スバルBRZ STI Sport(FR/6MT)
さらにBRZらしく 2018.01.05 試乗記 この秋「スバルBRZ」の最上級グレードとしてラインナップに加わった「STI Sport」。その名のとおりSTIの技術が注がれたこのフラッグシップモデルの走りは、一段とBRZらしい、ピュアでストレートな魅力に満ちたものだった。主役は遅れてやってきた
BRZにもSTIスポーツが登場した。STI(スバルテクニカインターナショナル)がプロデュースする「tS」が、過去に何度か限定販売されたことがあるが、こんどのSTIスポーツは、もちろんシリーズ最上位の常備モデルである。
自然吸気2リッター水平対向4気筒のFRという基本形は変わらないが、すぐ下の「GT」と比較すると、STIスポーツは18インチタイヤを履き、専用チューニングのザックスダンパーとコイルスプリングを備え、フレキシブルVバー、フレキシブルドロースティフナーといったすでに他のSTIスポーツ仕様でおなじみの専用装備をまとう。外観に特別な派手さはないが、スポークの目の詰んだブラック塗装の18インチホイールを見れば、STIスポーツとわかる。
そのほかシートやステアリングホイールなどの内装パーツも専用品にアップグレードされる。それでGTとの価格差は21万6000円。出せば売れるといわれるSTIスポーツが、BRZでなぜこんなに遅れたのか、不思議なくらいである。
先の東京モーターショーにクールグレーカーキのSTIスポーツが展示されていた。以前から「XV」にもある水色系の塗色だが、ボディーの造形が異なると、色の印象もまたこれほど変わるのかと思うほど、BRZをひときわ魅力的に見せていた。でも、あれは100台限定の特別色でとっくに終了。今回試乗したのは、アイスシルバーのMTモデル(353万1600円)である。
第一印象は「かたッ」!
この試乗の1カ月前、北海道美深のテストコースでSTIスポーツにはチョイ乗りしていた。だが、平滑な路面の周回路を数ラップしたくらいでは、正直、なにもわからなかった。
今回はじっくり乗れた。いつものように拙宅の車庫で後ろから近づいてゆくと、あらためて“ガレージ映え”する素敵なクーペボディーだと感心したのだが、最初、恵比寿のスバル東京本社から走り始めた第一印象は、「かたッ」だった。
半年前に乗った「トヨタ86」の「GTリミテッド」より歴然と乗り心地が硬い。ステアリングも重い。STIスポーツ専用サスペンションと215/45R18タイヤのせいなのか、これまで乗ったBRZ/86のなかでも最も硬いスポーツ足である。ボディーも硬いのでつじつまは合っているのだが、ワインカラーと黒、ツートンのインテリアはけっこう大人の雰囲気なのに、デートカーとしてはギリかな、と感じた。とはいえ、“こういうの”が好きなら、キモチのいいクルマである。筆者も気力の充実している午前中はそう感じた。
ドーピングなしの操縦感覚が楽しい
撮影のため八ヶ岳の麓まで走ったときは、たまたま「シビック タイプR」が同道していた。向こうは2リッターターボの大柄な320psFFモンスター。価格も100万円近く高い。ガチンコライバルではない。でも、乗り換えるたびにBRZの個性があぶり出されておもしろかった。
電動ウエイストゲート付きターボやレブマッチシステムや電子制御ダンパーやらで武装したタイプRと比べると、BRZのドライブテイストはプレーンなアナログマシンそのものである。ボディーサイズも、運転操作の動線も、身のこなしも、コンパクト。絶対スピードではタイプRに及ばないが、ドーピングなしの操縦感覚がストレートに楽しい。そういえば、美深のテストコースを走ったときのインプレも、テストコースなのに「楽しかった」であった。
車重1250kg。206psのFRでもコーナリングに神経質なところはない。もともとBRZはヒリヒリするようなテールハッピーな挙動を見せないクルマだが、STIスポーツはさらにグリップ重視の印象を受ける。パワー製造直売のFFは無駄がなくて高効率だが、逆にFRはクルマを広く使って走る贅沢さが“味”である。ワインディングロードでタイプRと乗り比べながら、あらためてそう思った。こんなにカッコいいコンパクトなFRのクーペがある日本は幸せだ。
今が乗りどき
約540kmを走って、燃費は10.9km/リッター(満タン法)だった。一緒に走ったシビック タイプRも10km/リッター台をマークした。2WDでもスバル水平対向エンジンの燃費性能は平凡だ。
スバル/トヨタの本格的協業第1作としてBRZ/86が登場してから早6年がたとうとしている。数売れる量販車なら、そろそろフルチェンジしてもいいころだが、このツインズは2016年夏に最高出力微増(MTのみ)を含むビッグマイナーチェンジで磨きをかけた。実際、あのマイナーチェンジですっかりバリが取れたような洗練を受けた。いまのBRZは、たとえば水平対向つながりで「ポルシェ911」のセカンドカーとして買われても、「ついついこっち乗っちゃうんだよね」とか言われながら主役を食うような魅力がある。
だから、足の硬いSTIスポーツよりも、17インチのふつうのモデルでいいと個人的には思った。でも、高いコスパでこれも売れるだろう。86に差をつけるためにも、クールグレーカーキを常備カラーにすることを希望したい。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=小林俊樹/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
スバルBRZ STI Sport
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4240×1775×1320mm
ホイールベース:2570mm
車重:1250kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:207ps(152kW)/7000rpm
最大トルク:212Nm(21.6kgm)/6400-6800rpm
タイヤ:(前)215/40R18 85Y/(後)215/40R18 85Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:11.6km/リッター(JC08モード)
価格:353万1600円/テスト車=353万1600円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:537.9km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:537.9km
使用燃料:49.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.9km/リッター(満タン法)/9.5km/リッター(車載燃費計計測値)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。























































