・吸音対策が入念なのだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
世界屈指の実力の持ち主
というわけで、全車速対応のアダプティブクルーズコントロールをセットしたエスカレードでの高速巡航は、まさに極楽というほかない。走行モードを標準の「ツーリング」にしておけば、可変ダンパーの「マグネティックライド」が22インチタイヤとは思えない優しい乗り心地をかもしだす。
この可変ダンパーは1000分の1秒単位で刻々と減衰力を調整してくれるリアルタイム制御だ。速度が上がるにつれてきっちり締めていくので、どんな場面、速度域でもアゴが出てしまうようなことはまずない。
タイトな山坂道ではスポーツカー的な楽しさはなくとも、巨体をもてあますこともない。そういう場合には、減衰力が高どまりになる「スポーツ」モードのほうが、ステアリングの切り遅れ、反応遅れが出にくくなるので、トータルではより都合がいい。
以前の軽井沢試乗のときもツッコミを入れさせていただいたが、ATのギア選択スイッチが相変わらずコラムシフトレバーにあるのはちょっと使いづらい。
まあ、これは厳密な意味でのマニュアルモードではなく、ギアの上限を規制して自動変速させる タイプということもあり、それに2度目の試乗でちょっと慣れもしたので、今回は致命的とまでは感じられなかった。それでもやはり、シフトパドルがあればさらにいいのに……と思ったのも事実である。
ただ、どう冷静に考えても、エスカレードのツッコミどころはその程度しかない。
猛烈に押し出しがきくエクステリア、すべて本物の天然素材に囲まれた極上の室内調度、電動ステップや本格冷蔵庫、背もたれと座面が独立できく(!)シートヒーターなど、かゆいところに手が届きまくりの安楽装備、最先端がフルにそろう安全デバイス、そして、まさに身体がとろけそうな乗り心地と静粛性、それでいて、まったく不足のない高速操縦安定性……。お世辞でもなんでもなく、エスカレードは、 英国のあれやドイツのあれ、あるいは日本のあれとならぶ、世界の頂点級SUVの一角である。
およそ2日間で高速と箱根、市街地を遠慮なく走り回ったエスカレードの平均燃費は満タン法で6.4km/リッター。絶対的にガス食いなのは否定しないが、アメ車らしくレギュラー指定。高級ガソリンSUVとしての実質的な燃料経済性も、まったくもって悪くない。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
キャデラック・エスカレード プラチナム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5195×2065×1910mm
ホイールベース:2950mm
車重:2670kg
駆動方式:4WD
エンジン:6.2リッターV8 OHV 16バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:426ps(313kW)/5600rpm
最大トルク:623Nm(63.5kgm)/4100rpm
タイヤ:(前)285/45R22 110H M+S/(後)285/45R22 110H M+S(ブリヂストン・デューラーH/Lアレンザ)
燃費:シティー=15mpg(約6.4km/リッター)、ハイウェイ=20mpg(約8.5km/リッター)(米国EPA値)
価格:1360万円/テスト車=1366万3900円
オプション装備:フロアマット<6枚セット>(6万3900円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1535km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:473.2km
使用燃料:74.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:6.4km/リッター(満タン法)/6.5km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
クルマの乗り味の“味”って何だ?
2026.1.20あの多田哲哉のクルマQ&A「乗り味」という言葉があるように、クルマの運転感覚は“味”で表現されることがある。では、車両開発者はその味をどう解釈して、どんなプロセスで理想を実現しているのか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
プジョー208 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.1.20試乗記「プジョー208」にマイルドハイブリッド車の「GTハイブリッド」が登場。仕組みとしては先に上陸を果たしたステランティス グループの各車と同じだが、小さなボディーに合わせてパワーが絞られているのが興味深いところだ。果たしてその乗り味は? -
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。





















































