ホンダ・スーパーカブ110(MR/4MT)
カブに始まり カブに終わる 2018.03.10 試乗記 今年でデビュー60周年! 1958年の誕生以来、世界中で人々の生活を支えてきた「ホンダ・スーパーカブ」だが、その魅力はただ便利で実用的なだけではなかった。“丸目ランプ”を取り戻した最新モデルの試乗を通し、カブならではのライディングの楽しさに触れた。カブマニアもこれで納得
シリーズ累計1億台を超え、文句なしに世界で一番売れているのがホンダのスーパーカブ。最近じゃ日本だけでなく世界各国で人気が高くなってきている。
昔、カブは生活の足、仕事の道具として高度成長期の日本を支えた。けれど最近の日本では事情がずいぶん違う。「カブがなきゃ仕事にならない」なんていう人たちはずいぶん減ってきて、その代わり、趣味の乗り物として認知されるようになってきた。若い人たちもこのスタイルに引かれてカブに興味を示すようになった。
ところがそんなカブが、少し前まで好きな人たちに散々な言われ方をしていた。マーケットの中心がアジアになり「需要があるところで生産する」という考え方から生産も中国になった。そしてその時から、カブのデザインが変わったのである。新世代のカブと言われていたが、今までのカブを見慣れていた人たちからすると違和感ばかり。バイクとしての完成度は上がっていたけれど、このスタイルが嫌われすぎた。たぶんカブマニアたちからすると、カブの魂を中国に放り投げてしまったかのように見えてしまったのだろう。
そんなカブが2017年、日本に戻ってきた。往年のカブスタイルとなり熊本生産となって、カブを愛する人たちをホッとさせたのである。実際、このニュースには、相当に多くの人たちが喜びの声をあげた。スーパーカブは日本人の心となりつつあるということなのである。
実用的なだけじゃない
実はスーパーカブ、冷静に見てみると相当に素晴らしいバイクに進化している。なんといってもエンジンのフィーリングがいい。「動きゃいいだろ」的な実用車的なエンジンではない。ガサガサとしたノイズやバイブレーションがなくて、とてもスムーズで気持ちの良い回り方をする。
110ccのエンジンは低回転からトルクも十分にあって、都内を走っていてもパワー不足は感じない。片側3車線の幹線道路で走っても周囲のクルマを気にせず交通の流れに乗って走ることができる。単に移動手段としてではなく、走りを楽しむことができるエンジンになっている。
ハンドリングも、フロントフォークが昔使われていたボトムリンクから一般的なテレスコピックになったおかげで、減速からバンクさせるあたりの動きが素晴らしい。ニュートラルだし、軽量なバイクらしからぬ安定感もある。
エンジンにしてもハンドリングにしてもスポーツバイクのように、限界がメチャクチャに高くて、その下の方を使って走っているような、いわゆる使いきれていない感じではなく、普通に都内を走っているだけで、性能を使えている感じの気持ち良さがある。これが現行スーパーカブの持っている最大の魅力(走りに関して)である。
![]() |
![]() |
![]() |
旅のお供に最適な存在
昔の日本人体形にあわせて作られているためか、シートとハンドルの間隔が近いので体格が大きいともう少し後ろに座りたくなったりもするのだけれど、慣れたら気にならなくなるであろうレベル。ドラムブレーキは、ディスクのようにガツンとは利かないけれど、カブの動力性能ならこれで十分。こういうところ、やりすぎるとどんどんカブらしさが消えてしまう。
実は筆者の周囲では、最近カブでツーリングに行くという友人たちが増えている。のんびり移動していくと見える景色が違ってくるらしい。旅先で出会う人と会話する機会が増えるんだとか。現行モデルのサスとシートはずいぶん出来がいいから、これだったら長距離もいけるだろう。荷物も積めるし、燃費もいい。理想的な旅バイクだ。
最近あまり聞かなくなったけれど、筆者が免許を取った頃には「バイクはカブで始まって、カブで終わる」なんていう人がたくさんいた。本当にそうかもしれないと、こいつに乗っていると思ってしまうのである。
(文=後藤 武/写真=三浦孝明/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=1860×695×1040mm
ホイールベース:1205mm
シート高:735mm
重量:99kg
エンジン:109cc空冷4ストローク単気筒OHC 2バルブ
最高出力:8.0ps(5.9kW)/7500rpm
最大トルク:8.5Nm(0.87kgm)/5500rpm
トランスミッション:常時噛合式4段リターン
燃費:62.0km/リッター(国土交通省届出値 定地燃費値)/67.0km/リッター(WMTCモード)
価格:27万5400円