BMW118iスポーツライン(FR/6MT)【海外試乗記】
ダイナミクスで勝負 2011.08.14 試乗記 BMW118iスポーツライン(FR/6MT)2011年内の日本導入が予定される2代目「BMW1シリーズ」にドイツで試乗。新型はどんなクルマに仕上がっていたのか!?
ルックスは癒やし系?
2004年のデビュー以来、BMWの入門モデルとして、また、貴重なFRコンパクトカーとして人気を博してきた「1シリーズ」。その累計販売台数は120万台を超え、なんと7割方を他ブランドから、分捕った。その間、「3シリーズ」もまた好調なセールスを持続していたわけだから、BMWブランドの顧客層が当初の狙い通り、ダイナミックに増えたと言えそう。
7年ぶりのフルモデルチェンジとなったが、それでもなお、ご覧の通りのキープコンセプトである。先代のフォルムを守ったデザインの熟成やエフィシェンシー(燃費効率)のさらなる向上、テレマティクスの進化、といった項目もさることながら、ダイナミクス性能でクラスナンバー1の座を堅守することが最大の開発テーマだったという。
正直に言うと、写真で初めて見たときから日の光のもとで現物を見るまで、「カタチはまったく代わり映えしないし、ま、どうってことないフルモデルチェンジで、きっと、ただええクルマなんだろう」くらいに思って悠長に構えていたのだ。否、実車を目の当たりにしてもまだ、「どうしてこんなブサかわいい顔になったんやろ」などとぶつくさ言っていた。
ところが……。よくよく観察してみれば、先代のフォルムを守りながらも、ホイールベースを長く、トレッドもワイドとしたことで、よりスポーティで安定感のあるスタイリングとなり、以前よりも随分と力強い印象だ。そこにエンジンフードやサイドパネル、ショルダーエッジ、サイドウィンドウのキックといった凝ったディテールを組み合わせることで、新しさの演出も十二分。
特にサイドプロポーションが素晴らしい。ノーズの下がり具合など「Z4」に共通する雰囲気もあり、ロングノーズが強調され、リアドアの適切なサイズが間延び感を打ち消し、リアホイールハウスに力をため込む。巧妙なスタイリングである。
インテリアは、最新のBMWトレンド。ちょっと見飽きた感もあるが、1シリーズではパーソナル色=ドライバーコンシャスをいっそう強めた。助手席に座ると疎外感を覚えるほど。ダッシュボードのチープな質感だけが、最廉価シリーズであることを物語る。
“なめていた”ブサかわいい顔つきも、途中から「これもアリだ」と思えてくる。キツい顔ばかりの昨今、癒やし系に流行のキザシあり、である。
エンジンに官能性は求めない
新型1シリーズは、ガソリンエンジン2種類、ディーゼルエンジン3種類をまずはラインナップする。日本に関係のある前者は、いずれも直噴1.6リッターのツインスクロールターボで、出力の異なる「116i」(136ps)と「118i」(170ps)が用意された。本国では6MTが標準となり、オプションで8ATをチョイスすることもできる。
前述したように、ドライビングダイナミクスでクラスナンバー1が大命題だったから、慎重に鍛え上げられたのがシャシーであろう。形式こそ従来モデルと変わらないが、サイズアップ対応とシャシー性能向上のため、ワイドトレッド化、バンプラバー追加、サポートベース剛性アップ、フロントアクスル軽量化、などが施されている。
シャシーにはノーマルタイプのほか、MスポーツサスペンションやアダプティブMサスペンション仕様の用意もあるが、後者の日本導入は未定とのこと。
また、今回の新型1シリーズから、「ノーマル」に加えて、「スポーツ」「アーバン(日本での呼称は“スタイル”になる)」という3つの仕様から選べるようになった。パッケージオプションではなく、最初から好みに応じて選べるということ。メルセデスの「アバンギャルド」と「エレガンス」のようなものだ。この「BMWライン」方式は順次、フルモデルチェンジしたシリーズに適応していくらしい。
官能エンジンとシャシー性能のBMWから、官能シャシー性能のBMWへ。「5シリーズ」以降、顕著になっていたブランドのドライビングキャラクターが、この1シリーズで決定的になった。すなわち、もはやエンジンに官能性は求めず、ライドフィールにすべてそれを求める、である。試乗車は、「118i」(6MT)のスポーツラインにMスポーツサスペンションを装着したモデルだった。
3シリーズの上をいく
ジャージ風のスポーツシートに腰を落ち着け、ゆっくりと走り出す。ボンネットが高く、ミラーが大きい(BMWではじめてターンインジケーター内蔵式となった)ため、ちょっと前が見づらいが、そんなことは、一つ二つ段差を越え、ひとつめの角を曲がって、クルージングに入ったころにはすっかり忘れてしまっていた。
とにかく、極上の乗り心地に、しばし言葉も出ず、同乗した渡辺敏史君とともに、しばらく“ああ”とか“うう”とか“ほほ”とか“ひょえ”とか、およそ会話にならない声を発する始末。高速道路に乗ってしまえば、1シリーズをドライブしている最中だなんて、とても信じられない。現行3シリーズよりも、間違いなく上をいくライドフィールだ。
村と村とを結ぶカントリーロードを80〜100km/hで流すことも、これまたたまらなかった。フツウは単調なドライブになりがちで、助手席ともども危うくクルマではなく船をこぐことになりかねない。ところが……。1シリーズは違った。定速で流していても、思ったとおりのラインを思ったとおりに走ってくれることが何より気持ちいい。とてもリズミカル。上手なドラムスとベースにのせられて、最後まで気分よくギターを弾き切った、そんな印象だ。
エンジンそのものに以前のような官能性は皆無である。ただただ必要十分なパフォーマンスを発揮するのみ。けれども、それを補って余りある、乗り心地とハンドリングの良さがあった。後味もまた、爽やかだ。
日本上陸は年内。おそらくは、カーナビゲーションなどをオプションとして、「116i」で300万円台前半、「118i」で300万円台後半となるのではないか。まず間違いなく、クラス“ダントツ”ナンバー1のダイナミック性能をもつコンパクト5ドアがその値段で手に入る。旧型と同様に、追加が予想されるモデルともども、先が楽しみな一台だ。
(文=西川淳/写真=BMWジャパン)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。