第54回:光り輝く激安BMW
2017.08.15 カーマニア人間国宝への道差額20万円に想う
3年落ち、ボディーカラー黒、シフトパドル付き、車両本体223万円という、条件にピッタリの「BMW 320dスポーツ」をネット上で発見し、大いに心を動かされた私だが、同時に幼少期からの節約魂も、ムクムクと頭をもたげた。
(来年には「3シリーズ」の新型が出て、中古価格はさらにガクッと下がるはず。まだちょっと早いんじゃないか……)
(「デルタ」に履かせたミシュランのスタッドレスタイヤ、あれを有効活用するためにも、あとひと冬デルタに乗るべきかもしれない)
確かに、あと1年待てば、320dはもっと値を下げているはず。それは間違いない。クラシックフェラーリのように値段が上がることは死んでもありませんし!
しかし、待てよ……。その時はデルタの下取りもかなり落ちてるよね?
1年後。理想的な320dが、仮に今より50万円安く買えたとしても、デルタの下取りも、今より30万円ぐらい下がっている気がする。ならば差額はわずか20万円。20万円のために1年間我慢するのはどーなのか? それは意味ある節約なのか?
20万円のために、1年を棒に振る。いや棒に振るわけじゃないけど、20万円という金額は、とてもとても欲しいものを、1年間我慢するほど価値のあるものとは思えない。運転余生もスーパー長くはない年頃なので。
クルマを見るな、人を見ろ
続いて気になるのは、そこがどんな店か、という点である。
私は中古車を買う時は、「クルマを見るな、人を見ろ」をモットーにしてきた。
穴があくほどクルマを見たって、状態の良しあしなどシロートにはロクにわからない。しかし、人の良しあしならわかる。良しあしで語弊があれば、「友達になりたいか、なりたくないか」としてもいい。
中古車は心の通う相手から買う。クルマを愛する人がやってる店から買う。それが重要だ。
私にとって最も鮮烈な体験は、これまでフェラーリを11台買ってきたエノテン(現コーナーストーンズ代表)との出会いである。
今から23年前、まだフェラーリが「売ってやるもの、買わせていただくもの」だった時期に、「ご来店、お待ちしてますウフフ~」と、トヨタのセールスマンのような低姿勢を見せたエノテン。「僕もいずれフェラーリが欲しいので、今はこれに乗ってるんです」と、カローラを足にしていたエノテン。
私は「この人は自分の同志だ!」と感じ、「348tb」を買う勇気を得た。乗り出し1163万2800円。人が信じられなければ、平民にそんなもん買えるはずがなかろう。
が、今回のお店は、そういったところではなさそうな予感がする。これまで46台クルマを買ってきた私の勘である。
取りあえず、メールで見積もりを依頼してみたところ、勘は確信となった。
車両本体は安い。しかし諸経費が結構高い。
レッドラインはエグザイル系
安い車両本体価格でネット客を釣り、諸経費で稼ぐ。これは、心の友になれるタイプの店ではない。BMWが好きというより、お金が好きなのだろう。私もお金は好きですが。
が、そこでもう一度考えた。
確かに諸経費はちょっと高いが、車両本体は激安だ。なにせ、近辺4都県で引っかかった約180台の中で、その個体より安いのは5台しかなかった。180台中6番目に安いのだから、間違いなく激安の部類に入る。
で、その個体より安い5台はどんなクルマかというと、走行距離5万km超や遠隔地等々、さまざまな条件がぐっと悪くなる。それに比べると目当ての個体は悪くない。いや、かなりイイ。光り輝いているといってもいい!
これはやはり、実車を見に行かなくては。
思い立ったが吉日。私はソッコーでアポを入れ、出撃した。明日まで待って売れちゃったらメッチャ悔しいから!
その店は、かなりゴチャッとしたドイツ車専門店だった。もちろんBMW正規ディーラー様とは3光年くらいかけ離れた、海千山千な雰囲気の。
ただ、店にいたメカニックらしき人物はとてもフツーな感じで、エグザイル系ファッション(金髪にひげ、グラサン等)でもなかった。
店員がエグザイル系か否か。これは今日び、中古車店選びに関して重要なポイントだ。昔は店員がヤクザっぽいか否かが重要だったが、今はそういう人はいなくなり、エグザイル系か否かがレッドラインとなっている。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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