ロールス・ロイス・ファントム(FR/8AT)/ファントム エクステンデッド ホイールベース(FR/8AT)
そこにはファン・トゥ・ドライブがある 2017.11.22 試乗記 「ロールス・ロイス・ファントム」がフルモデルチェンジを果たし、8代目に移行した。14年ぶりに登場した新型は、外観こそまがうかたなきロールス・ロイスだが、新設計のアルミアーキテクチャーが用いられるなど、新時代の幕開けを感じさせる内容となっている。スイス中央部、ルツェルンで試乗した。まずはオーナー疑似体験から
1925年に登場以来、常に“世界最高のクルマ”であり続けた、ロールス・ロイス・ファントム。BMWグループ傘下となってから登場したファントム7も、優れたパフォーマンスと威風堂々たるスタイリングで世界中のビリオネアたちをうならせてきた。14年ぶりのモデルチェンジとなったファントム8を、スイスの湖畔リゾートで試す。
ロールス・ロイスの国際試乗会ともなれば、空港に降り立ったときから“特別”だ。出口で待ち構えていたスタッフの後についていけば、その先にはロールス・ロイスの姿が見えるはずである。今回は新型ファントムの試乗会ということで、チューリッヒ空港から会場であるフィッツナウまでの水先案内車は「ゴースト」と「レイス」だった。
レイスの後席は、実をいうと素晴らしい。極上のGTカーは前後のパッセンジャーも分け隔てなくもてなすもの。2ドアだからといって、まるで窮屈さはない。むしろ、適度な包みこみ感が安堵(あんど)を生み、滑らかな乗り心地が睡魔を誘う。
ルツェルン湖に面した豪華なホテルに到着した。ファントムの試乗会ともなれば、クルマの説明を聞いて乗ってハイおしまい、ではない。木製ボート工場見学や時計工房体験、チョコレート製作、ヘリコプター散策、ピカソコレクション見学、ワインセラーツアー、スパ、などなど、実にさまざまなアクティビティーが用意されている。ロールス・ロイスの後席を堪能しながら、そういった特別な経験を味わう。要するに、ロールス・ロイスのオーナー疑似体験、という趣向である。
“パークホテル”で極上の睡眠をむさぼった翌朝、14年ぶりにモデルチェンジしたファントム8の試乗会がようやく始まった。筆者とコンビを組むのは台湾から来たジャーナリストのエンツォ・ウさん。割り当てられたのは、ホワイトとカッパーゴールドの粋派手な2トーンカラーでコーデされたノーマルボディー(それでも全長5.8mでホイールベースは3.5mもある)だった。
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静かすぎて眠りを誘う
2人1組、ドライバーとナビゲーターに分かれ、途中で交代する、というのがこの手の国際試乗会の常なのだが、エンツォには通訳が付いていたし、ファントムといえば後席の方が重要だろう。エンツォをショーファーに仕立てて、ためらうことなく後席に乗り込んだ。
しばらくは湖畔沿いを軽く流すようなルートだった。穏やかな湖面に日光が降り注ぎ、きらきらと輝いている。最初の数分こそ、時折ゴツゴツと路面からのショックを感じたが、それすら徐々に感じなくなっていく。その上、異様なほど、静かだ。風を切る音も、タイヤのパターンノイズも聞こえてこない。前の2人が話している会話がよく通って聞こえてくる(何を話しているのかはまるで分からないけれど)。エンジンが、本当に遠くでかすかにうなっている。エアコンの音が逆に耳につく。体が徐々に弛緩(しかん)していくという自覚がある。そして、とうとう……うとうと。
気がつけば、エンツォが高速道路をかっ飛ばしていた。何やら楽しそうだ。筆者はといえば、湖面のありかを確認して、きれいだな~などと見とれているうちに、また落ちた。
目覚めてみれば、もうコーヒーブレークポイントに近づこうとしていた。正直に言って、こんなにリアシートで爆睡できた試乗会は初めて。しかもドライバーは今朝、初めて会話した、ジャーナリストとはいえ見知らぬ人だ。ファントムの、いや、おそらくはロールス・ロイスすべての、それは哲学が生んだ安心感ということなのだろう。
運転する楽しさがある
コーヒーを立て続けに2杯飲み干して、いよいよドライバーズシートに収まった。どうやらここからランチポイントまではほぼ一本道で迷いそうにもない。最初に行ったのが、ナビゲーションを映すモニターをしまってしまうことだった。“ザ・ギャラリー”と称するアートなダッシュボードをじっくり見るためだ。後席には、ちゃっかり台湾の2人が乗り込んでいる。裕福な中国人観光客を目的地まで運ぶドライバー風情と相成った。
後ろからの会話もまたよく聞こえてくる。先ほどと同様に、おそろしく静かというのが第一印象だった。フラットなライドフィールは後席と同じ(ただし、カメラ予知によるアクティブサスコントロールはパッセンジャーに特に有効だ)印象だったが、重厚さという点で、運転席での印象はちょっと違っている。
ゼロ発進時こそ、まるで寒天を押し出すようにねっとりしずしず、かつきめ細やかで精密な制御で走りだす。わずか1700rpmから900Nmものトルクを発する新開発の6.75リッターV12ツインターボエンジンが、精妙にコントロールされているのが分かる。けれども、その先からは、まるでパワフルな大型スポーツカーのようにドライバーの意のままに走ってくれるという印象が先に立った。それなりに大きさ感や重量感はあるし(当たり前だ!)、軽快と言ってしまうのはどうかとは思うけれど、とはいえドライバーの意思に忠実かつ自由に鼻先が動く感覚があるので、やはりそれは“軽やかな走り”であると形容するほかない。
狭いワインディングロードでは、さすがに巨体を気にしてしまったが、それも最初の数分のこと。V12ツインターボはまさに“縁の下の力持ち”というやつで、どこから発しているのか分からない程度のうなり声を上げつつ、巨体を前へ前へと押し出していく。
ドライバーズカーとしても一級品
調子にのって、がんがん攻め込み始めた。それでも、後ろの2人は気にせず会話に没頭している。筆者のウデが良いというよりも、ファントムの制御がずばぬけて安定しているからだろう。しかも、ドライバーはというと、めいっぱい楽しんでいた!
ブラインドコーナーから急に対向車が出てきた。それでも慌てふためくことなどない。落ち着いて対処できる。ドライバーの意思通りにクルマが動いてくれるという感覚を、ちょっと走っただけでもうつかんでしまっていたからだ。
軽く、いっそう丈夫になった新設計のアルミニウム・スペースフレームによるところが大きい。試乗後、トルステン・ミュラー・エトヴェシュ社長とランチを取った際に彼はこんな風に言っていた。「若い世代の金持ちはショーファーではなくオーナードリブンを好む。だから、世界最高のドライバーズカーにしなければいけない」
ちなみに、この新設計スペースフレーム「アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー」は今後登場するロールス・ロイス・モデル、つまりはSUVの「カリナン」はもちろん、次世代のゴースト系まで、すべてに使用されるという。それだけ、“走り”へのこだわりが増しているといえそうだ。
ノーマルボディーの前後席を存分に楽しんだのち、エクステンドボディーを試した。全長6m、ホイールベース3.8m、だ。先ほどと同様に、後席でたっぷり休んだ(またしても爆睡だ)のち、ハンドルを握った。面白いことに、運転しはじめたときの印象は、ノーマルボディーとさほど変わらない。リアステア(最大3度)のおかげだろう、タイトベンドであっても後ろの長さなどまるで気にすることなく、がんがん曲がっていける。ドライブフィールはほとんど同じ、か、むしろ、ロングボディーのほうが安定していて楽しいと。名所フルカ峠のヘアピンカーブもまるで意に介さなかった、どころか、エンツォに至っては、筆者が後ろでうとうとしているのを良いことに、前をいく「アウディRS 3」をアオリまくっていた!
ショーファードリブンとしてはもちろんのこと、オーナードリブンカーとしても、最高の一台。自分がオーナーになったなら、前か後ろか、大いに悩むことだろう。とりあえず、運転手を雇わなくてもいいように、自動運転を真っ先に採りいれてもらえるとありがたい。
(文=西川 淳/写真=ロールス・ロイス/編集=竹下元太郎)
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テスト車のデータ
ロールス・ロイス・ファントム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5762×2018×1646mm
ホイールベース:3552mm
車重:2560kg(DIN)
駆動方式:FR
エンジン:6.8リッターV12 DOHC 48バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:571ps(420kW)/5000rpm
最大トルク:900Nm(91.8kgm)/1700rpm
タイヤ:(前)255/50R21/(後)285/45R21
燃費:13.9リッター/100km(約7.2km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ロールス・ロイス・ファントム エクステンデッド ホイールベース
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5982×2018×1656mm
ホイールベース:3772mm
車重:2610kg(DIN)
駆動方式:FR
エンジン:6.8リッターV12 DOHC 48バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:571ps(420kW)/5000rpm
最大トルク:900Nm(91.8kgm)/1700rpm
タイヤ:(前)255/50R21/(後)285/45R21
燃費:13.9リッター/100km(約7.2km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。