第485回:ディーゼルエンジンは今後どうなる?
フォルクスワーゲンの開発責任者に聞く
2018.02.23
エディターから一言
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ディーゼルエンジンを搭載する「フォルクスワーゲン・パサート/パサートヴァリアント」の発表・発売(2018年2月14日)にあわせて、同社のディーゼルエンジン開発責任者が来日した。2015年に排ガス検査の不正問題で大いに世間を騒がせたフォルクスワーゲンのディーゼルは、この先どうなるのか。現状と今後の課題について、話を聞いた。
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ドイツではディーゼル車が不人気!?
――ドイツでは、「ゴルフ」や「パサート」のディーゼル比率はどのくらいですか?
エッケハルト・ポット氏(以下、ポット):ゴルフの約45%、パサートの約70%がディーゼルエンジン車です。ゴルフは個人のお客さまが多く、一方、パサートはビジネス客が多いのですが、その違いが数字に表れています。いまドイツでは、個人のお客さまの間でディーゼル車のシェアが減っています。ドイツには、一定の環境基準を満たさないと自動車の市街地への進入を規制する「環境ゾーン」があり、この規制がさらに強化されるとディーゼル車の運転ができなくなるのではないかという心配があって、その行方が不透明ということから、個人客が買い控えているという状況なのです。あと数週間で新しい独政府が立ち上がりますが、早期に議論を決着させてほしいものです。
――フォルクスワーゲンには仕様の異なるディーゼルエンジンがありますが、基本的な設計は同じなのですか?
ポット:最新の「EA288」ファミリーのTDIエンジンは、基本的なアーキテクチャーはすべて同じです。排気量が違っていても、シリンダーブロックはほぼ同じなので、1.6リッターと2リッターは、外から見ただけでは区別がつきません。
――ヨーロッパ仕様と日本仕様には違いがあるのですか?
ポット:ハードウエアもセッティングも、ヨーロッパ仕様と日本仕様に違いはありません。日本の規制に適合させるために触媒を変えるといったこともしていません。ですので、もし、日本市場でフォルクスワーゲンのディーゼル車の需要が急激に増えたとしても、それに対して供給を増やすことは難しくないのです。
“ディーゼルゲート”の影響は?
排ガス検査不正問題、いわゆる“ディーゼルゲート”がTDIの販売に大きく影響を与えましたか?
ポット:販売に対するディーゼルゲートの影響は短期間でした。ヨーロッパにおける販売全体を見ると2013年から増加を続けています。ただ、ディーゼル車の需要は減っています。しかし、それはディーゼルゲートの影響ではなく、先に述べた環境ゾーンの規制強化が原因です。規制が本当に実施されるかどうか不透明なことが、買い控えにつながっているのです。
――ヨーロッパではさらに厳しい排ガス規制が検討されているようですが、フォルクスワーゲンは対応が可能ですか?
ポット:ヨーロッパでは2017年からEURO6d-TEMP、近い将来にはより厳しいEURO6dへと規制が強化される予定です。その先にはさらに厳しいEURO7に移行すると思われますが、それに対応するのが私の役割でもあります。現時点ではどの程度厳しい規制になるのかは一切明らかにされていませんが、フォルクスワーゲンとしては、EURO6dの半分という数字を想定して開発を進めており、技術的にはEURO7への対応は可能と思います。エンジンから排出される有害物質を低減するとともに、排ガスの後処理の最適化と組み合わせるアプローチになります。
――規制次第ではディーゼルを諦めるという選択肢もあるのでしょうか?
ポット:いいえ、それは考えられません。ヨーロッパ市場におけるディーゼルのシェアは非常に大きいわけですから。
ディーゼルエンジンはこれからも進化する
――日本でTDIに乗るメリットは、どんなことが考えられるでしょうか?
ポット:TDIは低速トルクが豊かであるため、都市部の渋滞の多い道路で快適に運転できると思います。また、ディーゼルエンジンはガソリンエンジンに対して、実燃費が20%良いというデータがありますので、走行距離が多い人にはメリットがあります。逆に、年間の走行距離が短い人には、ディーゼルエンジンよりも適した選択肢があるとは思いますが。
――日本人にはエンジン音の大きさを気にする人が多いですが、それについてはどうお考えですか?
ポット:ここ数年でフォルクスワーゲンのTDIは、エンジン音が大幅に低減されました。現行のTDIエンジンは、これまで開発してきた中で最も静粛性が高いものになっています。アイドリング時のエンジン音が大きいことはわれわれも理解していまして、アイドリングストップシステムの改善も行ってきました。一般的に、ディーゼルの効率が高いのは、ガソリンに比べて燃焼のプロセスが若干ラフなところにあります。ガソリンと同等のスムーズな燃焼になると、せっかくの効率が損なわれるのです。「ガソリンと同じくらいに静かだけれども燃費もガソリンと同等」になってしまうと、ディーゼルを作る意味はないでしょう。もちろん、できるかぎり静かなエンジンを作る努力は続けていくつもりです。
――フォルクスワーゲンのTDIは今後も進化を続けるということですね。
ポット:ディーゼルエンジンの進化はとどまるところを知りません。もしディーゼルエンジン車が姿を消すようなことがあれば、CO2低減の目標実現がいま以上に難しくなってしまいます。大切なのは、できるだけ早い段階でNOx低減を行おうとか、PM低減を行おうという議論です。その実現に向けて、常に最も良い技術を世に出していくのが、私たちの役割と考えています。
(文=生方 聡/写真=生方 聡、フォルクスワーゲン、webCG/編集=関 顕也)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。