トヨタ・ハイラックスZ(4WD/6AT)
冒険したいあなたに 2017.11.30 試乗記 10年以上のブランクを経て国内市場に復活した、トヨタのピックアップトラック「ハイラックス」。いざ日本の道を走らせてみると、外観からは予想できなかった身のこなしや乗り心地のよさに、驚かされることになった。衝撃的なデカさ
久しぶりに駐車難民か!? 路上で初めてハイラックスを見たとき、そう思った。17インチタイヤを履くラダーフレームに載ったボディーは、巨漢のアメラグ選手を四輪にしたような量感だ。後ろに止まっていた「レクサスRX」がショボく見えた。
13年ぶりの復活ハイラックスは、メイド・イン・タイランドである。東南アジアやオーストラリアが主力市場で、米国では販売されていない。しかし、サイズや雰囲気はトヨタ製アメリカンピックアップである。しかも日本仕様は、よりにもよって一番デッカい“ダブルキャブピックアップ”である。
高さ1.8mのダブルキャブの後ろに半トン積みの深い荷箱が載っている。アメリカでは、ピックアップトラックの荷箱を“ベッド”と呼ぶ。4ドア5座キャビン+ベッドで、全長はグッバイ日本車的な5.3mオーバー。このまま乗って帰って、今晩、ウチの車庫に預かる安請け合いをしてしまったが、これはちょっと無理と思われた。
ちなみに前回の駐車難民事態は、だいぶ昔で、フルサイズのキャデラックだった。クルマもクルマだし、家族みんなを乗せてシティーホテルに泊まりに行った。
不思議な心地よさがある
都心の大通りを走り出す。最初は恐る恐るだったが、この大きさにもじきに慣れる。というか、意外や運転しやすい。
まずこの高さがもたらす、視界のよさがありがたい。自分自身を俯瞰(ふかん)で見られる感じがある。ドアミラーも高性能だ。といったようなクルマは、ほかの大型SUVにいくらでもあるはずだが、ハイラックスにはまたちょっと違うイージーさがある。このリラックスオーラのみなもとは何なのだろう。
乗り心地も快適だ。武骨なラダーフレームや板バネまる出しのパートタイム四駆トラックだから、乗用車的な柔らかさやフラット感はない。空荷のひとり乗車だとバネ感は希薄で、乗り心地はグイっと締まっている。でも、それが心地よい。たっぷりした空気量のタイ製ダンロップが鋭い突き上げを伝えることもない。
駐車難民にもならずにすんだ。誘導係として出てきたヨメさんは、クルマを見上げるなり、「無理だよォ」と言ったが、2回切り返したら、入った。ハンドルがよくきれるのがありがたいし、「フェラーリ488GTB」なんかと違って、デカイといっても後ろは“箱”だ。さすが「働くクルマ」である。
加減速は意のまま
翌朝、まだ暗いうちからロケ地へ向かう。空いた一般道を走っていると、ハイラックスは“陸の王者”の風格だ。
6段ATと組み合わされるエンジンは2.4リッターターボのクリーンディーゼル。「ランドクルーザープラド」用よりひとまわり小さい4気筒ユニットは、乗用車のクリーンディーゼルほど静かではない。アイドリングストップ機構も付いていない。加速中はビーンという独特の音もするが、なにより力持ちである。発進加速でこのクルマの前に出ようと思ったら、その気にならないとむずかしい。
ブレーキもパワフルだ。車重2tを超すSUVだと、停止間際に「オーッと、止まらない!」と思わせるクルマもまれにあるが、これは軽い踏力でよくきく。空荷のトラックなら当然か。しかしこのガタイにして、意のままに軽く加減速がきく。それがストレスのない走りの大きな要因だと思う。
約160km走って、燃費は10.2km/リッター(満タン法)だった。燃料タンクは80リッターだから、航続距離は長い。
乗り手にもタフさが必要!?
高いアイポイントを除くと、車内の居住まいは大型セダンである。後席は広いだけでなく、座面が高くて、大変見晴らしがいい。現場監督ポジションだ。
荷台のアオリを開けると、アオリそのものが重いのでびっくりした。エンジンフードを開けようとしたが、ロックレバーをリリースしているのに持ち上がらないゾ、と思ったら、力が足りないだけだった。
高さ約60cmのアオリは水平位置までしか開かない。積み下ろしのときはその分、荷台に近づけなくなる。しかも荷台は地上高90cm近い高みにあるため、重さ16kgのMTBを載せるのでもけっこうフーフー言った。荷車としての使い勝手のよさでは、ほかにもっといいクルマがたくさんあるはずだ。
登録はコンビニの配送車などと同じ1ナンバー(普通貨物車)。遊ぶクルマとして所有する人にとって、初回2年、その後毎年という車検は煩わしいだろう。
しかしそういったことも含めて、いまこのクルマと暮らすのはちょっとした冒険だと思う。カタログでは若者に秋波を送っているが、価格を考えると敷居が高い。むしろ退職金でハイラックス、がありかと思う。荷台に何を積む? それを探すのがこれからの人生です。ちょっと気が早いが、個人的には「2017年 運転していてキモチよかったベストカー」である。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=菊池貴之/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
トヨタ・ハイラックスZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5335×1855×1800mm
ホイールベース:3085mm
車重:2080kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:150ps(110kW)/3400rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1600-2000rpm
タイヤ:(前)265/65R17 112S/(後)265/65R17 112S(ダンロップ・グラントレックAT25)
燃費:11.8km/リッター(JC08モード)
価格:374万2200円/テスト車=411万0480円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション T-ConnectナビDCMパッケージ(20万4120円)/ETC2.0ユニット ナビ連動タイプ(3万2400円)/iPod対応USB/HDMI入力端子(9720円)/工場装着バックカメラ用ガイドキット(1万1880円)/TOYOYAデカール(2万0520円)/ドライブレコーダー<DRD-H66>(4万2660円)/フロアマット(3万5640円)/スノー・レジャー用フロアマット<縁高タイプ>(1万1340円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1557km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:161.4km
使用燃料:15.8リッター(軽油)
参考燃費:10.2km/リッター(満タン法)/9.5km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。