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第472回:知らぬは日本人ばかりなり!?
ネクセンの最新工場から韓国タイヤの今を読み解く

2018.01.21 エディターから一言
韓国第3のタイヤメーカーであるネクセンタイヤ。今回は同社の昌寧(チャンニョン)工場を取材した。
韓国第3のタイヤメーカーであるネクセンタイヤ。今回は同社の昌寧(チャンニョン)工場を取材した。拡大

欧米では高い評価を得ているものの、わが国ではイマイチ知られていない韓国のタイヤメーカー。その一角を担うネクセンタイヤが、このほど日本市場への本格参入を果たした。最新の生産設備を有する同社への取材を通し、お隣の国のタイヤ産業の“今”を探った。

ネクセンタイヤは、日本では複数の販売会社が個別に輸入を行っていたが、2016年11月にネクセンタイヤと豊田通商のジョイントベンチャーとしてネクセンタイヤジャパンが発足。日本への本格導入が開始された。
ネクセンタイヤは、日本では複数の販売会社が個別に輸入を行っていたが、2016年11月にネクセンタイヤと豊田通商のジョイントベンチャーとしてネクセンタイヤジャパンが発足。日本への本格導入が開始された。拡大
ネクセンのラインナップで、初めてポルシェの標準装着用タイヤとなった「N'FERA RU1」。まずは「カイエン」から採用された。
ネクセンのラインナップで、初めてポルシェの標準装着用タイヤとなった「N'FERA RU1」。まずは「カイエン」から採用された。拡大
桂 伸一氏がフランスで試乗した「アウディRS 5クーペ」には、ハンコックの「ヴェンタスS1エボ2」が装着されていた。
桂 伸一氏がフランスで試乗した「アウディRS 5クーペ」には、ハンコックの「ヴェンタスS1エボ2」が装着されていた。拡大
「カイエン」に続き、標準装着用タイヤとして「ネクセンN'FERA RU1」が採用されたポルシェのSUV「マカン」。
「カイエン」に続き、標準装着用タイヤとして「ネクセンN'FERA RU1」が採用されたポルシェのSUV「マカン」。拡大

日本では影の薄い存在だけど……

読者諸兄姉の皆さまは、韓国のタイヤメーカーと聞いてどんなイメージを持つだろう? ブリヂストンなら“世界シェアNo.1”、ミシュランなら某ガイド本と“顧客満足度No.1”、ピレリなら“F1とスーパーカー”。では、ハンコックは? クムホは?

ちょっと詳しい人なら、DTM(ドイツツーリングカー選手権)にタイヤを供給し、SUPER GTでポルシェを走らせていたハンコックに、モータースポーツのイメージを持っているかもしれない。しかし、ブランドイメージとして個別に挙げられるのはその程度で、後は「アジアタイヤ」という漠然としたくくりで“十把ひとからげ”にされてしまっているのではないだろうか。

恥ずかしながら、記者も深い知識は持ち合わせていなかったので、本稿を書くにあたり少し調べてみた。例えば2017年10月に更新された「ブリヂストンデータ」によると、2016年のグローバル市場(売上高ベース)におけるハンコックのシェアは3.3%。これは横浜ゴムの2.8%より高い数字で、同社は“世界第7位のタイヤメーカー”にあたる。一方、クムホも1.6%と、アメリカなどで人気を博す東洋ゴム(1.8%)に迫るところに位置している。

プロダクトに対する評価という観点で見ても、多くのプレミアムブランドが日欧メーカーの製品と並んで、韓国のタイヤを標準装着品としている。『webCG』の試乗記を掘り起こせば、桂 伸一氏がリポートを寄せた「アウディRS 5クーペ」はハンコックを履いていたし、最近ではネクセンの「N'FERA RU1」が、「ポルシェ・マカン」の標準装着用タイヤに選ばれたニュースがギョーカイをにぎわせた。世界的に見れば韓国タイヤはすでに一定の評価を得ている存在で、日系メーカーが幅を利かせる日本での評価のほうが、どちらかといえばドメスティックなのかもしれない。

このように、日本のユーザーにとって近くて遠い存在である韓国タイヤ。今回のリポートの主役は、そんな韓国主要メーカーのひとつである、ネクセンタイヤである。

世界的にも珍しい“タイヤのスマート工場”

ネクセンタイヤはハンコック、クムホに次ぐ韓国第3のタイヤメーカーで、グローバルでは年間約4000万本(2016年の実績)のタイヤを販売している。1942年設立の興亜(フンア)ゴム工業を起源に持ち、1956年には韓国初となる自動車用タイヤの生産を開始。ミシュランタイヤの現地生産(1987年)や、オーツタイヤ(2003年に住友ゴム工業に吸収)との技術提携(1991年)などを通して技術を磨いてきた。現在の社名となったのは2000年のことで、これ以降、欧米や中国を中心に世界展開を推進。2016年には、豊田通商とのジョイントベンチャーとしてネクセンタイヤジャパンを発足させ、日本市場へも本格参入を果たした。

今回訪問したのは、2012年に稼働した同社の昌寧(チャンニョン)工場である。いわゆる“本社工場”にあたる梁山工場、2008年に稼働した中国の青島工場に続く、ネクセン第3の生産拠点だ。

同工場は「世界に10カ所しかない」というタイヤのスマート工場であり、徹底した情報管理とオートメーション化を特徴としている。実際、各工程が直線状に配置された生産ラインの見学では、建物の採光のよさやゴムの臭いの少なさに加え、とにかく人気のなさに驚かされた。建屋内を無人の運搬機が行き来し、機械が勝手にタイヤを作っていく様は、どことなく、人の代わりにロボットが働くSF世界の工場を思わせる。

この徹底したオートメーション化を実現するため、工場内では部品の搬入から製品の出荷に至るまで、すべての工程で部品やタイヤをRFIDとバーコードで管理。この情報管理システムは品質の向上と均一化にも寄与しており、昌寧工場は334ppmという低い不良率を実現している。これはタイヤ100万本あたりの不良品数が334個ということで、「大手メーカーのだいたい半分の低さ」とのことだった。

2012年に稼働した昌寧工場。高度な情報管理システムとオートメーション技術が導入された、スマート工場である。
2012年に稼働した昌寧工場。高度な情報管理システムとオートメーション技術が導入された、スマート工場である。拡大
ロビーには「ポルシェ・カイエン」向けに納入される純正装着用タイヤの生産第1号が展示されていた(中央)。
ロビーには「ポルシェ・カイエン」向けに納入される純正装着用タイヤの生産第1号が展示されていた(中央)。拡大
昌寧工場の生産ラインの様子。人気のない建屋内を、タイヤの材料を積んだ自動運搬機が行き来している。
昌寧工場の生産ラインの様子。人気のない建屋内を、タイヤの材料を積んだ自動運搬機が行き来している。拡大
タイヤの構成素材を組み合わせ、“グリーンタイヤ”を作る成形工程。各タイヤにはここでバーコードが振られ、個別に情報管理されるようになる。
タイヤの構成素材を組み合わせ、“グリーンタイヤ”を作る成形工程。各タイヤにはここでバーコードが振られ、個別に情報管理されるようになる。拡大

人件費より大事なもの

この昌寧工場、当初は年産600万本という規模で操業を開始したが、2014年のライン増設により、現在は年産1100万本の生産能力を有している。さらにネクセンでは同工場の生産増強を計画しており、すべてのラインが完成する2024年には年産2100万本を実現。最終的には年産3500万本という、世界最大規模の乗用車用タイヤ工場とする予定だ。このほかにも、ヨーロッパでは2015年にチェコのジャテツで新工場の建設に着工。この工場は、昌寧よりさらにオートメーション化を推し進めたスマート工場になるという。

……と、ここまで読まれた読者諸兄姉、特にギョーカイに詳しい人のなかには、「あれ?」と思った方もおられるだろう。ネクセンは製造業のトレンドに反し、今のところ新興国での生産を計画していないのだ。昌寧への工場新設を決めた際にも、他のメーカーが人件費の安い海外へと進出していったのに対し、あえて韓国国内で生産力を高める道を選んだ。理由は、当時ネクセンが新工場に求めていた役割にあるのだろう。

タイヤの製造にかぎらず、情報化とオートメーション化を推し進めたスマート工場は、新興国に建てることが難しい。複雑な生産設備や高度な管理システムを有するため、運営や保守管理に高い技術力が求められるからだ。高品質・高付加価値の製品にこだわるネクセンにとっては、人件費の低い新興国より、産業が成熟し、教育レベルの高い人材がそろう韓国国内の方が“好条件”だったのだろう。

“グリーンタイヤ”を加熱・加圧するとともに、トレッドパターンなどのデザインを施す加硫工程。1日につき200本のタイヤを加硫する加硫機が、8本のラインにそれぞれ19機並べられている。
“グリーンタイヤ”を加熱・加圧するとともに、トレッドパターンなどのデザインを施す加硫工程。1日につき200本のタイヤを加硫する加硫機が、8本のラインにそれぞれ19機並べられている。拡大
タイヤに貼られたバーコード。工場内での情報管理はもちろん、万が一不良品が出た場合には、この情報から生産日などを特定することができる。
タイヤに貼られたバーコード。工場内での情報管理はもちろん、万が一不良品が出た場合には、この情報から生産日などを特定することができる。拡大
オートメーション化が進んだとはいえ、生産現場から人が不要になるわけではない。生産設備が高度になる分、スマート工場では優秀なエンジニアが必要とされるのだ。
オートメーション化が進んだとはいえ、生産現場から人が不要になるわけではない。生産設備が高度になる分、スマート工場では優秀なエンジニアが必要とされるのだ。拡大

製品に見るネクセンタイヤのこだわり

こうした姿勢は製品の企画やラインナップにも表れている。例えば日本市場への本格進出に際し、ネクセンは日本側から「キャッププライを省いた安価なスタンダードタイヤを作ってほしい」と求められたという。しかし、ネクセン側はそれを受け付けなかった。剛性の低いタイヤでは、高速走行性能や、石畳や波状路における走破性などが担保できないからだ。そんなわけで、ネクセンのタイヤはスタンダード商品であってもすべて“フルキャップ”の構造をとっている。

もちろん、市場に応じて製品を作り分けるのは悪いことではない。日本市場でキャッププライを省いたスタンダードタイヤが広く流通しているのは、日本の交通は車速域が低く、そこまでの高性能を求めていないユーザーが確かにいるからだ。そうしたユーザーに対して安価に商品を提供するのも、メーカーのあるべき姿だろう。

ただ、日本や欧米がそうであるように、韓国のなかにも「パフォーマンス優先・顧客満足度第一」という姿勢を取るメーカーがあることは、知っておいて損はないはずだ。

以前から複数の販売会社が取り扱っていたネクセンだが、ようやく日本代理店が発足したことで、今後はよりユーザーに届きやすい製品となるだろう。なかにはアジアの製品、韓国の製品というだけで頭ごなしに否定する人もいるかもしれないが、態度を決めるのは実物に触れてからでも遅くはないと思う。

(webCG ほった)

今回の取材では、昌寧工場に続いてプルービンググラウンドも見学した。
今回の取材では、昌寧工場に続いてプルービンググラウンドも見学した。拡大
プルービンググラウンドでは、「フォルクスワーゲン・ポロ」のリアシートでネクセンタイヤの乗り味を体感。限定的な状況だったので確かなことは言えないが、ポロ用の純正装着タイヤが非常に高いドライグリップ性能を有していることだけは分かった。
プルービンググラウンドでは、「フォルクスワーゲン・ポロ」のリアシートでネクセンタイヤの乗り味を体感。限定的な状況だったので確かなことは言えないが、ポロ用の純正装着タイヤが非常に高いドライグリップ性能を有していることだけは分かった。拡大
いよいよ日本市場に本格参入したネクセンタイヤ。タイヤ量販店の店頭で製品を見かける機会も増えることだろう。
いよいよ日本市場に本格参入したネクセンタイヤ。タイヤ量販店の店頭で製品を見かける機会も増えることだろう。拡大
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