日産セレナNISMO(FF/CVT)
ボディー剛性は家族のために 2018.02.23 試乗記 「日産セレナ」に、見た目と走りをスポーティーに仕立てた「セレナNISMO」が登場。日産のモータースポーツ部門の名を冠したミニバンは、ドライバーのスポーツドライビング欲求を満たすのみにあらず! 同乗する家族も幸せにする、トータル性能の高い一台に仕上がっていた。ただのミニバンではないぞ!
「すごくいいクルマをご用意しましたよ。ミニバンなのに、シートがRECAROなんです!」
相変わらずwebCG編集部、F青年のセールストークは流れるようだ。確かに興味深い。ミニバンも多様化しているのだから、走り仕様のモデルがあってもいい。
夜になってF青年がセレナNISMOを届けにきてくれた。暗いのでよく見えないが、どこか違和感がある。
「これ、RECAROじゃないよね?」
「あー、そうみたいです~。ま、お気になさらず」
「……」
結局、試乗車にはRECAROシートのオプションが未装着だった。だが、そのくらいのことでガッカリしてはいけない。日産のモータースポーツ活動を担うNISMOが仕込んだクルマである。専用デザインが用いられているのはもちろん、パワーユニットを制御するコンピューターにもチューニングが加えられているという。ただのファミリーカーではなさそうだ。セレナには何度も乗っているが、期待してしまうではないか。
その日は駐車場まで乗っただけで、翌日の早朝にあらためて対面した。離れたところから見ても、ギラギラしている。ドスが利いていて、近寄りがたいオーラが漂う。フロントグリルやバンパーは専用デザインで、空力性能を高める形状が採用されている。バンパー下にNISMOのアイコンカラーである赤のラインが走り、サイドに回り込んでリアまで続く。ドアミラーにも赤いラインが施されている。ルーフ後端に取り付けられた専用スポイラーは、かなり目立つ形状だ。17インチアルミホイールも専用デザインで、全体からただのミニバンではないぞという主張が伝わってくる。
すごみを感じさせるエキゾーストノート
セレナは売れ筋ミニバンだから、近所の人も乗っている可能性が高い。知り合いと同じクルマに乗るのはちょっとイヤだと感じてしまうのが人情だ。当たり前のセレナでは飽き足らずに「ハイウェイスター」を選ぶわけだが、同じことを考える人が多い。当たり前のハイウェイスターでも不満な人は、セレナNISMOの特別感に引きつけられるだろう。
運転席に収まっても、自分がNISMOに乗っているという優越感は続く。インテリアは黒基調で、ステアリングホイールやシフトノブには赤いステッチが施されている。メーターやセンタークラスター、エンジンスターターボタンなどの彩りも赤だ。ダッシュボードにはシート地と同じスエード調素材が使われていて、感触が柔らかい。他の要素がスポーティーなのに、ここだけはコンフォータブル志向のように感じる。走り志向でも、ミニバンなのだから快適性も重要なのだ。
少しずつアクセルを踏んでいくと、明らかにノーマルとは違うサウンドが響いた。乾いた音質のエキゾーストノートで、すごみを感じさせる。高回転まで軽々と回りそうだ。さらにアクセルを踏み込むと、爆発的な加速が始まってあっという間にとんでもない速度に達する……ということにはならない。エンジンは通常モデルと同じなのだ。
音質が違うのは、スポーツチューンドマフラーを装着しているからである。専用チューニングのコンピューターを使って加速のリニア感を高めているというが、2リッター自然吸気エンジンのマイルドハイブリッドなのだからパワーには限界がある。高速道路で追い越しをかける時は、思い通りの加速にならずもどかしい思いをした。エンジンのサウンドを聞いて、期待を高めすぎたのかもしれない。
ボディーの9カ所を補強
ノーマルセレナに対する最大のアドバンテージは、パワーユニットではなくボディーにある。モータースポーツで培われたテクノロジーを使って大がかりな補強が行われている。フロントクロスバー、フロントサスペンションメンバーステー、センタークロスバー、センターサブメンバー、センターサブメンバーブラケット、センターアンダーブレース、リアクロスバー、リアサブメンバー、リアサブメンバーサポートと、全9カ所に手が入れられた。
大きくて重心の高いミニバンは、どうしてもふらつきが生じやすい。セレナNISMOは補強によってボディーのねじれを抑制し、専用サスペンションを用いてハンドリング性能の向上を狙ったという。レスポンスのよさはドライバーにとっては福音だが、運転していて感じたのはむしろ乗り心地のよさだった。
ボディー剛性が上がれば、無駄な動きが抑えられて乗員の体が揺さぶられることは少なくなる。ミニバンは後席に乗る家族が主役なのだ。ルームミラーで後ろの様子をうかがうと、webCG編集部のYさんが気持ちよさそうに寝息を立てていた。2列目の乗り心地も上々のようである。
セレナが大々的にアピールしている「プロパイロット」は、もちろん装備されている。前に乗った時には少々不満点があったが、ボディー剛性向上によって直進性が改善されていれば、神経質なステアリング制御は減少しているのではないかと期待した。しかし、残念ながらまだぎこちない動きが目立った。曲率が一定のコーナーでも、小刻みに修正舵が入る。専用デザインのステアリングホイールには赤のセンターマークが付けられているので、落ち着きのない動きがかえって目立ってしまった。
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2つのサブブランドを使い分ける理由とは!?
せっかくなので、「インテリジェントパーキングアシスト」も試してみた。車庫入れと縦列駐車を補助する機能である。シフトの切り替えはドライバーが行わなければならないが、モニター上で駐車場所を設定すると自動でステアリング操作を行って枠の中に導いてくれるという触れ込みだ。あいにく、これも残念な報告になってしまう。枠は認識したものの、実際には2つの枠をまたいで止まってしまった。「ホンダ・ステップワゴン」と同等の出来である。「日産リーフ」の「プロパイロットパーキング」は完全自動で正確に動作したが、セレナのシステムはセンサーからして違うので性能的にはかなり劣る。
NISMOのロードカーは、セレナのほかに「GT-R」「フェアレディZ」「ジューク」「ノート」「マーチ」がある。GT-RやフェアレディZはもともとスポーティーなモデルだが、ほかは穏健派のクルマだ。ファミリーユースでも、走りの良さを求めるユーザーが増えているのだろう。トヨタの「GR」シリーズも「ヴィッツ」や「アクア」をラインナップしていて、同じような展開を考えているようだ。
日産には「AUTECH」もあり、すでに「セレナAUTECH」も登場している。ボディー補強などは共通で、多くのパーツを共用する。違いはNISMOの赤に対し、AUTECHは青をイメージカラーにしていることだ。2つのサブブランドを使い分けているのは、このマーケットに高い可能性を見ていることの表れだろう。
トヨタのエンジニアは、「GRを作ることでベース車の性能が向上する」と語っていた。レーシング部門が手がけていると聞くとハードでスパルタンなモデルなのかと思ってしまうが、モータースポーツで得た技術を使って市販車の基本性能を上げることが目的なのだ。セレナNISMOも、ボディー剛性を高めることで乗り心地を向上させている。恩恵を受けるのは、2列目、3列目に乗る家族なのだ。
とはいえ、RECAROのシートに座れなかったのは心残りである。ミニバンとコテコテのスポーツシートの組み合わせという強烈な違和感を体験したかった。運転手を務めるお父さんは欲しくなる装備だが、27万5400円のオプション価格を知った家族が賛成してくれるかどうかはわからない。
(文=鈴木真人/写真=三浦孝明/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
日産セレナNISMO
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4808×1740×1850mm
ホイールベース:2860mm
車重:1720kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:150ps(110kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:200Nm(20.4kgm)/4400rpm
モーター最大出力:2.6ps(1.9kW)
モーター最大トルク:48Nm(4.9kgm)
タイヤ:(前)205/50R17 93W/(後)205/50R17 93W(ブリヂストン・ポテンザ アドレナリンRE003)
燃費:--km/リッター
価格:341万9280円/テスト車=431万2451円
オプション装備:日産オリジナルナビ取り付けパッケージ<ステアリングスイッチ[オーディオ]+6スピーカー+TVアンテナ+GPSアンテナ+リアビューモニター用プリハーネス>(2万7000円)/NISMOセーフティーパック(11万3400円)/ボディーカラー<ブリリアントホワイトパール×ダイヤモンドブラック・2トーン>(7万5600円)/快適パック(3万7800円)/オートデュアルエアコン+前席クイックコンフォートヒーター付きシート+寒冷地仕様<サードシート足元ヒーターダクト+PTC素子ヒーター+高濃度不凍液+ヒーター付きドアミラー>(7万2360円) ※以下、販売店オプション ナビレコツインモニターパック<日産オリジナルナビゲーション「MM516D-L」+ナビゲーション連動ETC2.0[NISMO]+後席専用モニター+ドライブレコーダー>(42万2259円)/NISMOフロアマット<超ロングスライド用 ブラック>(7万4088円)/NISMOエントランスプレート(5万9616円)/ウィンドウはっ水(1万1048円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:485.7km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:387.1km
使用燃料:38.9リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:10.0km/リッター(満タン法)/10.2km/リッター(車載燃費計計測値)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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